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第4話

「一撃必殺でゴスゥ!!」


 右腕が変化した、尖ったサソリの尻尾による迫りくるロケットパンチはさっきまでのものよりも各段に速かった。

 だがこちらに向けて飛んできたその動きを読んで瞬間的に横へと避ける。この程度、速度を上げただけで先ほどまでの攻撃と変わらない。そして遠く伸ばされた長い右腕、もとい尻尾は最後戻っていくのも一緒だ。

 その長距離高速ロケットパンチを読めない者は、目で追っているうちに胴体と心臓を一突きで貫かれたまま、宙ぶらりんにされるのがオチだ。


 そんなに鋼鉄を言い張るならば、弱い部分を狙えばいい。だったら──諒花は駆け足で飛び出した。

 さっきまでの攻撃でやはり向こうはロケットパンチの後は必ず伸ばした右腕を引き戻している。恐らく次に放ってくるのも、相手の心臓を一突きにする一撃狙いのサソリ針のパンチであり、とにかく奴はこちらをそうやって殺したい拘りが何となく分かる。


 戻す動作によって次の攻撃までに間がある。その間はほぼ無防備。それを見逃さなかった。急いでスコルビオン目掛けて走り、右足にチカラを込め、そこに眩い青白い光とともに異能のチカラの源たる異源素ゼレメンタルが身体中から集まる。


「初月流・しゃくれ上段回し蹴り!!」


 狙いは鉄のギプスで覆われた顔面だ。さすがに自前で固めた部分までは鋼鉄ではないのか、右足の先端キックが奴の大きな顎目掛けて真上に突き上げるよう命中し、奴の口からは噛んで傷つけた事によって生き血がドロドロと飛び散った。下顎を突き上げられた事によるダメージは意外にも大きいようだ。


「ゴスゥゥゥゥ……! よくもやったなゴス!!」

 反撃の右手が変化した尻尾を薙ぎ払った攻撃もすかさず一歩下がってやり過ごす。怒りに燃えるその口元は、獲物の生肉を貪り食った後の凶暴な獣のようだ。下から意図せず強く噛んだ事による口からの出血。ただの人間とはかけ離れているその長い牙四本も相まって口の周りにはグロテスクな赤色に染まっている。食事中に口についたケチャップとも違う。不気味で生々しく黒い赤色をしている。


「お前……さっきからステゴロが好きなようでゴスね」

「ああ、好きだな。こっちは元は空手でオリンピックに出たかったからな」

「オリンピック? 異人ゼノのチカラが原因で権力だけはあるカタギに夢を絶たれた奴は泣けるゴスね!」

「くっ……!」


 同情するような言い方をしつつも鼻で笑う言い方が癇に障る。フラッシュバックで蘇ってくる。本当は空手の選手になりたかった。だから昨年、中学に入ってすぐ空手部に入ろうとした。だが、国の制度によって事前に必ず受けなければならない健康診断とセットのメディカルチェックで不合格となり入部が白紙になった。健康面はいたって問題はない。異人ゼノであることを理由に不合格になったのだ。それも通常の異人ゼノより一段強力な稀異人ラルム・ゼノだと告げられて──。


「アタシの武器はこのチカラと体術だ! ステゴロが好き? それがどうしたこのサソリ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 こちらの放った拳を体で受け止めて後ろに跳んで距離を開けたスコルビオン。

「ゴォースゴスゴスゴス!! だったらそろそろとっておきだゴス!! これを見ろゴスー!!」


 スコルビオンの全身が光に包まれる。右手に伸びていた生々しいサソリの尻尾が腕に変わり、その姿は黒いサソリのハサミが硬いグローブとして収まった姿。尻尾と同じでいかにも鋼鉄で固そうな構えだ。


