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第12話

『本家としては滝沢家に戦争を吹っ掛けるつもりはない。俺達には他にやることがあるからな──』


 これは初月諒花によってレーツァンが倒された19日の翌日、リモートで彼の腹心が言った言葉である。滝沢翡翠は確かに覚えていた。言った言わないを防ぐために録音もしてある。

 だがこれはいったい、どういう魂胆なのだろうか。当初危惧していた展開と全くの逆の返答だった。戦争も覚悟していたのに。


 裏社会の帝王にして、この関東裏社会で最も影響力を持つ犯罪組織ダークメアの総帥、レーツァン。勇敢に戦った初月諒花によって滝沢邸の時計塔から叩き落され、そして倒された。最期までしつこく笑っていた彼の様子から本当にあの戦いは終わったのかと疑問符がついたが、あれから一週間が経ってやはり決着したのだと認識しつつある。


 そんな帝王レーツァン。以前より組織を腹心のスカールを筆頭とした三人の最高幹部──三大幹部とも言う──に一任し、自分はもっぱら稀異人ラルム・ゼノで十四歳のうら若き少女、初月諒花の追っかけをやっていたという、変態親父としか言いようがないふざけっぷりだった。


 とはいえ、この屋敷の敷地全体を緑炎で焼き尽くすほどのチカラを持った彼が総帥であるがために犯罪組織ダークメアは関東裏社会の最大勢力として頭角を現し、君臨してきたのは事実だ。そんな彼がまだ売れ始めた新人に敗れたとなれば、普通に考えてもはや激震だろう。熱心に追いかけていた彼女によって見事粉砕され、青山の大地に還った。


 そうなると諒花を迎え入れる以上、彼らによる弔い合戦という名の戦争を、覚悟しなければならないわけで──その覚悟もとうに承知の上だが──でなければ最初から諒花を誘ったりはしない。


 出来るだけ穏便に事を運ぼうと決めた。初月諒花はこちらでしっかりと面倒を見て、彼女に手を出さず育てて味方としての立ち位置を確固たるものにするビジョンをアピール、更にこれまで通り滝沢家が赤坂の地下闘技場にゲストとして参戦する事によるカジノの興行の手助けだけでなく、上納金の更なる上乗せもするなど、選択肢をいくらか持った上で、レーツァンとの決戦後に連絡をしてみたら……戦争を吹っ掛けるつもりはないと全く違うセリフが返ってきて大きく意表を突かれた。上納金や仕事の更なる依頼もない。


 滝沢家とダークメアの兵力差は歴然だ。滝沢家は青山一個分に対してダークメアは傘下も入れてその十倍の規模がある。滝沢家を含めた傘下入りも正式加入もしていない近隣勢力はダークメアに一定の上納金を納めるか、地下闘技場やカジノなどに関連する仕事を請け負うなどで存続が許されている。当然、上納金を納めない、仕事を請け負わない勢力は敵対関係とみなされ最悪消される運命にある。


 ダークメアは関東で台頭して間もない時から、傘下入りも正式加入もしていない組織相手でも繋がりを広く形成していった。だからこそ総帥込みで影響力が強い。元々ダークメア以前にこの関東裏社会を牛耳っていた勢力が滅び、新たなトップとしてレーツァンがそれにとって代わり、路頭に迷った者を中心にまとめ上げていったのだから必然だ。新たな王に皆が視線を向け、付き従った。


 では、なぜトップの総帥が倒されたのに彼らはこんなにも大人しいのか。こちらを潰すのはハエを握り殺すぐらいに容易いのに。影響力の強い組織のCEOが死んだのに。


 その真意を再度確認すべく、滝沢翡翠は屋敷に呼び出した初月諒花が零に事の真実を確認に向かって、滝沢邸を飛び出した26日の夜。二階自室のパソコンでもう一度リモートで繋いだ────


「スカールさーん。私たちに戦争を仕掛けない理由を改めてお聞かせ頂きたいです」


 モニターに映っている、青がかった長いロン毛の髪に左肩に紫のギザギザの模様が入ったコート、そして淵が紫色の金色のレンズのゴーグルをした男はゲーミングチェアに座り、頬杖をつきながら、にっこりと内側に色々ためながらもマイペースに明るく挨拶した翡翠を見ている。


『……この前も言っただろう? 聞いていなかったのか? こっちはやる事があるんだよ、忙しいんだ。お前達を潰すためにわざわざ戦力を差し向けている余裕はない』

 耳の穴をほじくりながら、スカールは非常にこの通話を怠くめんどくさそうな顔をしている。

「そのやる事とはなんですの? よろしければ教えてくれません?」

『お前らには関係のないヤマだ』

「とは言うものの、あなた方は総帥ボスを無名の新人に倒された。きっとあなたも心の奥底では屈辱に思っているでしょうし、あなたの配下達もやられたらやり返すと今頃吠えていると思いますが?」

 唇を噛みしめながら鋭い目で翡翠を睨む。

『……まだこの件は正式に発表はしていない。だがそれでもどこかで聞きつけて言ってくる奴がいる。そんな奴らにはこう言ってきた。本家の方で調査するから口出し無用だとな』


 本家。それは犯罪組織ダークメア三大幹部、三人の最高幹部筆頭のスカールをトップとしたいわば執行部をトップにしたダークメアそのもの。事実上のトップのスカール、その意向という言い回しが出てくると中心人物は大抵は彼か総帥レーツァンである。そしてその下にはいくつもの二次団体や傘下がいるからこそ本家が成り立つというもの。従順な者は本家の言う事には逆らわない。


「まだ二代目を襲名されてないんですね?」

 するとスカールは鋭い目で睨みつけ、

『襲名だと? それはウチのトップの死を大々的に認めるのと同義だぞ。やすやすとできるわけがないだろ』

 跡を継ぐ。即ち、それは新たな時代の始まりを意味する。同時にそれが起こるのは先代の死が確定したからこそと言える。


「とにかく。今現在、抱えてるヤマと並行して、本家では総帥の行方は調査中としている。これ以上、この話をするつもりはない」

 スカールは総帥レーツァンの右腕として彼が健在の頃からダークメアの事実上のトップとして代わりに指揮をとってきた手腕は大きい。たとえ総帥を失っても彼の言葉は、総帥の言葉と同じだけの影響力があるのだ。

 この男が総帥の死を認めて、初めて騒ぎも大きくなるだろう。なのでこちらには好都合だ。初月諒花がレーツァンを倒したこともまだ広まっていないことになる。この一週間、念のため警戒はしていたがダークメア絡みの事件は起こらなかったのも頷けた。




読んで頂いて本当にありがとうございます!

来週からはストックと執筆の関係で月、水、金の夜更新となります。ご了承ください。

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