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第142話

 風呂から上がる。更衣室の棚にしまっておいた寝間着を着て、大きな鏡の前に座って白いバスタオルで濡れた髪を拭く。


 鏡の前で自分の顔を見ながら、それぞれの長い髪をドライヤーで乾かしながら、先ほど風呂で浮かんだ可能性を紫水に話した。


「そっか……! その線でいけば……先輩がまだ生きている……その可能性が高いってことだよね? ねえ!」


 紫水はとても嬉しそうな顔をした。死んだはずの先輩が生きているかもしれないことに。


「かもしれないってだけな。結局はあの殺したって言ってた変態ピエロや、捜査権の根回しをした中郷しか本当の事は分からねえ。アタシが閃いたことだから」


 もし零がいたらこの推理にどんな反応を示していただろうか。正しいと言ってくれていただろうか。


「変態ピエロも、アイツが賭けていたアタシが倒したのは違いねえけど本当に死んだか分からねえし」



 遺体を偽装できる奴がいるということは警察含めて周囲から死んだように見せることができる。事件後も円藤由里の葬儀と告別式が二週間経っても未だに行われていないことから、何かが裏でこっそり動いているのかもしれない。


 そういえば先月19日に零と一緒に謎の女騎士の手掛かりを求めて三軒茶屋にある志刃舘のキャンパスに行ったが、目立つ所に献花台の案内の貼り紙があるとかそういうのもなかった。今だとこの結果に繋がるのも頷ける。


「ねえ、その蔭山さんに訊いてみるのはどうかな?」

「蔭山さん、警察でも窓際族だから難しいと思う。それに今は忙しそうだからな……」


 本来ならばここへ来るはずだったが渋谷で発生した、喫煙所を狙った連続殺人事件の捜査のために別行動をとっている。


 急に閃いたとはいえ、今は円藤由里事件の裏を暴こうにもどうしようもない。今はそれどころではないのは考えてみれば明らか。


「紫水。円藤由里の事件のことは今じゃなくても大丈夫か?」


「全然いいよ。こっちこそ話を聞いてくれてありがとね」

 まさか紫水の口から仰天の一言が出るとは思わなかった。


「今は一番近道になる手掛かり知ってそうなのが、死んだかどうか分からなかったり、正体不明だったりするからね。でも戦い続けて進んだ先で分かる気がする。あとで翡翠姉にも諒花が言ってたこと相談してみるよ」


 生死不明の変態ピエロを解明するよりも、暗躍する中郷を見つける方が早い気がする。


 髪を乾かし終わるともう夕飯時だった。入浴前に花予からもらった家から持ってきた寝間着に着替え、一階の広間に紫水と向かった。


「だいぶ腹減ったなぁ……」

「死闘だったもんねー」


 勝てたとはいえ、あのトカゲ野郎にかなり精神削られたり、他にも未知の強敵スカールと戦ったのも大きいのだろう。風呂に長く入ってたのもあって急に腹が減ってきた。


 広間に入ると昼間と同じように様々な食事が白いテーブルクロスの敷かれた上に置いてある。だがシチューなど、昼にはなかったメニューも散見された。


 夕飯も当然バイキングだ。しかし花予の安全な場所も含めて用意してくれた翡翠には感謝する他ない。

 


「お、来たよ翡翠ちゃん」

 そこで待っていた花予と翡翠の二人がこちらを向く。


「夕飯ができてますよ、二人とも」

「お風呂気持ち良かったかーい? さ、冷める前にみんなで夕飯にしよう」


 温かく出迎えてくれる二人の保護者。


『コックはいますが生憎休暇中でして。勝さん達の尽力のお陰で急遽、このような場を設けた関係で料理は全てデリバリーです』


 昼間、翡翠は確かにこう言っていた。が、とても買い集めたようには思えないぐらいレトルト感がしないものばかりだ。


 食べたいものを皿に乗せて、一つの白いテーブルの上で花予、滝沢姉妹と四人で夕飯となった。昼間とはまた違う景色。


「「「「いただきます!」」」」


 四人で手を合わせて食べる前の挨拶。翡翠が一緒に手を合わせてる姿はどこか新鮮だ。


「あら。私もちゃんと、いただきます、するんですのよ、諒花さん」


「え!? なんでアタシの考えてる事分かった?」

「物珍しそうにこちらを見る視線ですぐに分かりました、ふふっ」


 微笑する翡翠。


「諒花はたぶん、翡翠ちゃんとこうしてご飯食べるの慣れてないんだろうなー、先月、翡翠ちゃんとも戦っただろうし」


「それを本人の前で言うなよハナ」


 ふふっ、とそれを見て微笑する翡翠。


 確かに一理あるかもしれない。花予はすぐに意気投合したが、翡翠は最初は敵組織のトップという印象だったのだから。


 昨夜の渋谷ヒンメルブラウタワーではいただきますをしてる記憶はなかったから尚更だ。最も、花予がいるからこの場に合わせたのかもしれないが。

 

 バイキングからとってきた焼けたチキンはとても焼けてて美味しく、ご飯や味噌汁もちゃんと調理されたものでデリバリーも馬鹿にならない。


 昼間はその後、零のパソコンから明かされた衝撃の情報量が多すぎて、いつの間にか食事をした実感がまるでなかった。


 だから今夜は沢山食べたい。紫水も同じ気持ちのようで、向かいでチキンやご飯を頬張っている。シチューもとろけて美味しい。食事が進む。花予もポテトにがっついている。


 屋敷で温かい風呂の後にこんなご馳走。昨日、今日と夜はとても充実している。


 願うことなら今夜はゆっくり寝たい。


 振り返れば、


 一昨日はフォルテシアに気絶させられホテルで一夜を過ごし、


 早朝にニワトリ野郎に起こされた挙句に戦うハメになり、


 そのままホテルから自宅に敵に見つからないように逃げ帰り、


 そしたら今度は零のパソコンを見るために青山へ……


 と、かなりのハチャメチャだったからだ。まさにノンストップ。



 明日からはどうするのだろう。唐揚げをお箸で美味しく食べている翡翠を見て気になった。


 昼間のパソコンから出てきた情報やハインが話してくれた事だけでお腹いっぱいだが、翡翠はその後、スカールにも会ったというので何かしらプランは固まってるかもしれない。


 

読んで頂きありがとうございました!

前回の補足の所に捜査権を奪った中郷について補足を入れたり微調整しました。

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