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第134話

 日が沈みゆく滝沢邸。


 先月19日、初月諒花と裏社会の帝王レーツァンが戦ったイギリスのビッグベンを彷彿とさせる時計塔も寂しげに消えゆく夕闇を見届けている。


 滝沢邸は森林の中に時計塔と二階建てで広大な屋敷が広がっているわけだが、地下にも紫水のトレーニングルームや翡翠のプライベートルームまで大小様々な部屋が存在する。


 ここは滝沢家の本部であり、青山の女王の理想の居城なのである。


 その地下深く、光射すことのない岩壁に特殊な鉄の檻で区切られた部屋。


 そう、ここは滝沢家に敵対した者を一時的に収容しておく監獄である。元々この屋敷と敷地一帯が8年前に岩龍会のものだった時の名残であり、屋敷裏の階段から行けるそこは灯りは薄暗く寂れている。普段は冷たさと静寂に満ちた空間なのだが今回は少し違った――。悪人達の声が聞こえる。


「おい、ビーネット!! さっきから羽音がうるさいでゴスよ!!」

「お前こそうるさいぞスコルビオン!! 装甲を磨きやがってブンブン!!」


 同じ檻の中でいがみ合っている軍服と建設作業員姿の二人の男達。

 ワイルドコブラ幹部であり門番のビーネットとスコルビオン。いずれも初月諒花と石動に敗れて捕らえられブチ込まれた。


 捕縛後尋問されたが、有益な情報はないと判断されるとゴミのようにここへ放り込まれた。なお、脱獄しようにも檻は特殊な異原石ゼムライトを使った金属でできており、並みの異人(ゼノ)によるチカラでは打ち破れない。


「コケーーッ!! うるさいぞお前ら!! 俺っちが寝れねえじゃねえか!!」


 この檻にいるのは二人だけでない。この男、怪鶏コカトリーニョも今朝、初月諒花に敗れて自分の炎で丸焼きになり、石動の手配した車でここに連れて来られたのだ。

 その際、車から滝沢邸敷地に放り込まれると地面が自動で開き、落下した先でベルトコンベアーによって流され、天井から落とされて今に至る。


 このベルトコンベアーも岩龍会時代の名残で、動けなくなった捕虜を手早く監獄にブチ込む為に当時の幹部がシステムを構築し、敷地内の所定の場所に開閉式落とし穴を作り、そこから地下にベルトコンベアーを敷きまくって作られたもの。ついでにどの檻の中に入れるかも指定可能である。


「だって他にやることないから仕方ないゴスよコカさん!!」


 黒焦げになった彼は睡眠によって体力の回復に努めていたが文句を言うスコルビオン。


「コイツの言う通りだ。この監獄は無の空間。空も飛べない、チェスもオセロもない以上、羽を動かす運動トレーニングしかやることがない。そしたらこの野郎が!!」


 ビーネットはギロリと相方を睨んだ。


 ワイルドコブラに関する情報を吐くようにと先に連れてこられた二人は女執事、石動から再び拷問と事情聴取を受けたが、何も知らないので答えようがなく、石動も忙しく戻っていったことで監獄で退屈を強いられていた。


 黒焦げで真っ白い上半身裸のまん丸いコカトリーニョがベルトコンベアーでやってきた時は退屈が少し紛れたがすぐに元の厶ードへと逆戻りだ。


 まるで、バラエティー番組で、賞金をかけてハンターから逃げ回ったが捕まってしまい、同じように捕まった戦友を迎えるかの如く。


 結局、初月諒花を仕留めろとだけ。達成すれば褒美がもらえる。なぜ組織立ってこのような事をするのかも実は三人もよく知らない。


 現在は内紛問題で揺れるダークメア。総帥が死に、それによって前々から面従腹背しながら虎視眈々と王座を狙ってただろう連中が決起して本家に戦いを挑んだ。それが内紛である。

 その討伐で闘争心を掻き立てられる中で、ワイルドコブラの上の意向で起こったのが今回の抗争。内紛に乗じてもう一つ戦争じゃー、うぉー。ただそれだけだった。


「俺っちは早朝から動いた上に黒焦げにされてユニフォームは燃えて散々で疲れてるんだコケーッ!! いいから大人しく寝かせろ!! ここは便所以外に何もないのかコケ!?」


 辺りを見るがトイレは各部屋の壁際に個室一つだけ。ベッドという快適なものはない。地べたで寝る他ない。

向かい側の薄暗くて中がよく見えない檻にはベッドがあって布団もあるというシルエットを確認できる。が、この檻は多数の者を均等に収監できるように作られてるようだ。


「ここは飯が朝昼夜流れてくるぐらいしかないな、コカさん」


 三人のうち、一番最初にブチ込まれたビーネットはそれをよく知っていた。


 ベルトコンベアーで明らかにコンビニや近場の弁当屋で買ってきたのだろう弁当や菓子類が朝昼夜、欠かさず天からビニール袋に包まれて降ってくる。


 梅干しや漬物が嫌いだとか好き嫌いや栄養は関係ない。投獄者にそんな選択権がないのも当然。


「食品ロスにも気を配る性格のようゴスね。滝沢翡翠は」


 そう、運ばれてくる食事は売れ残りを譲ってもらってるのか、賞味期限がいずれも切れて間もないか切れる寸前のものばかりだからだ――。



読んで頂きありがとうございました!今回は諒花に倒された三人でお届け。レカドールは次回から登場します。次回は来週水曜日夜にお送りします。

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