第39話
「諒花。連日、続々と現れる敵に絡まれて、また大変なことになってきたな……」
朝食を食べながら向かい側の席に座る花予。やれやれとした様子だ。
「別に大丈夫だ、ハナ。一昨日襲ってきたハチ野郎は一人で倒せたし、昨日のサソリ野郎も途中、石動さんが来てくれたし」
ご飯を口に運びながら余裕な口調で話す初月諒花。
昨日のハロウィーンも夕暮れにスコルビオンとかというサソリ野郎が攻めてきた。二日連続だった。一昨日もビーネットを撃破したあの後も遅刻してきたとはいえ、現れたヤクザに絡まれて大変だったことがひとまず学校で通っても騒動については聴取されることもなく、めんどくさいことにならずに済んだ。石動だけでなく、滝沢家も裏で手を回してくれたようでひとまず滝沢家の無駄な抗争に巻き込まれたということで落ち着いた。
「こっちはいなくなった零ちゃんを一刻も早く見つけたいのにどういうつもりなんだか。ワイルドコブラとやらは」
「滝沢家の方でなんとかしてくれるって翡翠や石動さんが言ってた。攻撃をすぐに止めることはできないって言われたからアタシが気をつけるしかないな」
「また始まったんだなって思うよ。ひとまず、表の事はいつも通りあたしや蔭山さんに任せて。石動さんや翡翠ちゃんもいるなら、負担も減りそうだ」
「そうか」
蔭山さん──蔭山貴三郎とは警視庁組織犯罪対策第一課、第15対策係の普段は窓際族にされている警部で初月家とは古くから親交のある刑事だ。
花予は叔母であり義母だが、父親のいない諒花にとってはたまにやってくる蔭山は亡き母と生前交流があったこともあり、近所のおじさんというよりも父親代わりのような存在でもある。
零がいた時からだが、この街に敵が現れて自分達が戦っていることは学校には当然内緒にしている。というか学校はそこまで敏感ではなく、遅刻してもならず者に絡まれたと事情を話せばすんなり受け入れてくれる。とはいえ絡まれやすいことを逆に心配されているが。
メディカルチェックが不合格になっても体育の授業は義務教育として受けさせてくれたり──チカラが誤発動しないように昔から気をつけているが不思議なことにそれで迷惑をかけたことはない──表には出さないだけで普通の人間の中に異能者が紛れていることは密かに把握しているのかもしれない。
でなければ自分達より前は異能者の生徒がいたらどうしていたのかという疑問にブチあたるからだ。
こう自分で考えるのもどんな些細な疑問にも分かりやすく答えて教えてくれていた零の影響かもしれない。いなくなって当たり前じゃなくなったからそう思うのかもしれない。
本当に学生がチカラを使って暴れようものならその時はもう人ではない。怪物と見なされて、動物園の檻から逃げ出した手の付けられない猛獣のように……いや、朝からこんな事は考えたくない。
「今日はなんにも来ないといいな、諒花」
「ああ」
一昨日はハチ、昨日はサソリ。二度あることは三度あるという言葉があるけれどもそうなって欲しくない。朝食後、朝の入浴とシャワー。鏡で身なりを整えて、いつもの青いセーラー服に袖を通す。そしていってきますと挨拶をして学校へ向かう。歩美とは通学路の途中で合流する。
マンションを出て、小走りで学校へと走り出す────そこに横からストっと着地して長い金髪に黒い軍服を着た一人の女性が現れ、
「失礼。ちょっとだけ、時間を拝借してもよろしいですか?」
出発前の花予の言葉は脆くも崩れ去った。その姿から直感した。また何かが起こりそうな波乱の予感が。同時にさっきまでの朝食から支度までの時間は嵐の前の静けさだったことをこの時、改めて思い知るのであった。




