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第128話

「俺は骸骨(スケルトン)。お前は人狼(ヴェアヴォルフ)────」


「だが、力の差は歴然だな!!」


 スカールの厳しくサディスティックな言葉が次々とブッ刺さる。ダメージを受けてもすぐに回復し、骨から一気に元通りになる骸骨(スケルトン)人間。これがあの変態ピエロに代わりダークメアを仕切る男の実力であり、三人の最高幹部に座るだけの実力者ということを痛感する。


『はい、三人の最高幹部全員が稀異人(ラルム・ゼノ)です。各々が研ぎ澄ました強力なチカラを持つ紛れもない関東裏社会の王たち──』


 滝沢邸に向かう車の中での翡翠の言葉の重みを知る。


 よく見るとスカールは先ほどから偶然斬れて少し短くなった横髪の先端をさりげなく右手で何度も触れている。気になるのだろうか。

 ここで微妙な違いに気づく。奴に与えた傷は出血がなく、すぐに塞がってしまう。だから奴へのダメージは通らない。一方で影双像カゲソウゾウによって斬れたその横髪は、その分が生えてきて元通りになるような様子もない。


 いや、もしかして────本当にそうなのか?


 すぐさま接近して奴の長い髪に適当に手を伸ばそうと近づいた時────。


「スカールさん! もうやめてよ! 諒花が可哀想だよ!」

 前に出て制止するその声は紫水だった。スカールの視線がそちらを向く。


「可哀想? 現実を教えてやってんだこのお利口な小娘によ! レーツァンは認めたが、俺の目から見たらコイツはまだまだひよっ子なガキだ!」

 

「ワイルドコブラの幹部どもはともかく、レーツァンに勝てたのは実力じゃなくて奇跡だろ」


 思いきり浴びせられる罵声。だが、全くもってその通りだ。まるでフォルテシアで痛感した昨日の復習をさせられてるかのようだ。悔しいがこれが現実だ。


 元からあの変態ピエロとの差は歴然だった。しかしあの時は翡翠のアドバイスでそれまでチカラを抑え込んでいた首にしていたチョーカーを外し、何としてもあの野郎を倒さないといけなかった。

 負ければ青山はおろか花予も危なかった。それに今までの因縁も全て明らかになり、溢れ出るチカラが自然と呼応し、力を貸してくれて引き上げてくれた。死に物狂いで零と一緒に戦ったから勝ち取れたのだ。


「ま、その奇跡がなければ、今頃この青山もここら一帯も、全てが大災害レベルの廃墟になっていただろうがな。よく戦ったよ、ウチの総帥と。そしたら、俺の面倒な後処理の仕事も別で増えていただろうからな」


 それはそうだ。あの変態ピエロのチカラは混沌を操る能力。それによって発生させた緑炎がこの滝沢邸全体を覆い、地獄の森と化した。ついには面白半分でそのチカラをこの屋敷の時計塔から外へと砲台を作り、放とうとしていたため、最悪そうなっていた。


 奴は本気でここを破壊しようとしていた。それをはたしてこちらが止められるか。ハインはあの青山の命運をかけた戦いを賭けと言っていた。

 スカールもさすがにあの時、あの場にいなかったとはいえ、あの変態ピエロとの最終決戦を知っているようだ。外れたら物凄い負担を背負うものだったのかもしれない。スカールの視線が再びこちらを向く。


「だが!!!! お前は弱い、弱すぎる。そろそろ終わりにしようか……」


 スカールは再び身構える――



『スカールさん? おいたはダメですよ』

 森の中に響く優しく厳しさが含んだ女性の声が降ってきた。



「くっそっ!! 翡翠か!! なんだよ?」

 それは言わずもがなこの森の主、翡翠のものだ。スカールは辺りのすっかり日が沈んだ森を見渡しながら見上げる。森の向こうから聞こえてくる。


『諒花さんと何があったかは知りませんが、これ以上、私の屋敷で暴れるというならば、今回のワイルドコブラ侵攻の件の迷惑料、上乗せでお願いしまーす』

 翡翠のやや明るく陽気に迷惑料を請求する声に間が抜ける。


「……チッ! 分かったよ! 迷惑料は上乗せした分も後で払う!」

『ではそれで。何があったのですか?』

「この女とゲームしてたらムシャクシャしたからちょいと教育してただけだ」


『諒花さんは私の配下ではないですが、紫水ちゃんと私にとっては大切な友人であり同盟相手なので……宜しくお願いしますね』


 翡翠の声音が徐々に腹黒く脅しを含んだものになっていく。さすがのスカールも翡翠には頭が上がらなさそうだ。というか無敵のスカールに対し、強く出る翡翠も凄い度胸だ。彼の攻略法を知っているのだろうか。


「仕方ねえ。翡翠と関係悪化させたら旨味がないからな」

 そうボヤくスカール。


「小娘!! 今日は終わりだ。翡翠がいてくれて良かったな! だが負けは負け。約束ルール通り、コイツは没収だ」


 スカールは地面に刺さっている影双像(カゲソウゾウ)のもとに歩み寄り抜き取る。近くに落ちていた鞘も拾うとチラリとこちらを見る。


「じゃあな。ワイルドコブラは残党を残すのみとなったが、せいぜい死なないように頑張るがいい――――人狼姫じんろうひめ



「行くぞハイン」

「ええ」

 スカールは、ずっと黙って傍観していたハインを連れて正門の方へと歩いて消えていった。


「なんだよ、姫って……」


 それはこちらを散々見下し、彼なりの皮肉をたっぷり込めたのだろう、あだ名であった。正直、少し恥ずかしい……頬を人差し指で思わずかく。変態ピエロとはまた違ういじり方をしてくる。


 先に攻撃しても読まれてしまい、全く通じなかったフォルテシアと同じぐらい強い。スカールはいくら攻撃しても復活する。ダメージを与えるにはどうすれば良いのか。


 ワイルドコブラの本部にまだ残っていた戦力があっさり降伏したのも頷ける。きっとニワトリ野郎やトカゲ野郎みたいな幹部も沢山いたのだろう。それを黙らせた要因は地位だけでなく、その実力によるものだろう。


 事実上のトップという以外にも、戦いになって攻撃してもすぐ復活して倒せる様子がない。無駄になってしまう。それならば、黙って殺されるよりは大人しく降参した方が良いに決まっている。



 が、一つだけ気になったことがある。


 奴の横髪。あの髪はすぐに塞がった傷と違って、斬り落とされても、その分がもじゃもじゃと生えてきて復活する様子がなかった。


 髪も体の一部ならば、傷と一緒に生えてきてもおかしくないはずだ。それに一度、やられたと見せかけて崩れ落ちた時、衣服やゴーグルと一緒に髪も丸ごと地面に落ちていた。



 ────やっぱあの髪、カツラだろう……?


 もしもあの時、落ちた髪を拾い上げたらどうなってたのだろう……




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