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第19話

「ここが諒花さんの家ですか。小さいですが綺麗にされていて居心地の良さそうな空間ですわね」

 お邪魔してマンションの一室を見た翡翠はとても浮世離れした新鮮な感想を述べた。


「あんたにとっては小さいんだな」

「広々とした屋敷暮らしが長いと感覚が狂ってしまいますわね。こういう住まいもどこか懐かしさを感じてしまいます」

 普段はここの何倍もある屋敷に住んでいる翡翠。

 滝沢姉妹もさすがにあの広大な森と屋敷を手にする前は、ごく一般的な普通の住まいに住んでいたのだろう。妹の紫水は高校二年生、姉の翡翠は二十代前半から半ばぐらいの女性だ。年の離れた姉妹という印象。紫水も姉の言うことをよく聞く。二人しか知らない過去があるに違いない。

 彼女達は最初からお金持ちだったのではなく、この異能蔓延る裏社会で台頭したからこそ、今の財産を得ていることは既に知っている。


「あ、あなたは」

「あら歩美さん」

 リビングのソファーには歩美がいた。19日の事件で歩美はレーツァンに利用され、そして洗脳されたことで彼の描く事件の主役として、また刺客として差し向けられた。最終的に滝沢邸で零と刃を交えたことで元に戻ったので歩美にとっては零は恩人でもある。

 その時、歩美は翡翠とは直接顔を合わせていない。翡翠は遠くからその戦いを遠くから見ていたが直接言葉を交わすのはこれが初めてだった。


「あの、あの時は本当にすみませんでした!」

 歩美は立ち上がってそっと頭を下げた。ここに翡翠が来ることを知って歩美も会いたいと昼食後も残っていた。

「いえいえ、あなたは狡猾なあの男に漬け込まれ利用されただけ。気にしないで下さい」

 翡翠は手を縦に横に振った。


「それより、今日は青山でクッキーを買ってきました。ささやかなものですが、みんなで食べませんこと?」

 翡翠はテーブルに袋から取り出した高級な紫色に金色の装飾ラインが入ったプラスチックの箱を置き、中身が開けられるとそこには丸いプレーンクッキーから四角いチョコクッキー、いちごクリームの挟まったクッキーまで、様々な形をしたクッキーが納められていた。


「「「おおーーーーっ!!」」」

 その中身を見た花予、歩美は一斉に声をあげると、同じように思わず声をあげるしかなかった。渋谷の駅ビルに売っているものにも同じようなお土産は売っているが、それを上回る輝き、パッケージから中身、砂糖と粉の乗ったクッキーの表面まで高級感漂う味付けに満ち溢れていたのだ。

 同時に、青山の女王は宣言通り、決して花予の前でふざけたり強引なマネはせず、真面目に花予と話をしに来てくれたのだと一安心する。


「美味しい! 砂糖の甘さが程よく効いてて美味しい!」

「美味いなーこれ。チョコの舌触りが幸福に変わっていくよ……!」

 歩美と花予がそれぞれ一つずつプレーンとチョコのクッキーを取ったので、いちごクリームのクッキーをつられて口に運ぶ。

「これは……! いちごの味がたまらねえな……!」

 甘くて噛み心地も良い。噛むと溢れてくるいちごの味とお菓子ならではの甘さが調和されている。


「こんなものしかないけどさ、食べてよ、翡翠ちゃん」

 掃除はしたものの突然の訪問なのもありお菓子までは切らしていた。花予が申し訳程度に木のかごにうま棒のコーンポタージュ味をたっぷり積んで持ってきた。普段は花予がゲームしながらつまむものでその余りか。


「うま棒ですか。なんだか懐かしいですわね。頂きます」

 やはり普段から金持ちで贅沢をしていると、庶民的なものからは自然と離れてしまうのは宿命なのだろうか。

「美味しい……この味は久しぶりです」

 うま棒をパクりと口に運ぶと翡翠はとても満足な顔をした。


「花予さんはレトロゲームがお好きなのですね」

 お菓子や紅茶などで歓談中、翡翠はテレビの前に置いてある、懐かしのゲーム機やソフトのいくつかに目をやった。中には池袋や秋葉原、中野にあるマニアックな店で採掘されたものもある。

「ああ。最近のゲームも良いけれど、あたしゃこれやってるのが好きでね、落ち着くんだ。翡翠ちゃんもやるのかい?」


「ふっ、実は私もゲームは少しかじってまして」

「なんか気が合いそうだね」

 二人はくすくすと笑い合う。お菓子もあって修羅場にはならず良い感じだ。だがあの青山の女王が育ての叔母と同じ趣味を持っているとしたらそれはとても意外でもある。


「よく諒花さんともゲームやったりするんですか?」

「最近は互いに忙しくてやってないけど、零ちゃんがやりたいって言うから最近も家事の合間とかにレベル上げお願いしたりしてたねえ」


 つい最近なのに不思議となぜか懐かしいような気持ちになる。零は花予のためにとゲームの攻略を手伝っていた。当たり前の光景だったが、今思うとあれも監視役としてこちらに付け入るためにそう言っていたのかもしれない。いや、それだけで考えたくはない。笑顔を見せたり、ゲームを通じて楽しそうにしていたのは見ていて確かだったのだから。


「そうでしたか。黒條零さんの件はさぞ驚いたことでしょう」

「驚いたね。あんなにしっかりしてる零ちゃんだから、良い子なのは違いないけど、あたし達に言えない何かがあったんだろう」

 その通りだ。零は黒幕に動かされている。仕方ないと思っている可能性が高い。


「そうですね。でしたら、そろそろ頃合いですし始めませんか? 諒花さんと協力して私達も彼女を捜したいので今後のことについて話し合いを──」





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