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第120話

 外へ出ると空はとっくに濃青が朱色を大きく染め、それらが混ざりあって日が沈みかける夕闇を演出していた。冷たい風が首筋から胸元をなでる。


「寒いな……」

 両手で濡れた体を包み込むと落ち着くが濡れたレザースーツの影響で肌寒い。


「大丈夫、諒花? 車にタオルあるから早く暖まろう」

 紫水は水のチカラを持った異人ゼノだから濡れても何とも思わないのだろう。でも気遣ってくれるだけでもありがたかった。チカラを持っているが、弱い者の気持ちを考えられるのは姉や石動の教育の影響か。


「お二人とも、お疲れ様でした」

 紫水と二人で事務所の外へ行くと倉元が立っており、綺麗な姿勢でお辞儀で出迎えてくれた。どうにかレカドールを倒し、彼によって台無しにされた濡れた制服と下着をひとまず物置にあったレジ袋に入れて出てきた。


「濡れていますね、これを!」

 出てきたこちらの姿を見て、倉元は駆け足で車の後ろから白いバスタオルを取り出し、肩から胴体までを包みこんでくれた。


「おっ、準備が早いな」

「紫水様と共闘を見越して、翡翠様が持たせてくれました」

「あたしのチカラで風邪引いちゃったら困るからね」


 少々困り顔の紫水。やはり翡翠の根回しによるものだった。水源もないのに単体で激流を起こすほどのチカラなので味方を気遣ってのことだろう……





「諒花、助かったよ、ありがとう」

「へへっ、気にすんな、さっきのお返しだ」

 

 馬乗り状態でそのトカゲヅラをぶん殴って奴の体が動かなくなって紫水のもとへいくと互いにハイタッチをした。零とは実はあまりしたことがないハイタッチ。零からしてきたことはない。


 第一、零は常に冷静でそういうキャラではない。けれどもこちらが右手を挙げてハイタッチの合図をするとしてくれた。なので紫水の方からハイタッチの合図が来たのはとても新鮮だった。


 紫水はスマホを取り出し、姉に現場の状況を通話で報告した。ひとまず、滝沢邸が攻撃される心配はなくなり一安心だ。紫水は自身のチカラのためか、メタリックで青いスマホは念入りの防水加工がされているようだ。懐にあったスマホも濡れているのに普通に動いている。


 が、事務所にいた組員の半分近くがレカドールに殺害され、倒したその身柄を運び出す以外にも事務所の後処理もしなければならない。それらは屋敷から派遣される残っている人員、シンドロームやマンティス達で対応するという。


 紫水のお陰で勝つことはできたが、自分だけではまず勝てなかっただろう。あの(ベロ)と唾液攻撃はたまったものじゃない。もし、あれほどのトカゲ野郎が滝沢邸に乗り込んできたのならば、屋敷内で切り刻まれた死体が転がり、花予も危なかったに違いない。もしこれまでの幹部のように最初から手下を引き連れて、正面から攻めてきていたらそうなっていたかもしれない。


 また、結果的に脅迫状を出して挑発し、こちらを釣り出して倒そうとしたのが裏目に出たと言える。というか、戦った場所が事務所の一室というそこまで広くなかったのも幸いしたかもしれない。そこに紫水の助太刀があってようやく勝てた。あの影分身を広い場所でされたら、速度もあり、残像も沢山発生して追いかけるのも大変だっただろう。



 倉元がハンドルを握る車の助手席に乗り込むが、着ているレザースーツのピチピチさが気になる。着てきた服が濡れているので帰ったら洗濯してもらおう。あれほどの屋敷なので洗濯機も普段の家のやつよりも一段と凄かったりするのかもしれない。出会った当初は人数も二千もの軍勢がいると聞かされた滝沢家なのだから。


 車が屋敷に向けて走り出す。ここであることを思い出す。


「なあ、ところで。コイツどうしようか?」

 レカドールから奪い取る形となった異能武器ゼオプロ影双象カゲソウゾウ。今は鞘に納めてある。漆黒の刃に夕闇による微かな光が当たり、やや紫色に光っているようにも見える。


「諒花がもらっちゃうのはどうかな? そういうのは戦利品として勝った人のものになるからね」

 紫水の言うことは合理的だ。


「紫水はこういうのどうしてる?」

「あたしもそういう武器で戦うよりも格闘や水のチカラで戦う方が好きだから武器を手に入れても結局は生身で戦っちゃってるなー」

「アタシもそうだ。だから迷ってる」


 武器を振り回して戦うのは性に合わない。戦うフィールドの中で何か重いものを持ち上げて振り回すことはあっても。零は双剣で戦っていた。両手で武器を器用に使えることが凄いと思う。


「帰ったら翡翠姉に相談してみようか。そうとうな値打ちものな気がするよ」

「あのトカゲ野郎は30万って言ってたなこれ」


 さすがに売れるとしたら30万から少し引かれるかもしれない。が、もしも本当にそれぐらいのお金がもらえるならば花予に渡したい。そうすれば生活も潤うだろう。


 花予はほぼ女手一つで自分を育ててくれた。一応、海外に夫同然のフィアンセがいて、海外で仕事をしており、二人だけで満足に暮らせるのも仕送りをしてくれるのが大きい。


 ただ、彼とは話せたとしても花予のパソコンの画面越しだけで実際会ったことは殆どない。年末年始さえも多忙でなかなか帰ってこれないという。


 でも気さくで優しく、蔭山とまた違う意味でハンサムだ。蔭山は時々家に来てくれるが、ほぼ画面越しだけの関係なのは対照的で、親戚と同じような感覚かもしれない。

 花予も昔は海外で仕事をしていたが姉の花凛が亡くなったことから帰国し、身寄りのない自分を引き取ってくれて今に至る。


 もし、10万単位のお金があれば、少しでも花予の手助けになるのではないだろうか。





読んで頂きありがとうございました!

コロナによる療養を挟んでようやく月曜でレカドール編完結しました!

ストーリーに影響しない範囲での改稿を検討中です。

具体的には加筆修正です。描写が足りないと感じた所を盛ったり、間違い箇所を修正したいと考えてまして、改稿した時は改稿した回を後書きでのアナウンスを予定しています。

コロナ療養からの連載再開直後なので現在の連載ストックに余裕が出てきたら着手したいと考えてます。さすがにシーンを追加したりとかは考えてませんのでよろしくお願いします。


また、登場人物紹介や設定は節目の各所に少しずつ追加していけたらと考えていますが、コロナで休載も挟んだため、こちらはまだ準備中です。申し訳ありません。

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