第１０９話
「諒花。敵にあたしの存在が気づかれちゃったらマズイから、あたしは後ろから追いかけていくね。人質の解放とかは任せて。一気にやっちゃって！」
「任せておけ。トカゲ野郎だろうと何だろうと立ちふさがる奴はブッ倒す！」
紫水とともに屋敷を出て、森に囲まれた道を歩きながら話をする。空はもうじき陽が落ち始め、夕暮れが近づいてきている。日が沈んだら敵は攻撃を仕掛けるというが、向こうはたったの５人であり、それができるとは思えない。
それだけ５人のうちの一人、爬虫類の異人であるトカゲ野郎は強力ということだろう。トカゲというと理科の授業でその場の景色や背景に溶け込んで姿を隠す保護色ができると聞いたことがある。翡翠曰く、見た目はガリガリらしい。パワーだけというわけでもなさそうだ。
門をくぐった先にはここまでの送迎を担当した倉元が黒い高級車とともに立っていた。
「お二人ともお疲れ様です。敵に制圧された滝沢組事務所までお送りします」
ここで乗る席も重要で翡翠からは事前にこういう説明を受けている。
『──紫水ちゃんは後方座席、諒花さんは助手席に座るように』
その通りに座る。理由は敵は人狼少女、初月諒花のみに来るよう通告してきているため、紫水の存在が実際に戦う前にバレると非常に面倒なことになるからだ。強硬手段に出てくるかもしれない。
敵はこれまで倒した幹部、ビーネット、スコルビオン、コカトリーニョの身柄も要求してきている。コカトリーニョはホテルの後始末を受けた石動が滝沢邸から手配した車により、既に他の幹部共々、滝沢邸の地下監獄にブチこまれているという。
だが、翡翠も大人しく身柄を返すつもりはない。後々、ダークメア本家のトップであるスカールに引き渡す予定だという。ワイルドコブラはダークメアの二次団体、最高幹部の一角カヴラが率いる組織だからだ。
乗り込んだ車は滝沢邸を出ると左折してその事務所がある方角へとゆっくり進んでいく。シートベルトをして座る助手席は流れ行く前方の景色がよく見えて気持ちが良い。小さな屋敷を思わせたり、壁や屋根の作りにオシャレさを感じる高級住宅と綺麗に整えられた道が続く。
青山に住んでいる時点でそうとうな金持ちなのは明らかだ。ここは渋谷の路地裏とかと違って、灰色の壁にスプレーで描かれた落書きもなければ道にポイ捨てされた吸い殻や空き缶やペットボトルもない。ゴミ箱から溢れ出たゴミをあさるカラスもいない。タバコの煙、排気ガス臭もしない。そんなどんよりとした空気と対照的にこの青山は開放感がある。
都市と自然が一体化し、住んでいるだけで良い気分になれるだろう青山。ここはまさに自然を愛する翡翠の理想そのものであり、滝沢家に相応しい他ないだろう。
「着きました、お二人とも準備を。あの建物です。ご武運を祈ります」
徒歩１０分は車だとすぐだった。紫水と世間話してる余裕もなかった。倉元の指した建物は住宅地の中にある一つの敷地。中央に二階建ての建物があり、その周りには駐車場がある。灰色だが渋谷の汚れた灰色とは違い、モノクロでクールな雰囲気だ。
「荒らされたような痕跡はなさそうだな」
助手席の窓から、建物の外の敷地に誰かいないか見てみたが、見張り役だろうか。正面玄関に立っているサングラスをかけた黒スーツ男が一人。それ以外誰もいない。敵は正面から突っ込んでいったのではなく、裏口とかから潜入して奇襲をかけたのだろうか。
声のトーンを落として紫水に合図を送る。
「正面突破でいくぞ？ 紫水」
「うん。まずはあの見張りを適当に黙らせて」
「わかった」
車を降りて、門をくぐると見張りの男がサングラスを輝かせ、顔写真とこちらの顔を何度も確認して話しかけてくる。
「初月諒花だな？」
「ああ」
名前を呼ぶその声も多少の威圧感が入っていた。
「ウチの三幹部の身柄はどこにある？ 後から運んでくるのか？」
滝沢邸。──と、言いたい所だが、余計な会話はもういい。
「グゥあああっ！！」
顔面に正拳突きをお見舞いするとサングラスは割れ、見張りはその場に倒れ込んだ。
「まずは一人。どうせ、ぶっ倒すんだからいいだろ」
見張りが動かないのを確認すると、金色の取っ手を掴んで扉を開いた――！
読んで頂きありがとうございました！
二点報告なのですが、また、キャラ紹介や用語を紹介したページはこの三部序盤のどこかで載せるため裏で作っておりますのでお待ち下さい。
二点目は来週27日に親知らずを二本抜歯する手術を受けます。消毒や糸を取り除く関係でそこから一週間は飲酒、運動、旅行はしないように言われてしまいました。
初めてのことで肉体的にも精神的にも負担になるため、手術受けて一週間程度は頂いた感想の返信、修正、SNSの更新などの対応が大幅に遅れる可能性があることを予めお知らせします。
GWに休載挟んだばかりなのもあり継続でいきます。しかし手術後になってみないと体調とか分からないので、著しく悪化した時は最悪休載、
もしくはズラさせて下さいってこともあるかもしれません。
申し訳ございません。今後も人狼少女を宜しくお願いします。
