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閑話 零の部屋

 夕闇に包まれつつある空。家から雑巾やゴミ袋などを持って、初月諒花は残された鍵でその部屋のドアを開けた。掃除用具は元からこの部屋に住んでいたこの部屋の主のものがあるのでそれを使えば問題ない。


 なぜここへ来たのか。渋谷ヒンメルブラウタワーで石動千破矢と初めて出会い、それから翡翠の提案で石動を伴ってそのまま家にいる花予のもとへと挨拶に行った後の、花予の一言から始まった。

 

『零ちゃんがいつ帰ってきてもいいように家の掃除でも行ってきたらどうかな諒花』

 

 主なき家。というか部屋。一応、この部屋の主は正体を暴かれると飛び出して行方をくらませているだけ。なので、鍵も持ち去られず部屋の中の鍵棚に放置されていた。

 主である零がいなくなって、それから滝沢家が家宅捜索に入った後、もぬけの殻となった部屋の鍵はこちらで預かることにしたのだ。


 零と一緒の時を過ごしてきた部屋。何度か出入りしたことはあるが、その中で彼女が実は自分の監視役であるという秘密に気付くことはなかった。黒幕に言われて、上手く隠し通してきた結果だろう。


 家宅捜索時、部屋の賃貸契約情報を調べれば零の背後にいる黒幕に関する情報を得られるのではないかという考えも浮上したが、いくら滝沢家でも警察じゃあるまいし、大家がそんな重要な情報を開示してくれるはずがない。なので現状、やはり零と黒幕に繋がる情報は残されたパソコンしか繋がる手掛かりはなかった。今、シンドロームとマンティス勝が解析を進めている。だが解析を悠長に待ってなんかいられない。

 

 とはいえ、零がいなくなってまだ一日しか経っていない。三日後の木曜日がハロウィンだ。本格的な11月は来週からと見ていい。まだ焦る必要はない。家賃は黒幕が払っていることからたぶん、大きな問題にはならないだろう。

 

 家宅捜索で段ボールや積んである綺麗に畳まれた衣服、引き出しなどフローリングの上に出されたまま放置状態の部屋を片付けていくが、押し入れの中にあったものを外に出したぐらいでそれほど汚れていない。そもそも家自体がワンルームなので広くはない。滝沢家が大げさに押し入ったのは罠などが仕掛けられていないかの確認のためでもあった。何もなかったが。


 床のゴミをちりとりでとっていき、最後はフローリングワイパーで吹いていく。零はこまめに部屋を清掃していたのもあってか、そこまで汚れてはいない。通学の時に零がいつも肩にかけていたカバンも放置されていたので机の左脇に置いておく。ここが確か定位置だった。中身は見ないでおく。滝沢家も確認したが有益な情報はなかったらしい。


 零の机の上にある本棚。本来は教科書とノートが科目ごとに綺麗に整頓されているが家宅捜索の時、デタラメに抜き差しをしたために順番がごっちゃになってしまっている。綺麗に整頓し直す。

 

 こうして改めて見ると、いかにも真面目に学校に通って勉強している人の机だ。ゲーセンでとってきた可愛いキーホルダーや小物が飾られているとかそういうゆとりが一切ない。零はいつもクールで落ち着いていても、花予のやってるゲームをしている時は本当に楽しそうにしていた。


 時に静かだが笑ってもいた。それならば気に入ったゲームのマスコットキャラクターのキーホルダーとかを机に置いていても違和感はないのだが、それもない。オンとオフを切り替えている零の趣向なのか、それとも監視役としての務めゆえだったのか、それは分からない。


 キッチンや洗面所、風呂場などの水回りも綺麗かつ念入りに拭いておく。家でも掃除は花予に頼まれて代わりにやることがあるので慣れている。


 掃除している間も、この部屋での出来事が脳裏に蘇る。ワンルームでもこちらが訪問する形で、二人きりで過ごした時間は今となってはとても懐かしく感じた。直近だと滝沢家から逃れるためにここに泊まったり。


 だが、これも学校での思い出と同じく、無性に寂しさが込み上げてくる。たぶんこの家に来た時点で、こちらに監視役であることがバレないようにかなり気をつけていたに違いない。だからこれまで気づかなかったのだ。


 掃除が終わると再び鍵をしてマンションを去る。零について、考え事にふけりながら掃除をしていると、すっかり外は陽が沈んで夜になっていた。冷たい風が髪と頬をなでる。

 自分以外誰もいない零の部屋。ここには必ず零がいた。窓から見える景色も相まって寂しさが拭えない。

 早く零を見つけて真相を聞き出さないといけない。それまでは隙間を見つけてこの家にまた来よう。


 いつか、零とまた再会し、この部屋に帰ってこれることを願って────!

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