第124話
様子を伺っていると向こうから眼光とともに視線が向けられた。ゴーグルで隠れているのに加え、夜が近いためにその視線は隠れているが、鋭いのは何となく見て読めた。
「今お帰りか、滝沢妹」
口の形だけで分かる、ニヤリとした顔をし、両手をポケットに入れてそっと歩いてくるスカール。
「レカドールの退治、ご苦労だったな」
そうぶっきらぼうに言いながら、近くまで歩み寄ってくる。
「もう来てたんだ。翡翠姉からあたし達のことを聞いた? スカールさん」
にしてもスカールさんって……滝沢家がダークメアより下なのがよく分かる。
「話のついでにそこの人狼女と一緒に討伐に向かってることをな」
すると再度彼と視線が合う。黄色く無駄にゴールデンなゴーグルの奥に見える鋭い眼光。再びニヤリとした口の形をする。
「こうして会えるとは運が良い」
「ようやく会えたな、ウチの総帥に勝った女──初月諒花」
脳裏に焼き付いていて蘇る、あの変態ピエロのふざけたドヤ顔と笑い声。だがあのピエロとは対照的に落ち着いた声という印象だ。
「やっぱアタシのこと知ってるのか。スカールさん?」
「知ってるとも。こうして顔を合わせるのは初めてだがな」
それはあの変態ピエロの右腕でもあるのだから当然か。するとスカールは近づいてきて黒いレザースーツ姿のこちらを上から下までをまじまじと見る。
「な、なんだよ、あんま見るなよ」
「ホゥ……ふむ、その長い髪と紫色の綺麗な目、魅惑的で整った体のライン。どれもあの母親似の美人だな。ウチの総帥が気に入って追いかけるのも分かる」
そういう見方と褒め方はズルいしこそばゆい。照れくさくなる。あのやらしいピエロの顔と、同時に写真で見た生前の母親の笑顔が浮かんでくる。それに今はレザースーツで胸元とスタイルが強調された格好だからなのもあるだろう。かなり見られて恥ずかしくなる。
中郷が動かした変態ピエロの起こした事故のせいで今はもういない両親。その口振りからこの男も二人のことを知っているに違いない。
「お前、面白いもの持ってるな?」
――――!
「なんだよ、アタシのチカラか?」
「ちげえよ、その右手に握ってるモンだよ」
声を荒げてツッコまれて右手に持っている得物を指差され、ゴーグルに隠れたスカールの視線が向けられたかのように見えた。あのトカゲ野郎から入手した戦利品でもある影双像。
ちょっと遊んでいくか、と呟いたスカールは、
「――ハイン。予定変更だ」
後ろにいるハインに取り出したスマホを放り投げると彼女は手慣れた手つきでキャッチする。
「帰るの少し遅くなるとタランティーノに伝えておいてくれ」
「あら? 鬱憤晴らしのおきらくリンチ? 大人げないわよ、スカール」
最高幹部二人が不在で仕事が増えて、タランティーノも不憫だわと、後ろからくすくす微笑し陰口を叩くハイン。
それを無視するが、結局うるせえよと小声で呟き、再びゴーグルから鋭い視線がこちらに向けられた。
「そいつは30万する安価な代物だが、使い方次第では値段以上の働きをするものだ」
サラッと出た、ドヤ顔で自慢していたあのレカドールを容赦なくへし折る言葉に戦慄する。
────いやいやいや、30万って充分高いだろう??
「もしここで俺に勝てたなら、お前の実力を認め、10倍の値段で買い取ってやるぞ」
「マジか」
10倍ということは300万。それだけあればそれは当然、大金でしかない。特別買いたいものはないけれども強いて言えばよく寝れるベッドが欲しいかもしれない。
「あぁ、マジだ。ただしお前が負けたら0。そいつは没収だ。ただし、今はお前の所有物。戦いの中でそいつを使うことは構わない」
「最も! 俺に勝てたら、の話だがな。さあどうするよ?」
帰りの車の中でもし、入手したコレが大金になるならばと思ったが、まさかここでその機会が訪れたことに驚く。
やはりあの変態ピエロの右腕というべきか、彼と同様に戦いの勝敗によって何かを賭ける決闘ゲームを仕掛けてきた。戦って勝敗で奪い合うこの手のゲームが好きなのだろうか?
突然仕掛けられて戸惑いはある。あのトカゲ野郎との戦いで消耗しているからだ。それに、300万といってもきっとそのお金は────