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第37話

 その時、ビーネットはまた飛び立ち、こちら目掛けて再びミサイル攻撃を放ってきたのである。それらを避けて、避けて、砕いて、やり過ごすと────


 空から眼前へと降りてきた。そして繰り出されるのはやはり両手の自慢の両槍から繰り出される連続攻撃。これがコイツの戦法なのだろう。空からの攻撃を防がれたら気が緩んだ所で着地し、直接串刺しにする。 

 

「ブンブンブーン! さっきから電話しながら逃げ回りやがって! この一突きで終わらせてくれるわ!」


 そう言って、右手の槍を自慢げに見せると高速で向かってくるビーネット。だがその一突きにはさっきまでよりも一段と強いチカラを感じる。速く、そして強く。

「そこだ!!」

「なぬう!?」

 その攻撃の動作はもう見切っていた。ここまでの攻撃を避けたり潰していれば、その動作の癖から次に何がくるかを読むのは容易い。奴の渾身の一突きを避け、伸ばされたその槍の右腕を掴み、その身柄を拘束する。

 

「ぐっ……離せ!!」

「離さねえよ!!」

  振り払おうと動かす右腕は人狼の両手によって抑えられ、全く振り払えない。手すきの左手の槍が来ないうちにその右手を引っ張り、その全身を真っ逆さまに叩きつける。


「グゥアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……!」

 コンクリートに叩きつけられたビーネットはその場に大の字で倒れ込み、

「ぷはっ……!」

 口から大量の赤い液が吐き出た。その液の一滴が諒花の頬をつたる。


「ブンブン! 柔道みてえなマネしやがって! まだ終わってねえぞお!」

 通常の人間ならば頭部強打した挙げ句に吐血ではもう動けない。しかし異人ゼノの耐久力は違う。口元が赤くなったビーネットは再び性懲りもなく立ち上がって空へ舞い上がる。


「この技を使うのも久しぶりだ。その足場ごと葬ってやる! 大地をも叩き割る、八方八槍はほうはっそうの定石でな!」

「!?」

 飛び上がったビーネットの周りに一本、また一本と太い槍がこちらに向けられて出現する。上、下、左、右。左上、右上、右下、左下。計8本の巨大で尖った太い槍。円を描くように宙に並ぶ。

 それらが右上のものから次々と順番に発射される。今までの空中からの狙い撃ちとは違う。大きさもさっきまでとは一回りも二回りも大きく地面をも貫きそうな巨大な太い槍。


 突き刺さった一本、またもう一本。それらは避けるのは容易だ。しかし地面に突き刺さったそれらがコンクリートの地面にヒビを入れる。更に発射された三本目はそのヒビを更に拡大させ、今立っている屋上を脆いものにしていく。


 ここで奴の言葉の意味が分かった。足場ごと葬ってやるというのはこちらを足場ごと貫くのではなく、壊すということに。このままではヒビの入った屋上は完全に形を失う。食い止めるにはもう方法は一つしかない。

  

 目の前の地面に刺さっている太い槍。その上に諒花は飛び乗った。それは先ほどまで飛び回りながら撃ってきたものと違って、一回りも二回りも大きく、一段高い足場にはもってこいだった。まるで巨大な画鋲だ。


 空の上にいるビーネット。残り5本の太い槍を放とうとしている。一発だけでコンクリートにヒビを入れるほどの威力。あれが全て刺されば屋上ごと落とされてしまう。


「そのまま全て落ちてしまえ!!」

 ビーネットは残りの槍を上空から放ってくる。その飛んできたより巨大な太い槍に向かって跳び、それを足場に着地すると遅れて放たれてきた槍にまた飛び乗り、更に飛んできた槍へとジャンプし、着地する。


 奴の放ってきた巨大な槍を足場として素早く乗り継いでいく。足場は常に落下をしていくのでタイミングが肝心、着地したら真上から落ちてくる槍に飛び乗る。そしてついにはビーネットを宙の上で捉えられる高さまで捉えられていた。人狼のチカラに飛行能力はない。しかし高い身体能力からの跳躍力はある。


「バカな!? ここまで上って来るだとォ!?」

「来るんだよ! さあ、お前が落ちろ──初月流・蜂落とし!!」

「────────!」

 放たれた槍からビーネットの真上に高く跳ぶと人狼の拳によって奴は直線状に真下に叩き落された。


「グァァァァァァァァァァァァァァ!! カヴ……ラ……さ……ん……」

 落下したビーネットは自らが作ったヒビだらけの屋上へと落下、それが衝撃となって屋上に大穴を開き、瓦礫と一緒に奈落の底へと消えていった。一歩間違えれば、落とされていたのは人狼少女。しかし放ってきた大技を逆手にとられ、ビーネットは散った。



 *


「それでは一時限目の授業に入ります」

 ここは諒花と歩美の在籍する2年C組の教室。零の席も空席のまま残されている。そして今日は諒花の席も空席のまま。


 ──諒ちゃん、大丈夫かな……?


  カバンを諒花から預けられた歩美はただ彼女の無事を待つ以外なかった。花予にも共有はしたが無事を祈っていた。でも諒花ならばきっと大丈夫だろうと。何かあれば滝沢家や石動もいるのだから。そして今まさにこれから国語の授業が始まろうとしている。


 出欠確認の時も遅れてくるって言ってましたと嘘をついて、時間を稼いだ。あとは彼女の無事を祈る他ない。ただ、これまで異人ゼノとして幾度の戦いを経験してきたとはいえ、やはり心配だ。この状態で授業に入るならばノートはしっかり諒花の分もとっておかないといけない。

 

 そう思った時。廊下の向こうから走る音が近づいてくると、教室の後ろの戸が開かれた。


「すみません、遅れました先生!!」

「諒ちゃん!!」

 着ている制服は少々汚れていても、息を吐きながら立っている諒花がそこにはいた────




 ビルの下に群がっていた手下どもは大将ビーネットの陥落と同時に怖気づいて撤退していった。

 背中に刺さった槍も抜いて、遅れてきた駆けつけてきた石動の応急処置によって止血した後、学校へ向かった。

 異人ゼノだからこその治癒力の賜物である。普通の人間ならばとうに病院行きで暫くは動けない。


 ビーネットの身柄も滝沢家によって瓦礫の中から掘り起こされ、捕縛された。

 

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