表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/146

第141話

 円藤由里。

 

 先月の事件が終結した10月19日の時点では、既に行方不明になった末に当然ながら死亡している。その前に遺体も発見されている。


 蔭山ら警視庁が遺体発見現場で捜査していたが、その後XIEDシードが、中郷が長官としての権力を振るいこの殺人死体遺棄事件の捜査権を強奪したと聞かされた。変態ピエロとの戦いや零の件で忙しく、円藤由里の事件のその後についてはほぼ知らないも同然であった。


 今はもう11月2日だ。既に死亡から二週間以上経っているにも関わらず、葬儀も告別式もまだやっていないというのは絶対におかしい。てっきりもうやったと思っていた。自分の知らない所で。


「あたしも最初はアイツが先輩を殺したと言ってたからその通りだと思ったけど、気になって事件から二週間になる先月末に、先輩について何も動きがない学校に確認してみたらさ、本人の都合につき休学中って言われたんだよね……」


 休学中? そんなはずは……


「いやいやいやいや、待てよ! 休学中って、それじゃ今まで起こってたこと全部を無しにするようなもんじゃねえか! じゃあ19日より前にアタシの家の近くの路地のゴミ箱で見つかった遺体は誰なんだよ! アタシの知り合いの刑事の蔭山さんが捜査してたんだけど、あれは円藤由里って言ってたぞ?」


「翡翠姉に相談したんだけど、その遺体がもしかしたら本人じゃない可能性があるかもって」


 とっくに勝手に終わっていたと思っていた事件。先月19日の戦いの裏で同時並行していた出来事。因みに先月末というとハチ野郎ビーネットとサソリ野郎スコルビオンが立て続けにこちらを狙って渋谷に現れた頃だ。


「本人じゃない? じゃあ遺体は実は人違いだったってことか」

  そんな事があり得るとは思えないが。


「違うよ。遺体はニセモノだったんじゃないかって」


「ニセモノって、そんな偽装ができるのか?」

 それもできるとは到底思えない。


「できるみたいなんだ。裏社会には恐竜の化石や高価な宝石でも何でも、たとえそれが遺体だとしても……頼まれたものを本物そっくりに作り上げる偽装屋って人が翡翠姉曰くいるんだってさ。そのせいかもしれないって」


 突然、おかしな商売が出てきた。


「そいつは異人ゼノかよ? 遺体まで偽装できるって」

「分からない。でもそうかもしれない。でないと色々とおかしいよね。人違いならすぐバレちゃうもん」

「遺体まで作れるってすげえよ。実質マネキン人形みたいなもんだろうけど」


 遺体を偽装するとは考えられない。本当にただマネキン人形が捨てられていただけだとひと目見れば分かるし捜査にも発展しないだろう。それが可能なのはそれを実現できるチカラを持つ異人ゼノしか思いつかない。


「仕事柄シークレットで、その存在を知るのはごく一部。居場所も知られてなくて都市伝説みたいになってるけど、その仕事のクオリティ高くて、その手の工作においては影のMVPとして一部では有名なんだってさ」


 影のMVP。まさにその通りだろう。不可能を可能にしてしまう意味で。

 

 よく偽札とか偽高級ブランドのバッグによる詐欺事件は聞いた事がある。だがそれらは見抜かれて逮捕者がいるため偽装屋の仕事は偽の遺体まで作る時点で比べ物にはならないだろう。


とはいえ。話を本筋に戻す。


「そもそも、人違いだろうが偽装だろうが、遺体も警察が身元を調べたり解剖したりする。見た目だけ最初は遺体を偽装できたとしてもそのうち解明されてバレそうだけどな……」


