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第137話

 ホテルを貸し切るほどのカネとコネを持つ、化蛸ダーガン。


 彼はボスのカヴラが最近連れてきてワイルドコブラ相談役に就任させた。一般企業でいう叩き上げではなく、一際優秀な人材を外部から招聘したようなものだ。


 彼が来る直前、今回の初月諒花を巡る滝沢家との抗争以前の真夏に、ボロい本部の古びて剥がれている内装の壁が急に全て新しくなったり、蒸し暑さの要因である時代遅れな黄ばんだエアコンも全て最新型になったり、地下を掘ることで狭いと言われた部屋が増設されたりもした。


 当然、これら工事費には莫大なカネがかかる。本来は本家から出してもらうか自分達で工面するしかない。


 ダーガンがやってきたのもちょうどその大幅リニューアルが行われた後なのだ。この工事も彼の手腕によるものだった。この時は本部が快適になったのもあり気にはならなかった。


 これらは今から4ヶ月前、7月の池袋でベルブブ教と同じダークメア系列の円川組の抗争が終わった頃ぐらいのことだ。

 

 倒された8年前を最後にダーガンは表舞台から姿を消し、これまで何をしていたのかは不明。だが本部改修費含めてホテル貸し切りなどを可能とする資金を出せるコネが他にあるとすれば……


 そもそも自分達は都合よく使われていただけではないか?


 それもそのはず、最近は彼に任せきりのカヴラの体制含めて違和感しか出てこない。今回の抗争もカヴラから成功すれば褒美がもらえるというが、作戦の実行役は自分達でも実際の指揮を執るのは全てダーガンである。


「俺っち達にカネを出し続けてきた相談役のコネが、なんで今になって出てきた? コネが誰のことか聞いてないのか? レカドール」


「勿論。私は初月諒花らに敗れる前、相談役のコネがどこか知ってます。我々の……残存戦力は残りわずか……本部が陥落しましたからね」


 本家を率いるスカールによってワイルドコブラ本部に残っていた戦力が降伏。しかしその場にはいなかった、もしくは直前で逃げ延びてバラバラになったわずかな戦力が恵比寿の貸し切りホテルに集結する手筈だ。


「散り散りになった我々の後ろ盾が相談役のコネです。恵比寿からそちらへ合流する逃亡計画なんですよ。なので私も初月諒花の首を手土産に合流するつもりでした。最初は滝沢邸を攻めるつもりでしたが」


 その結果はもう言うまでもない。


「前振りはいい! そのコネは誰なんだいい加減教えてくれレカドール! コケーッ!!!」


 早く知りたい。自分達は利用されていた。ビーネットとスコルビオンの視線の圧も強くなる。そっとそれを口にする。


「……皆さんは越田組えちだぐみをご存知でしょうか?」


 急にレカドールの口が弱ったものからやや饒舌になる。


「聞いたことないゴスね」

「初めて聞く組だブンブン」


 名前を聞いても知らない蠍と蜂。


「越田組、俺っちは知ってるぞコケ!」


知らなかった二人は「コカさん!?」と注目する。


「昔、国分寺に拠点を置いてた、人身売買で儲けていた岩龍会系の組があったコケ!!」


 越田組。


 今から14年前の2010年12月。国分寺で一人の男が友人の家に押し入り、金銭トラブルで半裸の殴り合いした末に謎の失踪を遂げた事件があった。


 襲撃した男の名は温村沢星汰(ぬくむらさわ せいた)。殴られて気絶させられた被害者は意識を取り戻し、事件として処理されたが容疑者の温村沢は失踪、捜索願が出て警察も付近に情報提供を呼びかけた。

 

 表社会メディアは失踪した容疑者、温村沢星汰として騒ぐ一方、裏社会では越田組がそんな彼を拉致してどこかに売った黒幕ともっぱら有名であった。


 人身売買で名を上げ、国分寺に事務所を構えていて特別な戦力や規模はなくても本家にしっかりカネを上納し、稼げる組として名を馳せていた。


 カネのためならば子供や高齢者も攫うほど悪質であり、時には油断した異人ゼノも生け捕りにして商品にするほどであった。


「だが待てよ。越田組はとっくに壊滅したはずだ! なんでそれがここで出てくるんだ!? コケーッ!!」


 紛れもなく表社会でタブーである人身売買で稼いでいた越田組は欲のあまり暴走し、逆に各方面から敵を作ってしまった。

 

 最終的にXIEDシードが越田組の事務所に乗り込み、別の場所に売り出す前の商品として監禁されていた人々も助け出し壊滅させた。


 この時、他の岩龍会系組織や幹部は越田組の救援には誰一人現れず、カネのためなら身内にも手を出す不義理な彼らを見捨てたという。


 はずなのだが。


「私にも分かりません。今、分かることは現在は越田組はなぜか復活していて後ろ(バック)として、相談役ダーガンを介して、我々ワイルドコブラを支援していることだけです」


「あのタコは滅んだはずの越田組から来たってことか……カヴラさんはなんでそいつらと組んでんだコケ?」


 コカトリーニョは座って腕を組む。

 

「……私の読みでは越田組の残党が再興させたと思われます……カヴラさんのことは存じません」


 バーテンダーで客から話を聞く立場のレカドールでも、越田組が復活してることは相談役から直接聞かされるまで知らなかった。後ろ盾でありワイルドコブラ残党の最後の希望。


「ブンブン。相談役もそうだが、一度死んだはずの大物や壊滅したはずの組が揃って出てくるの妙だな……」


「オレ達は一度死んだ奴らに都合よく動かされてたのかゴス」


 ビーネットとスコルビオンがまたも同調する。本当は仲良いのではないか? とツッコむ余裕は誰にもなかった。ここにいる全員が実質は相談役と越田組によって動かされていたのだから。


 カヴラとの関係は知らない。しかし越田組もメリットがあって手を組み、ダーガンと巨万のカネを送り込んでいることは間違いなかった。


 カヴラはなぜ越田組の存在を隠し、ダーガンや彼らの組んだ本当の意図を説明してくれなかったのか?


 巨万のカネはダーガン以前にどこから来てるのか? 


 滅んだはずの越田組になぜそんな財力があるのか? なぜ出資するのか?


 過去の悪霊は謎とともに確実にワイルドコブラを蝕んでいた……


 




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