第13話
ダークメアの執行部。腹心、ナンバー2であり事実上のトップのスカールを支える三大幹部の残り二人は”蛇拳王”カヴラ、”千影王”タランティーノ。
そしてそんな彼らを統べ率いていた総帥こそが、先日初月諒花によって打ち倒された”裏社会の帝王”レーツァンである。その悪辣な策、手口だけでなく三人の王を従え裏社会に君臨する姿はまさしくその帝王に相応しい。
この関東裏社会に君臨する四人の闇の王のうち一人が倒されたことによるその衝撃は本来なら計り知れないはず。しかもトップが倒されてコレなのだからこのコメントはやはり違和感が残る。
この四人の王、当然その座に君臨するだけあってどれもそこらの異人を遥かに上回るチカラを持った実力者だ。トップの総帥が倒されても、ボスがまだ三人もいる。もし総帥の死を大々的に認めても組織の立て直しはそう時間もかからないだろう。スカールはまさに高い所にいる総帥の代弁者でもあり、長らく仕切っている状態なのだから。
総帥を見事叩き落とした初月諒花も素晴らしいが、スカールは異人としての実力も総帥と同格だ──いや、もしかしたら実は総帥をも凌ぐかもしれない。
彼はいかなる攻撃でも倒せないのだ。そんな彼の異名は”不死王”。後ろからナイフで刺されようが剣で斬られようが、遠くからスナイパーライフルで的確にロックオンされて狙撃されようが効かない。倒れても立ち上がる。攻略法はあるのかもしれないがさすが総帥の右腕だけあり手の内を出さない。
それゆえに帝王の死も認めたくないのかもしれない。攻撃されても死にそうにないだけに。総帥が倒れてもこの無敵にして最強の二番手が居座っているので他所からすれば暗殺を企てることもできない。この人事も納得である。ついでに言えば、こんなに部下が沢山いるのに十四歳の少女の追っかけをしていた変態総帥に比べれば、ナンバー2として真っ当に仕事をしているスカールの方が人柄もマシな部類だ。
「では、体制がグダグダな時に本家の意向を破る躾のなってない方々が今後出てくる可能性があるでしょう。私たち滝沢家に危害が及ぶ可能性も。その時はどうしますか?」
この世界は従順に従う者もいるにはいるが同時に裏切り者も多い。皆がのし上がるため、野望のために必死なのだ。スカール達本家がそう言ってもそれ以下の立場の者の中には普通に聞かない者もいる。そういう奴らは難癖つけて牙を剝く。
『今後滝沢家とウチの間で大きな問題に発展した時はこちらも協力しよう。ウチの系列の赤坂の地下闘技場で仕事してくれてるんだ、こちらも筋は通そう』
「その言葉、よく覚えておきますわ」
既にこの会話も録音ボタンを押しているのでその言葉は絶対だ。ニヤリ。後でそんなこと言ってないとトボけてもこの録音を突き付けてやればいい。
「もし、戦争は仕掛けないと言いつつ、諒花さんに危害を加え、やっぱり戦争を仕掛けようという腹ならば──容赦しませんからね」
マイペースな表情を変えないで翡翠の語気が強く、鋭くなる。睨んではいないが黒い表情で。
『っふはははは! そんなわけねえだろお! そんなことしてみろ? 本家の信頼丸潰れだ』
腹の底から笑い出すスカール。
『もう一度言うが、本家としてはそちらと戦争を起こすつもりはない以上、初月諒花にも手を出すつもりはない。さっきも言ったが総帥の件はどこかで小耳に挟んだり風の噂で聞いた奴には調査中で通している。いいな?』
「分かりましたわ。では滝沢家としても、あなた方の総帥が倒れた事についてはノーコメントとさせて頂きます。事を荒立てないよう努めさせて頂きますわ」
そうして二回目のリモートは終了した。ひとまずダークメア本家の意向を再度確認できただけで良し。思ったより時間はある。あとは。
──黒條零さんを捕まえて、彼女の背後関係を洗い、黒幕を暴くだけですわね──
その背後にいる黒幕はレーツァンとも繋がっていることは確定している。だがスカールがそれを知っているのかは定かではない。確かめようとしても素直に教えてくれるわけがない。が、今はそれを調べる必要はない。
ところが翌日27日。早いうちに渋谷へ向かわせた紫水達から、その日のうちに黒條零が自宅からどこかへ逃走したという報告が翡翠のもとに届けられたのであった────