 あ。


 その瞬間、複数のパズルのピースが当てはまって形をなしたように一つの可能性が浮かんだ。


 ――遺体発見後、捜査権をXIEDシードが強引に中郷が持ってったのももしかして……


 あの遺体がゴミ箱から見つかった事件現場を見て、その日の午後には捜査権はXIEDシードに持っていかれたと蔭山は悔やんでいた。


 あの遺体をそこに放置したのは変態ピエロであり、裏では捜査権を奪い取った中郷と繋がっていた。


 しかし偽装されたものと警察にバレないうちにXIEDシードが捜査権を強奪すれば本物に見せかけられる。


 実際に捜査権を奪われたタイミングは分からないが、その日の朝、零と一緒に登校中に蔭山が捜査していた遺体発見現場を見た日の午後には奪われていた事が確定している。


 変態ピエロは中郷を倒そうとしている。殺したと公言した円藤由里の真実は彼と捜査権を持っていった中郷しか知らない。19日にあのピエロが話していたことが全て本当かは分からない。紫水の怒りを買っていたが奴はそう見せびらかすために、怒らせるためそう言った可能性はある。


 ただ中郷が捜査権を奪った理由が分からない。それによって警察の手から離れ、遺体が偽装されていてもバレなくなった。円藤由里はXIED(シード)を目指していたようなのでその関係だろうか。


 一つ分かることは。


 ――あの遺体は円藤由里ではない。偽装や人違いよりも、そもそも葬儀と告別式がとっくに行われてなければおかしいからだ。


 学校側の対応もおかしい。表面的には報道もされた行方不明事件からの遺体発見、なのに休学中なんて言うのあり得るだろうか。捜索願もニュースで報道され、出されていたので沈黙を貫く学校や家族は何か知ってるのではないだろうか。


 蔭山は遺体は円藤由里と言っていたが、実はそう思いこまされただけで実は違うかもしれない。


 

「紫水。そろそろ上がるわアタシ。髪、乾かしながら話しよう」


 風呂から上がった後、今思い浮かんだ可能性を話してみることにした。



 変態ピエロは全身鎧の謎の女騎士として当初彼女を洗脳し、利用するだけ利用して遺体を捨てた。

 しかし葬儀、告別式が未だに行われておらず学校も休学中と言っている。普通ならば紫水がその模様を話してくれてもいいはずなのにこの真実が出てきたのだから驚きだ。ということは――、



 円藤由里はどこかで生きている可能性が高い。しかしそれはあの変態ピエロ、次に捜査権をとった中郷しか知らない。生きていたとして、どこで何をしているのか。


 そして変態ピエロも本当に死んだのか分からない。円藤由里含めて、二人は本当にどうなったのか。まさに真実は闇の中だ。






読んで頂きありがとうございました!

簡単に前作の人狼少女1の円藤由里事件の時系列をざっとおさらいします。作中では19日の事件としか殆ど書いていないためです。

また、捜査権を奪ったことについては人狼少女1の第38話で被害者の為と上官こと中郷から明言されています。


2024/10/10:(人狼少女と死神 第14話~第17話)

諒花と零、渋谷のビルで樫木麻彩を初めて撃破する。この日に円藤由里も姿を消す。


2024/10/12:

円藤由里の両親が捜索願を出す。


2024/10/17:(白銀剣士とクラス委員長 第22話~第26話)

シーザーが再び諒花と零にリベンジを挑む。しかし戦闘中にシーザーが突如現れた謎の女騎士(円藤由里)に刺され、諒花を襲うが零が庇い、女騎士は逃走。

諒花、その日の夜に円藤由里行方不明事件のニュースを見る。


2024/10/18:(人狼少女と窓際刑事 第27話~第32話)

円藤由里と思われる遺体が諒花の家の近隣の裏路地のゴミ箱の中から首を絞められた状態で見つかる。警察が捜査するもその日のうちに捜査権が警察からXIEDヘ。

後に後述の19日の話の中で、彼女の愛刀である木刀・麒麟持はダークメアの傘下である円川組によって闇市に出されるもXIEDによって奪還されていた事が判明する。


2024/10/19:(人狼少女の見た悪夢 第51話~)

人狼少女1で一番長い一日。渋谷、三軒茶屋、青山を巡り、最終的に諒花が黒幕レーツァンを倒す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