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第25話

 学校にも零が学校を休むという連絡はなかった。それも思い返せば必然だった。もしも仮にこちらが家まで押しかけて正体を暴こうとしなければ零は逃げて行方をくらますこともなかったのだから。


「それならまず花予さんに相談するのが一番だよね」

 放課後の帰り道に会った歩美にこのことを話したら、最初に出たのがそれだった。

「アタシも同じことを思ってた」


 このままにはしておけない。零の捜索に乗り出そうにも、それが長期化するならば学校側が動き出してしまう。最悪失踪扱いにされてしまう。時間稼ぎになる口実が必要だ。

 陽が落ち始めた空の下。家に帰ってくると、夕飯の支度をしていた花予に早速このことを相談した。花予はそっと腕を組んで、


「零ちゃん。学校にも連絡してないってことはホントに行方知れずになってしまったんだな……」

「ハナ、どうしたらいい? アタシが言っても意味ないだろう?」

 自分が言ったところで時間稼ぎにしかならないのは見えている。零の状態について一週間後ぐらいに呼び出されて訊かれるかもしれない。


「ウン。諒花が言うよりはあたしの方がいいだろうね。荻野先生に連絡して時間稼ぐよ」

「なんて?」

「普通に零ちゃんの親から伝言預かったと言ってしまうと、もし黒幕の根回しがされた時に色々と面倒なことになるからな……」


 花予はその場で考え込む。それはそうだ。荻野は実質零の保護者にあたる黒幕と話したことはあるのかもしれないが、それは友達とはいえクラスメイトのプライベートを探るようなものなので、聞き出すことは難しいだろう。更に言えば零がいつ見つかるかも目途がつかない。となると。


「よし決めた!」

 ポン、と花予は手を叩いた。

「零ちゃん本人からあたしに直接伝言を預かったというていでいこう。プライベートで哀しいことがあって傷ついて、今は諒花はおろか誰とも会いたくないし学校行きたくないので部屋から出てこないって。よく家に遊びに来る零ちゃんとあたしは親しい間柄なんです、と」

「それいいな、ハナ!」

 さすがに教師でもプライベートまで深く詮索してくるとは思えない。隙がない口実だ。ここは花予は任せておこう。安心感が出てくる。


「だろ? あたしに任せな。諒花は気にせず零ちゃんを見つけてきなよ。一か月ぐらいは大丈夫だろうからさ」

「ありがとう、ハナ」

「そうと決まれば早速、学校に電話するよ。長電話になると思うから諒花は宅急便でも来ないか見ておいておくれ」


 花予は置いてある電話を操作し始めた。電話には予め碧庭学園(へきていがくえん)中等部の番号が電話帳登録されており、かけるのは容易だ。

「あ、お忙しいところすみません。わたくし、2年C組の諒花の母の花予と申します。担任の荻野先生いらっしゃいますでしょうか?」

 慣れた口調で丁寧に話を進めていく花予。長電話になると念を押していることから、たとえ荻野が納得しなくても、納得するまで話を続けるつもりでいるのだろう。



 長くなりそうなので宅急便のピンポンが来るまで自室の方で宿題でもしながら待つことにした。ノートと教科書を机に開く。


 思えば、小4の時から次第によくしていた教科書の忘れ物はなくなり、戦いが続いたり事件が起こっている時はそうもいかないが、一応ある程度勉強や宿題を自主的にする癖がついたのは零がやって来たからだ。それでも零には敵わないが。


 うっかり教科書の忘れ物をした時は口調は静かでも二度としないようにきっちり叱ってくれて、テストが近づくと一緒に勉強して分からない所も教えてくれてこちらを常に高い能力で引っ張ってリードしてくれる。今思えば、日常では完全にこちらのお目付け役で教育係のような立ち位置になっていた。

 真面目でしっかりしていて、パソコンとか苦手な授業があって居残りさせられても一緒に残ってくれて課題を手伝ってくれたり、いなくなった今だからこそ分かるが、常に自分よりもこちらのことばかりを見ていた気がした。


 無論それらも、裏では与えられた監視活動のためにあそこまでしてくれていたのだろう。ここでふとあることに気づく。監視役といっても接近することなく、ただ同じ学校に転校してきて遠くからこちらを監視し、非常時は颯爽と現れて守る方法ではダメだったのだろうか。普段は慣れ合わずに。こうして正体がバレて、辛い思いをするくらいならば、その方が気が楽だったのではないか。


 いや、そうはいかなかったのだろう。全ては黒幕の指令によるものだったに違いない。それもそのはず、こちらと親密にならなければ花予と出会うこともなかったし、こちらのプライベートをもまとめた究極の履歴書も作れない。やはり黒幕は零を動かしてこちらを欲しがっている。


 彼女は監視役という立場にも関わらず、表面的には友達として接してくれたその思い出に噓偽りはない。だからこそ、もう一度会って話したい。確かめてみせる──!


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