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第121話

 初月諒花と滝沢紫水が、催蜴のアレックス・レカドールと死闘を繰り広げている頃────


 滝沢翡翠は花予を連れ、廊下を歩く。屋敷奥の部屋へと彼女を案内する。


 そこは翡翠が許可した者しか入ることを許されないまさに秘密の部屋。一見すると本が沢山入った書斎。その隙間にある壁につけられた端末でパスワードを入力すると本棚の一つがズーッと横へと動き、足元から現れた隠し階段がその部屋へと続く。


「おおーっ、なんかホラーゲームで謎解きした後にあるシチュエーションだ!」

 その仕掛けを見た花予は既にテンションが上がっていた。楽しんで頂けて何より。


「この屋敷を手に入れた時に私が趣味で作らせました。この方が面白いと思いまして」


 8年前、この滝沢邸はゴルフができるほどの草原が広がる屋敷だった。ダークメア以前に関東裏社会の覇権を握っていた岩龍会のお偉いヤクザやそれに与する裏社会の大物達がゴルフを楽しみ酒を飲む古き良き日本庭園と豪邸。なんで裏社会のヤクザがこんな屋敷を持っていたのかは土地の利権とか色々ある。


 抗争に勝ち残り、岩龍会が滅び、この屋敷を手に入れた際、ゴルフに使われていた草原を緑豊かな森へと変えていく過程で屋敷の内部にもいくらか改修を行った。元々地下には倉庫の隠し部屋があったので二階の書斎部屋から一階、そして地下へと続くように。

 昔、ブラウン管でやった荒い3Dグラフィックで表現されたホラーゲームでよくある仕掛けが、そのまま現実に出てきたような出来栄えに驚いたものだ。


 隠し階段を降りた先には一階。そこは小窓から夕闇が差し込み、本来出入り口であるドアもその前に置かれた棚に半分隠され機能を失っている。入るには真上から隠し階段で降りてくる他ないのだ。

 棚には昔、秋葉原の中古店で購入した攻略本や購入特典でついてきたミニフィギュアなどが置かれ、正面にはゲーム画面を映すための最先端の大型テレビ。ドリンクを入れる用のコンセントが刺さってないミニ冷蔵庫に加え、更に小さいテーブルにクッションに布団など、ここでお菓子を食べて寝ても大丈夫なくつろぎの空間が広がっている。


「おお、翡翠ちゃんはここでゲームするんだね!」

「ふふっ、最近は忙しいので、ゲームをするのも、この部屋に入るのも久しぶりですがね」


 最新のエアコンもあるので夏だろうと冬だろうと快適に過ごせる。日常に疲れて気が向いた時は読書も良いが、外界から隔絶されたこの空間で一人、ゲームをする。

 ところが最近は裏社会の帝王の自作自演で滝沢組に危害を加えられ、それをきっかけに人狼少女と戦うように唆してきて彼女、初月諒花と出会えたのもあり色々と忙しい。紅茶を嗜みながら、風にあたって小説を読むことぐらいしか息抜きができていない。


「防音設備も万全ですので、ここではいくら騒いでも大丈夫です」

「完璧じゃないか。翡翠ちゃん、こういう部屋作っちゃうとかますます気が合うね」

「気に入って頂けましたか。諒花さんの子育てもあって、花予さんも一人安心してゲームもできないのでは?」


「そうだねえ、諒花が小さかった時は夜中一人でやったりね。最近は諒花だけでなく、零ちゃんにも歩美ちゃんにも色々あったから、安心してはあまりできてないなあ。みんな無事に帰ってくることを願いながらね」


 諒花だけでなく、関係上は他人であるはずの零と歩美も気遣う花予の姿はとても立派だ。異人ゼノとして、一人の人間として、妹を育ててきた者としても尊敬に値する。


「ところでゲーム機やソフトってどこにあるんだい?」

「それは全部地下の倉庫に収納してあります。さ、着いてきて下さい」


 改修する前はこの部屋の壁際に地下への隠し階段があった。だが、その仕掛けを壊して階段をあえて見えるようにし、降りてすぐあるドアの先をゲーム機やソフトを綺麗に保存する倉庫としたのだ。


 そして地下のドアを開けた先。そこは電気もつき、夏場と冬場対策でエアコンも完備。灰色の棚には、家庭用、携帯含めて数多のハードのゲームソフトのパッケージが隙間なく入り、ゲーム機もガラスケースの中に接続コードやコントローラーと一緒に綺麗に保存してある。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!! これ全部翡翠ちゃんのかい!??」


 花予のテンションはすっかり子供のようだ。連れてきて良かった。ちょっとかじってると初対面の時は言ったが、これを見ると語弊と思われるかもしれない。遠慮しすぎたかというべきか。これなら最初からここの写真でも持ってくれば良かった。 


「ええ。昔、紫水ちゃんが小さかった頃からゲームは好きでしたがあまりできませんでした」

 妹を養わないといけないので遊んでいる時間もなかった。成績も悪く、体を使ってバイトもしなければいけない。でも時々100円持って一人ゲーセンに行ったりレトロゲームショップでこっそり遊ばせてもらったり。


「凄い! 今じゃどこにも現物が売ってないソフト、グラディエーター、幻のソフト、ジーターマンまである! しかも箱付き! 翡翠ちゃん、この宝の山をどこで!?」


  ジーターマンは確かネットオークションだったがグラディエーターは実は――、ごほんとした後、せっかくなので語るとする。


「私が裏社会の抗争に勝ち、青山の女王と呼ばれるようになった頃、秋葉原のあるレトロゲームショップが閉店と知って、ゲーム機からソフトまで、全部私が買いまして、この部屋があります」


 つい出した昔話に感慨にふけっていると花予はなぜかとても目を丸くしていた。なぜ? と思っていたら。


「ちょっと待って、その店ってまさか……()()()()()()じゃないのかい?」


 同時に脳裏に浮かんでいた、かつて秋葉原にあった懐かしきその店の名を花予が口にしたことに衝撃を隠せなかった。




読んで頂きありがとうございました!

花予さんと翡翠の交流回前半にあたります。

当初、この回はレカドール編が終わった後の閑話として前編後編で入れようと考えていましたが、

最終的に普通に組み込む形となりました。

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