第28話
10月30日。ハロウィーン前日。
雲がやや多いものの青空が輝いている天気だった。零がいなくなった日から三日が経った。
「諒ちゃん。朝から元気ないね。何かあったの?」
「昨日、なんか眠れなくてな。ふわーっ……」
大きく手を口元にあてて欠伸をする。昨日は結局、自分を奮い立たせ、気を引き締めたはいいものの、あの後は寝つけなかった。夜のランニング中に現れた黒闇の魔女ハイン。いきなり前触れもなく現れたその存在がどうしても忘れられない。戦ってもいないのに、その姿とその時の言葉が頭から離れなかった。
首元やソックスなど一部に白いラインが入っているものの概ね真っ黒な格好が目立つ小悪魔のような女。初めて会って会話を交わしたのはほんの数秒にも満たないはずなのに、そのインパクトは石動が教えてくれた情報もあり、眠りについた後の頭の中に強く残り続けていた。
変態ピエロの時もそうだった。あのピエロも突然、姿を現して自分のペースで話を持っていき意味深な言葉を残していく所とかまるでそっくりだ。だから不安なのかもしれない。再来を感じているからか。
スカールというナンバー2で現在のダークメアのトップのことも名前しか知らない。変態ピエロ亡き今、ダークメアは残党というのが正しいのかもしれないが、スカールが前々から代わりに仕切っているということから、弱体化しているという風には聞こえなかった。零は内紛状態だと言っていたがどういうことか分からない。何か内輪揉めをしているのだろうか。
こういう時に零がいてくれたらどうなっていたか。もし、彼女が今も傍にいてくれていたならどんな言葉をかけてくれただろうか────
「諒ちゃん! あれ!」
「え?」
考え事をしながら歩いていた意識を前に戻す。するとその先にはゾロゾロと何やら濃黄のスーツ姿の男達がゾロゾロとこちらの方向へと歩いてきていた。へっへっへと邪悪で気味悪い笑みを浮かべている。
「歩美、下がってろ」
右手を横に出し、歩美を守るように自分の後ろに隠れさせる。いずれもサングラスをかけていて、ワイシャツはいずれも虎柄の模様で統一されている。
「なんだお前ら、アタシに用か?」
「おうよ! オレ達はお前をぶっ殺しにきた」
真ん中の男が懐から武器を取り出した。それは長い鉄パイプの先端にナイフがロープで括り付けられた槍のような武器。
「もうお前の居場所は割れている。逃げ場はないぞ初月諒花!! お前をぶっ殺せばボスからたんと褒美がもらえるのよ!! 死ねェ!!」
男達は一斉に武器を手に襲いかかってくる。
「諒ちゃん!」
「歩美、大丈夫だ! 見てろ!」
槍やただの鉄パイプまで、各々色んな武器を手に跳びかかってくる男達。肩にかけている荷物が入ったカバンを後ろに投げ、白く美しい両手が荒々しい青黒い人狼の手へと変化する。
リーダー格が振り下ろしてきた槍。ナイフが括り付けられている手前をしっかり掴み、その常人以上の怪力で無理矢理引っ張って奪い取ると、それを振り回してリーダーごと残りの四人もまとめて吹き飛ばして一掃した。
全員が倒れているのを確認すると奪い取った槍をへし折ってその場に放り捨てる。
「歩美、学校まで逃げるぞ!」
「うん!」
さっき後ろに投げたカバンを素早く広い、歩美を連れてその場を後にした。が、駆けだした瞬間、後ろから同じような連中が別の方角からゾロゾロと走って応援で駆けつけ、こちらを追ってきているのが見えた。
そしてこの瞬間、昨夜のハインの言葉の意味を思い知るのであった。




