第3話
それは奇妙な笑い声をあげる男だった。先ほどの手下たちとはこれまた打って変わっての個性派である事が喋り方からも伺える。そして図体がデカい。
「うわっ……!」
一瞬、引いた。顎が大きく、口から長い牙が上下合わせて不気味に四本出ており、ただの人間ではないのはこの時点でよく分かる。茶色っぽい金髪に鉄のギプスのようなもので額から鼻までを覆っているその顔はまるで、一度傷やアザだらけになってむごい状態になった顔の大半を無理やり手術したような顔。
その格好は仕事上がりの建設現場の作業員のようで、汚れた黄色いズボンと紫のタンクトップ、両腕と肩の筋肉はそれ相応に鍛え上げられている。男だけあって図体はこちらよりも一回りデカい。少し見上げてしまう。
「ゴォースゴスゴス! ワイルドコブラ二番手はこのスコルビオン様が相手でゴスよ!」
ハロウィーンの夜にやってきた幹部はやはり喋り方が普通じゃない。この組織、幹部になるには笑い方や喋り方にも個性も重要なのかというぐらいに個性的だ。
「今度は二番手のお出ましか。そんなにアタシを倒したいんだな、お前らは!」
では、わざわざ自分を二番手と指すこの男よりも前の一番手は誰だったのか。そちらはもう昨日現れてこの手で倒したのだ。
「ウチのビーネットが世話になったゴスね。ご苦労なこったゴス。だがオレはブンブンなアイツとは違うゴスよ!」
その一番手の幹部、ビーネットもまた異人で喋り方が非常に個性的な奴だった。ブンブン。そういう敵は今に始まったわけではないが、こうも連続で来ると気になってしまう。ブンブン。
「ゴォースゴスゴス! ここでお前を倒せば、あの憎たらしいビーネットに代わってオレが出世間違いなしでゴス!」
「さっきからゴスゴスうるせえなぁお前!」
「……むぅ、これはオレの口癖でゴス! 文句言うなゴス!」
ムッとなったスコルビオンが太い右手を横に伸ばすとその筋骨隆々な腕がブヨブヨと形を変えていく。それは先端が尖った黒き鋼鉄の針。腕の部分が黒く丸い球体になっている。刺されればひとたまりもなさそうだ。
「女だからって手加減しないでゴス! さあ、お前の心臓を一突きにしてやるゴスよ!」
その先端部分に針が付いた右手がバネのようにこちら目掛けて発射された。
「さっさと来やがれ! このゴスゴス野郎!」
これを受け止めるべきではない。針が手を貫通してしまう。そう読んで身を転がして横に避けると、奴は伸ばした伸縮自在なその右手をひっこめて、次の攻撃を仕掛けてくる。
「避けても無駄でゴス! その顔ごと貫いてやるでゴスよ! 食らえぇ!」
再び放たれる一本針のロケットパンチ。それをもう一度跳んで避けて、地面にブッ刺さった後に伸ばして戻っていくその右腕を見逃さなかった。すかさず両手で掴んだ。
「ぐっ……離せぇゴス!」
「────!」
掴んだ瞬間、先端が尖った右手はそのままスコルビオンの方へとズルズル引き戻されていく。右腕に強くしがみつき、逆に背負い投げを狙う。
「なっ……!」
が、それを考えてたら腕を力強く振り回すのに引っ張られ視界をメチャクチャにされた後、全身を叩きつけられていた。
「……ぐっ!」
奴の腕を戻す動作が思いのほか早く、背負い投げする前に振り落とされてしまった所に追い打ちが来る。
「そこだぁゴス!!」
今度はスコルビオンが走って接近、その先端が尖った鋼鉄の手を、ハンマーのように振り下ろしてきたのだ。こちらを地面ごとその重い手で押し潰してしまう勢いで。
だがその振り下ろしは決して素早くない。初動と振り下ろす動作が遅い。その隙を狙って、諒花の右手が青白く光った。その手は美しい少女の手から猛々しい人狼の拳となり、素早く直進、今にも腕を振り降ろそうとしているスコルビオンを豪快に殴り飛ばした。
「ゴスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
痛烈な悲鳴をあげてもスコルビオンは倒れず、すぐにムクッと起き上がる。やはり体つきからタフのようである。その鋼鉄の腕も含めて。
「……なるほどなぁゴス」
何かを理解したような口振り。頭悪そうに見えて意外に頭が回るのか。
「それが噂に聞く人狼女と呼ばれる所以の能力でゴスね。そう、人狼……!」
「そう言うお前の能力はなんだ? 鉄球と針のカチカチの能力か?」
「フッ……ゴォーースゴスゴスゴスゴス! はずれ。オレはサソリだゴス!」
高笑いの末に言われて「なるほどな」と納得がいった。
あの機械ではない、生々しく伸縮自在の右手の形。黒い鉄球が連なり、先端部分が尖っていて、その独特な形状。
それは昔、夏休みの自由研究に図書室で見たことある図鑑の、昆虫には該当しない分類のページで見た事があるサソリの尻尾にそっくりだった。
「サソリは一突きで獲物の息の根を止める毒針と、殴られたぐらいじゃビクともしない頑丈で鋼鉄の身体を持つんだゴスよ!」
今まで、数多の敵を倒してきた人狼の手による正拳突き。だがこの男にはダメージを与えたように見えても手応えがない。鋼鉄に覆われていない所を攻撃しても、彼の持つチカラが全体の防御力を引き上げているのか、痛覚ごと吸収してしまうようだ。殴ってひっくり返してもさっきのように起き上がってくる。
「鋼鉄蠍と呼ばれるスコルビオン様をナメるなでゴス! いくらお前の自慢の拳でも、黒鉄とも恐れられる身体を持つオレは倒せないゴスよ!」
──ゴスゴスうるせぇ……
「今度は外さないゴス!! オリャー!!」
張り切って気合を入れた彼の尖った尻尾が諒花の胸元を貫かんと、再度襲いかかってきた――――
読んで頂きありがとうございました!
スコルビオンが異名を名乗る台詞が間違ってたので修正しました。が、クロガネサソリもカッコいいので両方とも残す特別処置をしました汗
修正前:
「黒鉄蠍と呼ばれるスコルビオン様をナメるなでゴス! いくらお前の自慢の拳でも、オレは倒せないゴスよ!」
修正後:
「鋼鉄蠍と呼ばれるスコルビオン様をナメるなでゴス! いくらお前の自慢の拳でも、黒鉄とも恐れられる身体を持つオレは倒せないゴスよ!」