第145話
奴ら――、そう地下のヴィラン達だ。
地下の監獄に食料や新たな投獄者を入れる時は、滝沢邸地下に敷かれたベルトコンベアーによってそれらは運搬され、指定された檻の天井が開かれ、そこから落下する形で放り込まれる。
これらは滝沢邸のコントロールルームによって人為的に管理されている。
初月諒花達がちょうどそこから遥か上の屋敷で夕飯をとってだいぶお腹がふくれた頃、彼らにも遅れて食事が与えられた。
それは滝沢家が付近から集めさせたコンビニの売れ残りやハムちゃんキーホルダー目的の転売ヤーによって廃棄されたばかりのバーガー類。
特にバーガー類は過去のデータから転売ヤーに予め捨てられることを見越し、フードロスをなくしたい翡翠の意向により滝沢組が構成員を配置してゴミ回収と称して引き取ったもの。食べないならここへと大きな袋を広げ、資源を大切に、地球を大切にしましょうと呼びかけて。
転売ヤーは商品しか興味ないため、あっさり捨てくれる。
衛生面については未開封品だけが与えられているため、既に誰かが食したものが与えられているわけではない。逆に食べかけは肥料となる。
コンビニでは誰からも買われず、バーガーに関しては最初から食べる気もない者に買われて食されなかった哀れな食品達。それが今、流れて来ようとしていた。
「よっしゃ好機だ! ここは飛べる俺に任せろ! ブンブーン!」
天井から聞こえる機械音でベルトコンベアーの起動を察知した一同。
食事を提供すべくその天井が開かれし時、ビーネットは蜂の羽を羽ばたかせ、そこに向かって勢いよく直進した。
ここにいる全員、食事を待っていたのではない。開かれた天井から明日への糧であるバーガーやコンビニ弁当が落ちてくるこの時を待っていた。食料と入れ替わりで、開かれた抜け穴を計画通りに戦闘蜂は抜けた――
『取引成立ですね』
『ふっ、外の状況は把握しました』
『では、この監獄から抜け出す方法を教えます――――こうしませんか?』
ワイルドコブラ四人衆よりも先に投獄されていた男、死神の樫木麻彩。彼はこの中で一番長くこの監獄にいたお陰でそのシステムをおよそ理解していた。
越田組とワイルドコブラ、外の状況の情報と引き換えに脱獄のための悪知恵を彼らに伝授した。
『間もなく僕らにも汚いディナーが届けられる時間です。そこが脱獄のチャンスです』
区切られたこの監獄の天井の真上をベルトコンベアーが走っている。
そこは投獄者を自動で運んで入れるため、メンテのためかちょうどひと一人が入れるぐらいの通路となっている。
檻の天井が開閉式で開いているこのわずかな時間を利用し、通り抜けできてしまうことに樫木は着目していた。
天井を攻撃して抜け出せば良いのではないか? ――甘い。
天井も檻や壁と同様に特殊な異原石を含んだ金属に覆われていて異人の攻撃も抑え込み、檻の中からは打ち破れない。
まさしく旧岩龍会時代から使われていた遺物そのもの。当時はここは組事務所だったため、投獄された者にとっては恐怖の監獄だった────
見上げると天井まではそれなりの高さがある。手を挙げても届きそうにない。だが唯一戦闘機のように飛び回れるビーネットの飛行能力ならば天井が開いているわずかな隙を突いて通り抜けできる。
檻の天井内とも言える横にベルトコンベアーが連なる通路に出た蜂は真っ先に同じく投獄されている樫木の檻に向かい、ちょうど食べ物を放出し終えて閉まろうとしている天井に、右手を自慢の蜂のランスに変え、それを差し込んで防ぐ。先端が挟まれる格好になったが、それを無理やり力づくでこじ開け、開閉する天井の機能を失わせた。
「まずはお前を救助だな」
両手をあげる樫木を上から引っ張り出す。
「アイツが活躍してるのは癪でゴス。が、出られるならこの際何でも良いゴスね!」
今、樫木がいる通路を挟んだ向こうの檻にビーネットがいる。その模様をスコルビオンは見ていた。
まずは樫木を脱獄させ、ビーネットとともに滝沢邸のコントロールルームを探して奪取、鍵もそこにあるはずなので残りの三人は外から開けて逃がす。それが樫木の立てた作戦だ。
『開く天井を破壊してそこから全員で抜け出せばいいじゃないかコケ?」
『それも可能ですが、大人数で移動して地上にバレるのがオチです。見つかった瞬間、戦うしかなくなりますよ? バレても二人ならば僕のチカラを持ってすれば隠し通せます』
当初、作戦内容を指摘したコカトリーニョ。だが樫木の能力は触れている相手や持っている刃物や銃も透明にし、そこから撃つ銃弾さえも撃った瞬間、途中まで見えない弾丸にすることができる。
触れている間、彼の透明のチカラが常に伝わる。これによって彼と手を繋いだ相手も敵の視界から消すことができ、足音など動作の音はするが音を殺せば騙せる。
5人で行動しようものなら、脱獄がバレて駆けつけてきた追っ手に捕まってしまうだろう他、それにレカドールは重傷なので彼を庇う必要がある。仮に戦うとしてもスコルビオンとコカトリーニョしかいない。
なので樫木とビーネットの二人が姿を消しながら、敵を撒きながらどこかにあるコントロールルームを乗っ取り、脱獄の手引きをする。これが一番安全な方法であった。
最悪、ビーネットが高速で飛行して動き回り、樫木本人が手を繋いで引っ張られるだけでも良い。
「ふっ、感謝しますよ、先輩」
檻の中でバンザイのポーズで両手をあげる樫木をビーネットが上から掴んで引っ張り出す。二人の姿が引っ張られるようにして天井の中へと消えた。
「二人とも、頼んだぜ!! コケーッ!!」
「仕方ないがビーネットに委ねるゴスよ」
「レへへへ……それでは私達は抜け出す支度でもしましょうか」
残されたコカトリーニョ、スコルビオン、レカドールはいざ脱獄へとルンルンに乗り出す。
ここを抜け出したら戦うのではなく屋敷の外をひたすら目指す。とにかく捕まらないように逃げる。
外に出たら適当に車を奪うなり、走ってでも渋谷の恵比寿にある、ワイルドコブラが貸し切るホテルへ行き、あのタコの相談役に会いに行く。
そして密かに進められてたウチと越田組との関係などの説明を求めるのだ――!




