第126話
先に出たのはスカールだった。何も持たないで両手で握り拳を作り、ファイティングポーズで身構えて殴りかかってくる。
最高幹部でダークメアの事実上のトップといっても武器は使わず素手とは意外だ。
「さあ、来い! その自慢の拳で!」
スカールが右手から繰り出すストレートを横に避け、
「上等だぁ!! うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その生じた初歩的な隙に、思い切り最初から気合いの一撃を叩き込んだ。
「うぅヴアァァァァァァァァァァァァ!!」
一発殴られただけでスカールは大きく吹っ飛び、その場に倒れ込んだ。それだけではない。
奴の体が宙に浮きながら粉々に砕け、白い大量の粉の塊と身に着けていたゴーグルと袖を通していた衣服と青白い長髪が山積み状態でそっと残った。
「え? こんなもんなのか?」
正拳突きをした直後、思わず拍子抜けした。何ともあっけない。普通のチンピラやヤクザでもこんなにはならない。
殴られても体はちゃんと残る。これが最高幹部で、しかも変態ピエロの右腕の実力なのか。一発殴られただけで全身も粉々に全てが砕け散ってしまった。
もう、終わりなのか?
「な、なあ、紫水。スカールってこんなもんなのか?」
訳が分からなくなって背後にいる紫水の方を向いた。スカールのいた奥にいるハインはじっと木に背中を預けて腕を組んだまま、笑みを崩さずじっと見つめるだけ。
「あたしに訊かれても……」
困った感じに返す紫水。これがさっきまでの並々ならぬオーラを放っていたとは思えない。なんだったのだろう、ただの見せかけなんじゃないのか。
「スカールさん、自分から殆ど戦わなくて周りから強いって言われてるし、何の使い手なのか、あたしよく知らないんだよね───あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
紫水が急に大きな声をあげて後ろを指さした直後、
「なにっ!?」
後ろからやってきた鉄の物体。それはこちらの体にグルグルに巻きついてきた。それは銀色の鎖だった。
「くっ、なんだよこの鎖!!」
突如、後ろから投げつけられた鎖の元を辿ってみると、そこには────先ほど殴られて木っ端微塵に砕け散ったはずのスカールが無傷のまま怒りの形相で鎖を両手で握っていた。
「オイオイオイ……今、絶対勝ったと思っただろ? 勝利確信しただろ? 敵に背を向けるとはまだまだだな!!」
怒りの凶相で睨むスカール。
「この程度の鎖……!」
縛り付けられた鎖を両手で打ち破ると、鎖を構成していた長方形の四角い部品が辺りに散らばった。そして無防備になって腕でガードしてきたスカールを思い切りぶん殴った。
「なにっ!!?」
「ぐうわあああああああ」
いかにもわざとらしい棒読み断末魔。ガードしてきた腕から、奴の全身があっけなく崩れ落ちた。またしても大量の白い粉、固い物を砕いた感触が拳から伝わった。
それに加え、さっきと同じく奴の服とゴーグルと長髪だけがまたしても残った。ロッカーに脱ぎ捨てられた服のようだ。長髪は地毛なのかは不明だが、衣服やゴーグルと一緒にあるそれは髪の毛の集合体というよりも、頭に被るカツラにも見える。
──これは一体、何の能力なのか……?
ダメージは与えられたように見えても、攻撃がまるでなかったかのように、殴られた跡や傷一つも見当たらなかった。
なぜいつの間にかシレっと何事もなかったかのように立っていて、後ろから鎖で攻撃できたのか。
何が起きたのか全く分からない。フォルテシアの時も何が起こっているか最初分からなかったが、これはそれ以上に分からない。