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第131話

 裏社会の帝王。ダークメアを岩龍会に代わる最大組織へと押し上げ、そう呼ばれたレーツァンほどの男ならば、その気になれば中郷に独自の賞金をかけて裏社会へ手配をかけることも、関東裏社会全体を動かすことも容易いはずだ。なのに。


「レーツァンが手配をしない理由は分からない。アイツも実は中郷の顔を見たことがないのかもしれない」

「まさか、それはないでしょう」


「あるいは、何かしら契約でも結ばれてるのかもしれねえ」


 腕を組み、悩んだ末にスカールの口からはそれしか言えないようだった。確かに中郷的には組んでる相手にそんな事をされてはたまったものではないので口封じされていても不思議ではない。

 


「その中郷はどこにいるかなんだが――俺達も何もしていないわけじゃない。直接突き止めようとしたが過去に一度失敗している」


 スカールは続ける。中郷の本拠地や居場所は未だに分からない。一度XIED(シード)にスパイとして10人潜り込ませた。彼らは元は岩龍会の配下で仕事をこなし、ダークメアに降った諜報員グループ達。


 背景としては2016年に岩龍会が抗争の末に滅び、その後そこから関東裏社会がダークメアにとって代わっていく中で、日本のXIED(シード)のトップである長官の役職がレーツァンと繋がっている中郷となり、岩龍会無き後の時代に向けた再編が行われた。この時から名前だけで本当の顔や姿は分からない存在が独り歩きを始めて広く知られるようになったのだ。


 当時、トップ同士が繋がってるとはいえ、睨み合う敵勢力であるXIED(シード)に探りを入れるという意味で。


『そういう事ならばやってみろ。中郷に何か言われても、シラを切っておく』


 レーツァンの了承を得て、スカール主導のもと、ダークメア初のXIED(シード)に対するスパイ活動が行われた。情報は今後、岩龍会にとって代わった勢力を運営していくための武器になり、カネにもなる。だからこそ必要と考えた。


 一応、中郷の所属になっている千葉の美浜にある東日本支部。表向きは日本のXIED(シード)の総本部。しかし実働部隊は神奈川基地を中心に東京23区外で散り散りになっており、総本部として機能しているのかも怪しい所だ。企業でいう本社なのは変わらないのだが。


 スパイは一度に10人ではなく少しずつ送り込み、関係性を疑われないようにした。表向きは事務員や清掃、医療スタッフ、エンジニアなどを装いながら潜伏し、裏では組織内の人間しか見れない掲示板やチャット、権限がなければ見れないデータベースにもアクセスを試み、シュレッダーのゴミや廃棄されたデータも盗んでくまなく調査した。

 

 中郷の事だけでなくXIED(シード)に隠された様々な事柄の調査をしていたのだが、連絡が突如途絶えた。


 その後、案の定、スパイは10人全員が首だけになって戻ってきた。一つ分かることは下手に暴こうとすると消される。中郷の正体共々、どうしても暴かれたくない秘密が眠っていることだけだ。

 

 ――その秘密が分かった時、全ては始まる。



「あの時、スパイを送って得られた情報はあるが不充分で有益でも今回とは無関係のものだった。中郷に関しては言わずもがな完全には突き止められなかった……」


 モニター越しでしか姿を見せず、顔写真しかない軍服のおっさんの秘密。その顔もその後の解析と調査によって、顔の細かな動きが自然体ではない事から、本当の顔ではない疑惑から確信へと変わった。


 果たして裏に隠れた本当の顔は何なのか。実際に姿を見せないのはなぜなのか。



「正面からでは無理。そう結論づけた。だからそこから勢力を発展、運営しながら時間をかけて、機を見て中郷を蹴落とすため、今のプロジェクトに繋がっていったわけだが────」


 レーツァンは賭けていた初月諒花に倒された直後から、それを暴くための別の手を打っていた。今はその別の手が彼によって現在進行中だ。


 隠されしその秘密は中郷の居場所に直結するというスカール。別の手は秘密を暴くための手段だが具体的にはスカールも知らされていない。ただ総帥レーツァンは成功を確信したかのように不気味な笑みを浮かべていた。


 その隠されし秘密の全容解明のための別の手が成功する時を、今はただひたすらに待たなければならない……XIED(シード)という眩しい正義側の組織の影に隠れし闇を暴く時を。


「そうしてここまで来たわけだが、二つの予定が狂う想定外に直面する事になるとは。カヴラと、お前によって」

  

 それをただ待つだけではない。今起こっているダークメア内での反乱分子による内紛はスカール達の計画通り。待っている間は組織内に潜む膿を出すためのゴミ処理だ。

 だがワイルドコブラの暴走は、最初からこの機に乗じた新たな内紛者の出現の可能性こそ予測していたが想定外だった。しかしもうこの抗争も終わりが近い。


 黒條零のパソコンも想定外だがスカールにとっては朗報だった事には間違いない。数少ない、唯一の、情報統制が厳しい敵の内情を知れるツールだ。


 そのパソコンからワイルドコブラも中郷と繋がっている可能性が出てきた以上、



「今は一刻も早く、滝沢家とワイルドコブラの抗争を終わらせ、時が来るまで待てる体制を築くのが先決だ。カヴラとそれに与する裏切り者どもを捕らえ、中郷との関係などを吐かせる必要がある」



 スカールは当初、自分とカヴラの喧嘩がきっかけでワイルドコブラが滝沢家に戦争を仕掛けた直後は迅速な対応を取らなかった。内紛者との戦闘など色々事情があるのかもしれないが、こちらが責任を追及するまでは大きく動かなかった。


 だが、今は違う。そのカヴラがよりによって中郷と組んでいる情報を知った以上、戦いを終わらせることにより一層前向きになったかのように映った。



 口外禁止の最高機密をあらかた喋ったスカール。


 今の敵はワイルドコブラ――厳密にはそこから逃亡した残党、ごく少数のカヴラ一派だ。


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