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第32話

「いたぞ!! 標的のあの女だ!!」

「応援を呼べ!! あっち行ったぞ!! 追えー!!」

 ビルを出て渋谷の街中へ出る。目の前の道をひたすら前へと走っていく。頭の中にあるその目標の場所をただひたすらに目指して。するとその後ろ姿を見た敵がこぞって応援を呼びながら追いかけてくる。


 石動が説明の締めに言った言葉を再び脳裏に蘇らせながら走り続ける。体力は日々鍛えていることに加え、既に目的地は見えているので尽きる気がしない。


 背後からの走る足音がどんどん多くなっていく。この調子だ。敵はこちらを見つけて遠くでこちらを捜し回っているだろう仲間をどんどん呼んでいるからだろう。今は進行方向の目の前に立ちふさがってきた敵だけ殴ってひたすらに走り続ければいい。


 石動がいるタワーのある渋谷駅南ではなく渋谷駅西の方角へ走り続けて10分ほど。一旦駅からは遠く離れた位置まで走り抜ける。ふと後ろを見ていると追ってくる敵の姿が何人か見えてきている。ここまで走ったのにまだ追いかけてくることに執念深さと欲深さを感じる。が、向こうは走り続けて既にヘトヘトな状態だ。異人ゼノではない、普通の人間なので稀異人ラルム・ゼノであるこちらとの体力の差も歴然なのは明らかであった。

 

 目指していた場所はここである。街はずれにひっそりと建つ無人の廃ビル。ここは石動によると現在は空きビルになっていて、外側の階段を駆け上がるくらいならば問題ないという。渋谷も駅周辺は賑やかだが、街はずれになると静かになる。そういう場所にはこういったビルや建物が時折ある。


 ビルの外側から上に伸びている鉄の非常階段を駆け上がる。階段の扉に鍵が閉まっていたので手すりを跨って階段に上がり込む。

 下を見ると追ってきた敵も扉を無理矢理こじ開けてゾロゾロと上がってくる。一際足の速い敵に拳から放つ衝撃波をお見舞いしてドミノ式に突き落とす。が、それでも後続の敵がどんどん下から群がってくる。敵が足元に迷って怯んでいるうちにどんどん階段を駆け上がる。


 このビル、屋上まで何階あるのか訊きそびれたが10と書かれた内部に続くドアの前に来た瞬間、その上は屋上だと知らせるように気持ちの良い秋風を感じた。

 下を見ると階段の真下までビルの付近に無数の敵どもが集まってきている。まるで前に花予がやっていたゲームに出てきた、階段の下から大量のゾンビが上がってくるのに似ている。倒しても倒してもしつこく上がってきてキリがないのだ。だが、これはゲームではなく現実。必ず敵にも限りはある。


 階段を駆け上がるとそこは金網に囲まれた広大な屋上。その奥まで行くとそこは当然行き止まり。金網の向こうには渋谷の大小様々なビルが建っており、降り注ぐ朝日が眩しく感じた。

 そして振り返ると、来た道からは同じく階段を上がってきた敵の大軍。だがこの11階の階段を駆け上がった反動で既に息を吐いている。ヤワな奴らである。


「やっと来たな。ここでみんな相手してやるぜ!」


 その言葉で気合を入れる。右肩を抑えて腕をブンブンと振り回して構える。ここで上がってくる敵を倒し続ければいい。そうすれば手下がいなくなってどこかにいる大将ビーネットは自ら打って出てくる──それが石動の策だ。この誰もいないビルの屋上であれば、チカラを存分に使っても大丈夫でもある。ちょうど良い。


「こんな所まで逃げ込みやがって……だが、テメエはもう袋のネズミだ! 観念しなぁ!」

「ヘヘヘ、オレたちは泣く子も黙る犯罪組織ダークメア、ワイルドコブラだぞゴルァ!!」


 一斉にかかってくる、濃黄のスーツ集団。ダークメアと聞いてあの嫌らしい変態ピエロの顔がちらつく。

 それらを素早い人狼の拳とチカラの念を込めた青白い炎が走る蹴りで一撃で殴り倒していく。ほぼワンパンだ。腹部に入れた蹴りを耐えられても一発が限界。二発目はない。数だけで単体では準備運動にもならない。


 嵐のように集団でかかってくる相手は鉄パイプやバットなどを振り下ろすタイミングもワンパターンで分かりやすい。階段駆け上がりで槍など長くて邪魔になる武器を持ち替えたのだとしたらこの場所に誘い込んで正解だった。


 一発も食らわずに避けまくり、それら全てをまとめて吹き飛ばす。こんなに大勢の敵と戦ったのは久しぶりに感じた。だが────負けない────


 そういえば零がいる時は背中にいつも彼女がいてくれて、二刀の剣と氷技で半分の敵を倒してくれていた。


 だがその零はもういない。ここにいる敵を全て自分の力で倒さなければならない。



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