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第125話

「どうした? あんまり乗り気ではなさそうだな?」


 徐々に声に圧が入ってくるスカール。怒らせるとマズい奴というのが伝わってくるがそういうわけではない。


 仮にこのナンバー2に勝てたとして、もらえる300万はどこから来たものなのかということになる。


「お前ら犯罪組織だろ? どうせ真っ当じゃない方法で稼いだカネ。それで賭け事みたいなことなんてできるかよ」


 その300万は無関係な人間から奴らが強引に奪い取ったり騙し取ったものかもしれない。翡翠と交流があるとはいえ、あの変態ピエロが総帥として君臨していた組織(ダークメア)だ。いくら二次団体のワイルドコブラを取り締まってくれても、裏ではきっとろくな事をしていない。


「お前、自分が勝った前提で話を進めてるのか?」

 すぐに首を横に振る。低く威嚇してくるような声だ。


「違う。いきなり決闘の賭け事みたいなことをされても困るっていうんだ、あの変態ピエロみたいに勝手にゲーム仕掛けやがって」


 30万ぐらいのお金がもしもらえるならば欲しい。花予も喜んでくれるから。だがここで改めて再認識する。この男に勝ってもらえた300万を持っていって育ての親である花予は喜ぶだろうか。本やゲームをちゃんと買取店に売り飛ばして得るならばまだしも。


「ハッ!! 汚れたカネは受け取れねえってか!! さすがは初月花凛の娘。見た目だけでなく中身も教育が行き届いてて利口だな」


 言葉を荒げ、とても気に食わない皮肉めいた口を吐くスカールは更に続ける。


「レーツァンのプレイを乗り越えてよくここまで来ただけはある。アイツは目的のためなら手段は選ばず、さじ加減を知らねえからな」


 それは言えるかもしれない。現にあのピエロは中郷を潰す計画のため、自分の両親、小学校低学年時代の恋人を事故に見せかけて殺害し、更にこちらが相応しい異人(ゼノ)か賭けるために先月、この滝沢邸で自ら確かめるべく歩美や滝沢家を巻き込んで戦わせるように仕向け、自らが黒幕として事件を起こした。


「誰かを巻き込んでも、面倒事が起ころうと気にせず笑い続けるアイツの後処理をして、時にはフォローしてきたのはいつも俺だ────」


 無関係な誰かを巻き込んでも罪悪感も微塵もない奴でも影からの支援は必要なのだろう。その口振りは大人ならではの苦労が伺える。


「そんな俺に利口なお前が勝つことはまず────」


 ……────!


 ──不可能だ。そう聞こえた気がした。


 小声で呟いたスカールから瞬時に一気に溢れ出るとんでもないチカラ。


 コイツがワイルドコブラの本部に乗り込んでそこに残っていた構成員や幹部達がみんな降伏したのは、その立場だけではないのだろう。


 奴から伝わってくる並々ならないオーラ。強力な異源素(ゼレメンタル)はさっきのレカドールや今朝のコカトリーニョを凌ぐ。


 戦う前から伝わってくる、これまでと違う威圧と緊迫感。


「ちょっとスカールさん! 本気で戦うの!? 諒花は疲れてるんだよ!?」

 横から紫水の制止の声。彼にそれに耳を貸すことはない。だが。


「やめろ紫水、ここはやらせてくれ! 逃げたり、途中で中断させられるくらいならば一度やってみたい」

「諒花……!」


 勝手に向こうに話を進められたせいで、今更断っても後には引けない。結果がどうなってもいいのでここは戦うしか方法はない。死ななければ、再起不能にならなければいい。


 トカゲ野郎との戦いの疲れとか、忘れるほど逆に闘争心が湧いてくる。それで自分を鼓舞し奮い立たせる。


 賞金300万はどうでもいい。持っていた影双像(カゲソウゾウ)を後ろに放り出し、両手を再び人狼の拳へと変えて一歩ずつ前に出る。


「出たな、その腕。聞いた通りの人狼(ヴェアヴォルフ)!」


 変態ピエロは時々会話に英語を混ぜていた。人狼(ヴェアヴォルフ)。自分のこの姿を一言でそう例えられることもある。


 ここは滝沢邸なので途中、気づいた翡翠の制止が入るかもしれない。


 昨日、フォルテシアに完敗した記憶が蘇る。三人の最高幹部は全員がフォルテシアと同じ稀異人(ラルム・ゼノ)と翡翠は言っていた。


 どんな戦い方をしてくるのか。勝負に持ち込まれて、戦う前から降参したり逃げるくらいなら一回だけやりあってみたい。勝とうと負けようと得られるものはあるのだから。


「アイツ(レーツァン)を倒したお前の実力、この俺に見せてみろォ!」


 相手は最高幹部で変態ピエロの右腕。こちらも稀異人(ラルム・ゼノ)だが、まだまだ不完全なのは百も承知。自分一人で全て切り抜けてきたわけじゃない。


 武者震いがした。夕闇が完全に沈み、すっかり夜になった森林で互いに向かい合う――――


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