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第14話

 滝沢翡翠との二度目のリモートを終え、デスクに置いてある複数のモニターを前に、両手を後ろにやり、スカールはゲーミングチェアにぐったり背中を預けた。


 ────クッソー、レーツァンめ……!


 面倒な厄介ごとを残しやがって。せめてトイレにその後の対処方法を書いた遺言書の在り処でも遺してから死んでくれっての。頭が痛い。組織を仕切ってるこっちの身にもなってくれ。


 愚痴りながら上半身をデスクに預けてつっ伏せた。思い返せば全ての始まりはレーツァンが起こした謎の女騎士事件だ。事件が終わった19日、レーツァンが死亡したという報が届けられるよりも数時間前のこと。


 その日、関西から敵が攻めて来るかもしれないと警戒にあたっていた。レーツァンが洗脳をかけ、全身鎧の女騎士の格好をさせて、通り魔に仕立て上げた中身が大阪に本拠を置く笹城家の令嬢というのだから尚更だった。


 笹城家は日本各地に家電量販店のチェーン店を営むほどの、あちらの各所にある有数の金持ちの家の一つだ。それらは互いに親交も深い。この事を知って他の家が救出のために関東に攻めてきて邪魔をされるとレーツァンの計画プランに水を差してしまうからだ。

 笹城家と繋がりがある家には厄介な異人ゼノがちらほらいる。笹城家の長女である湖都美ことみ異人ゼノだが幸か不幸か、一か月前に交通事故で勝手に死んだというので、残された妹の身を心配して攻めてくるリスクが充分に考えられた。


 妹は実家の都合かは不明だが、関西を離れ東京で暮らしているようだ。なので定期的な連絡が途絶えれば向こうは東京に乗り込んでくるに違いない。

 だから警戒にあたるだけでなく、奴らが助けに来れないように妨害の策も決行した。コネを使って向こうの同業者の知り合いに金を積み、奴らが関東に助けに来ている場合じゃない危機的状況を作りだすよう指示をし、手を尽くした。阻止されたが奴らの足止めには成功した。


 これまで裏情報をレーツァンから都度聞かされ、誰にも悟られずのサポートタスクはだいたいが上手くいった。が、その時、スマホに当人(レーツァン)から不意打ちと言わんばかりに電話がかかってきたのだ。


『おれだ、スカール。おれ、今日死ぬわ。後のことは頼んだぜ。ユアーホープ!』


 ……バカ野郎。返事以外、それしか返す言葉が見つからなかった。


 やってきた遺言。そういうコミックみたいなキザな遺言は今となっては望んでない。これが自分だけあの小娘──当然初月諒花のことだ──を単身で追いかけて、総帥の座をいいことに組織の運営はこっちに全部丸投げした男の末路である。何とも情けない幕引きだ。


 その遺言通り、その日の夜中、裏社会の帝王レーツァンは初月諒花に倒され死んだという報が届いた。念のため戦いの顛末を知るために一人側近を送っておいたのだ。有能だが時折自分勝手に行動する奴を。

 時は来た。通話で遺言が来た時点で内心覚悟は出来ていた。だがここまで面倒なことになるとは正直思わなかった。だからこそ腹の底から言いたい。


 ──上納金と労働力だけみかじめでもらってる関係にすぎない実質他所の一勢力を事件に巻き込んで死ぬんじゃねぇ!!!!

 

 笹城家を巻き込むのは構わない。アイツらしい選択だ。しかし死ぬならば滝沢家を一人残らず綺麗さっぱりに消し去ってから死んでくれと。お陰でリモートによるめんどくさい対応で二回も時間を無駄にすることになった。


 ここからが本番だというのに外部に知られる可能性が高まるのは面倒なことだ。滝沢が総帥の死をノーコメント貫くと言ったので辛うじて良かったものの。もし向こうが大々的にレーツァンの死を公表していたらどうなっていたか。計画が狂っていただろう。


 とはいえ、ここまでは前々から話があった流れの通り。結果オーライの予定通りである。滝沢家が絡んでくることは完全に想定外でありアクシデントも同然だ。柔軟に対処した。そう思えば、仕方ないと割り切れる。


 ──総帥レーツァンはどのみちどこかで死ななければならなかったのだから。


 死ぬ必要があったのだ。この関東最大勢力、犯罪組織ダークメア総帥であり裏社会の帝王、レーツァンとして。そうしなければ、支配する側の頂点に立ち始めると同時に形作られていったこの体制をどうすることもできない。


 いずれこうなることはもう前から聞いていた。ここ数年で積み上げたものを一旦崩さなければならないと。()()()()のために。


 アイツの言う事だから仕方ないと、こうなることを見越し、総帥抜きでもしっかりと盤石な組織運営が出来るように手も尽くしてきた。たとえ時間と手間がかかっても。総帥がいつか死ぬことを想定して。いつ死ぬかも分からなかったのだから。


 それがなぜ今死んだのか。全ては死んだ総帥のみが知る。が、これもアイツの計算の内なのだろう。この界隈で帝王の名で呼ばれる前から頭の回る計算高い奴だった。


 因縁のあるあの女──初月花凜(はつづき かりん)が産んだこと以外はほぼ無名だった娘に倒されて。好敵手として、本気でゾッコンだった女の実の娘に殴られて。その娘も亡き母同様に美人で異人ゼノとしてのチカラの才もある。あの娘の価値も見出したアイツしか知らない。

 さぞ自ら幕を引いた時は満たされていたに違いない。さながら自分主演の映画を撮り終えたような高揚感に満ちながら。


 ──ユアーホープ。

 その遺言に応え、予定通り例の奴らにまず総帥が死んだと情報を流し、王座を狙って湧いてきたネズミどもを裏切り者として容赦なく駆除に乗り出した所だ。


 駆除すべき例の奴らを誘き出すべく、レーツァンが死んだと情報を漏らしたことで、ジワジワとレーツァン死亡の事実は噂として一部で囁かれており、真意を確認したい声があがり、こちらにも当然問い合わせが来たために今はそれを調査中として詳しいことは語らずに処理している。やがて死亡は完全に現実となる。


 だがそれも計算の内だ。全ては計画と、その先の目的のために────。



お読み頂いてありがとうございました。次回予告「人狼少女の激動の二日間」。零がいなくなった後の諒花の物語始まりです!

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