第35話
最初から向こうはこちらの動きを見て、それから計算して動いていた。その結果がこれだ。強い……見えない所からこちらを俯瞰し、隙だらけの所を狙って奇襲を仕掛ける。その結果がコレだ。なんてザマだ。シミュレーションが得意とはまさにコレだ。こんな時、零がいてくれたら……どんなに助かっていただろうか。
『諒花は……私が守る』
時折、おせっかいに感じることもあった彼女の存在。反発して喧嘩したこともあった。だがたとえ監視役として送り込まれていたとしても、それはいつも的確で自分を助けてくれていた。もし今もいてくれたなら背後からの攻撃に即座に気づいて防いでくれていただろう。
「ブンブンブブン! 死にたくなかったら逃げてみろ! その痛みを背負った体でな!」
地面から足が少し離れた低空飛行をしながら太い尖った槍がビーネットの右腕から放たれる。背中に刺さっているのもそれだろう。小型ミサイルのように発射されたそれは起き上がったこちらにトドメを刺すべく捉えていた。
「逃げも隠れもしねえよ!!」
飛んできたそれを背中の痛みに耐えながら人狼の右手で振り払うと重い鉄の感触とともに太い槍は少し飛んで転がって落ちた。形は駐車場によくあるコーンのようだ。しかし屋上のコンクリートに落ちたそれは重たい鉄で、バットを転がした時に近い重い音をしていた。
そして奴の腕は先が筒になっているがまた新たな太い槍が生えてくる。両手が生々しいキャノン砲になっていて、このままでは連打されて蜂の巣にされてしまうのがオチだ。
「ブブブンブン! かわせるものなら、かわしてみろ! 喰らえ、喰らえー!」
横に飛びながら次々と上空から放たれる太い槍の弾幕。だが飛んでくるそれらには隙間がある。そこをくぐり抜け追いかけてかわした後も、逃げ回りながらバカスカと撃ってくるビーネット。真っすぐに飛んでくるそれを拳で砕き、高くジャンプして飛んでいる奴の真ん前まで来た。
「グゥォアアアアアアアアアッ!」
そのスズメバチマスクを左から粉砕した。殴られて吹っ飛ばされても背中の羽がビーネットの体勢を元通りにする。
「ブンブン! やってくれたな!」
そう文句を言うとビーネットはそこから真っすぐに再び空高く跳びあがった。その姿を目で追いかけようにも日差しが眩しくて奴の姿を捉えられない。すると輝く日差しの真ん中から、こちらへと目掛けて頭から落下してきた。
「ロックオン! もらった!」
空高く頭から一直線に降下しながらビーネットは屋上に立つこちらへ向けて両手の太い槍を発射、それをこちらが弾き飛ばしたのをよそに、ビーネットはこちらを通り抜けて遠くに高速に飛び、Uターンして再びこちらを通り過ぎていく。上空から太い槍をこちらへ発射しながら。それを当たらないように避ける。地面のコンクリートに奴の槍が突き刺さる。
「くそっ……! 飛び回っていたら攻撃が……」
攻めに転じようにも、敵が戦闘機の如く高速で飛行して太い槍を降り注がせながら通り過ぎていく。そしてまた高速で来た方向に戻ってUターン直進をし、通り過ぎていく。相手は高速で飛行しながら太い槍を撃ってくる。が、どう攻撃を当てたら良いか分からなくなる。
自身の溜めたエネルギー弾を拳にして放つ技もあるが、屋上を通り抜ける姿を瞬きしないで見ても一瞬しか捉えることのできないくらいの速さを持ったビーネットを攻撃しても命中する可能性は低いと見た。飛んでくる前に放っても当たらないか、あっさり避けられてしまうだろう。
勿論、人狼のチカラをもってしてもさすがに空を飛ぶ事まではできない。となると、向こうは上空、こちらは地上で決着をつけなければならないのは確定だった。
改めてこんな時、零がいてくれたら、彼女ならなんて教えてくれただろうか。また思い出してしまった。それだけ零の存在は大きい。同時に思い知る。自分は零に依存していたことに。向こうは予めこちらの情報を沢山得て臨んできている。こちらはそんなアドバンテージはない。
だがそう嘆いた所で彼女は帰ってこない。今はコイツの攻略法を一人で見つけ出そう──空からの攻撃に当たらないよう屋上を走りながら諒花は気を取り直す。こんな奴に負けていたら彼女を見つけ出すことも叶わない。