「どうだゴス! このスコルビオン流ステゴロスタイルで相手してやるでゴスよ!」


 そのハサミは相手を斬り刻むというよりも殴るものだ。それは小さくてとてもこちらの体を真っ二つにするような代物には見えない。分かりやすい大きなハサミを両手に持った相手とは戦った事があるのですぐに分かった。その表面的な固さを活かして、相手の骨を粉々にするまで殴打するためのものだろう。


「覚悟しろよゴス!」

 早速殴りかかってきた。だがそれ以前にやはり目立つ事がある。どうもコイツは姿を変えても初動がとても遅く──トロいとも言うべきか──その隙がとても分かりやすい。その鋼鉄さと体重がトロさを生んでいるとでもいうのか。

 左、右、左、右。繰り出される鋼鉄のハサミによるジャブを俊敏に避けていく。そして、右ジャブが出た後の隙を狙って先ほど突いた顎にもう一発、突き上げの拳を叩き込むと────


「ぐっはあっ!!」

 再び口から赤い液体が舞う。やはりだ、怯んでいる。でかい顎がコイツの弱点だ。ステゴロにおいては、その鋼鉄の体よりも顎を狙っていければ──


「調子こくなゴス!!」

「なにっ!?」

 しまった。予想外だった。なんと奴の背中から、本物のサソリの尻尾がしなやかに顔を出したのだ。この形態になってさすがにないと無意識に思った尻尾。全く頭の中になかった。その尻尾は奴の後ろから伸びていても、こちらに狙いを定めて襲いかかってくる。


「ゴォースゴスゴス!」

 人狼の両手でガードしても無傷では防げない。両手の負傷を覚悟しなければならないか。これは予期していなかった──終わった──


「ゴス!??」

 覚悟を決めたその時。突如、スコルビオンと諒花の間の地面から茶色い巨大な石壁が上がり出た。そしてスコルビオンの繰り出したサソリの尻尾を未然に防いだのだ。まるで盾のように。


「なんだこの壁はゴス!」

 その壁はサソリの尻尾が刺さってもビクせず弾いてしまう強度。

「この壁は……」

 決してこちらが出したものではないこの壁。異人ゼノのチカラ以外ないだろう。では誰がこんな事を────


「諒花様、ご無事で」

 急に右肩にポンと手を優しく置かれた。同時に傍らに現れたのは栗色の短髪に丸い眼鏡をかけた笑みを浮かべる整った顔つきの青年だった。落ち着いた明るい緑色のスーツに赤いタイを巻いていて、その姿と佇まいはとても上品で高貴なもの。


石動いするぎさん!」

 諒花はこの青年を知っている。一方、隠し玉とも言える攻撃を防がれたスコルビオンも注目した。


「お前は石動いするぎ千破矢ちはや……! 滝沢家たきざわけの執事であり、青山の女王を補佐するナンバー2じゃないかゴス!」


 今現在、初月諒花との間で協力関係を築いている組織、滝沢家。青山に拠点を構え、同時に青山の裏社会を牛耳っているという異能蔓延るこちらの裏の世界ではそれなりの勢力である。そのトップ直属の側近が今目の前に立つ凛々しい姿をした青年。


「口コミでこの前まで病院送りにされて動けなかったって聞いたゴスよ?」

「ええ。ですが今はもう回復しました。健康に動き回れます。日頃の疲れもありゆっくり休ませて頂きました」

 二週間前に起こった、諒花も滝沢家も巻き込まれた謎の女騎士事件。あの事件で諒花と滝沢家は知り合った。が、その際は石動は先に病院送りにされていたという話は諒花も知っている。


「病み上がりの中、お勤めご苦労さんなこったゴス。これが社畜って奴でゴスね」

「社畜ですか。私は好きでこの地位にいるのですが」

 石動は小馬鹿にされても冷静で動じない。サラリと流している。強者の余裕が表れている。

「今はそんな事はどうでも良いでしょう。我が主、翡翠ひすい様の命により、諒花様をお助けするため、ここにいるのです……!」


 その言葉は落ち着いていても、その表情と声音だけで威嚇する威圧感。見ているだけでひしひしと伝わってくる。


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