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第106話

「諒花。大丈夫か?」

 ノックに反応し、ドアを開けてみたら立っていたのは花予だった。


「ハナ……ちょっと疲れただけだ」

 中に入って花予は鏡の前の椅子に腰掛けたので、ベッドの上に座って話をする。


「そうだよな……今なら道中の車の中で翡翠ちゃんの言ってた警告の意味があたしにも分かるよ」


「ハナ。零のことも諦めて、この異人ゼノに溢れた裏社会のことを忘れて生きるって道もあるって言ってたし、確かに知ることに覚悟がいる内容だったな……」


 その道を最初に示したのはフォルテシアだった。翡翠は零のパソコンの内容を知った上で全く同じ事を言ったが、どちらも決して楽でもないし、甘くはない世界のことを指しているのは同じだろう。


「どうする? これから」


「そんなの、一つだろ。まずは零を取り戻して、それから中郷って奴を見つけ出してブン殴る」


 右手で拳を力強く握った。中郷は変態ピエロに両親と恋人を殺させた張本人だ。それに零を監視役としてこき使っていたのもそうだ。許せるわけがない。零もたぶん苦しいはずだ。でなければ去り際にあの涙なんかこぼれない。


「諒花より格段に強い異人ゼノが沢山いたとしても諦めず戦うか?」


 フォルテシア、翡翠、石動、まだ会ったことがないダークメアの三人の最高幹部。唯一倒せた変態ピエロも入れてみんな、稀異人ラルム・ゼノ

 ここは数多の異人ゼノの上に、更に強い、そんな強者達がひしめく世界だ。もしかしたら中郷もそうかもしれない。


「今のアタシは変態ピエロには勝てたけど、同じ稀異人ラルム・ゼノ相手には勝てる気がしねえ」


 花予のことだ、ここでもし自分が苦しくて、諦めでもしたら翡翠に掛け合って、逃げの選択肢を用意してくれるつもりで来てくれたのだろう。


「でもさ、苦しくても前に進むことをやめちまったら、後悔するの目に見えてるし零も救えねえ。それに第一、強くなれねえとアタシは思うんだ」


 チョーカーによって抑え込まれていたチカラも次第に戻ってくるはずだ。そうなればきっと同じ稀異人ラルム・ゼノとも渡り合うことができるだろう。それには抗い続け、努力をすることが大切だ。


 それに逃げたら後悔する。ここで逃げたら零もそうだが、全ての黒幕が中郷と分かった今、直接訊きたいことも訊けないだけでなく、殴ることもできない。滝沢家やダークメアに、人任せにしてそれで本当に良いのかとさえ思う。


 花予はそっと安堵した笑みをし、


「そうかい。でも無理だけはしちゃダメだよ。苦しかったら、あたしに言うんだよ。ケーキでも何でも焼いてあげる。一緒には戦えないし、ホント不器用なこともあって傷つけたこともあったけどさ、姉さんに代わってお前を支えることはできる」


「なんだよそれ、最後どっかの漫画かゲームみたいなセリフじゃねえか」


 思わずくすっと笑ってしまった。花予はこちらを呼ぶ時、基本は名前呼びだが使う二人称はあんた、真剣な時に極稀にお前と言う時がある。その時によって違う。普段はあんたなのに、いきなりお前と言われた時は真剣なんだということが無意識に伝わってくる。


 不器用というのはたぶんアレだ。花予は重要な情報をあえて衝撃が大きいからと、こちらを考慮して来る時まで伏せることがあるアレだ。なんでそれを言ってくれなかったのかっていつも怒りたくなる。


 メディカルチェックを不合格になって空手への夢を絶たれた時も、花予はそれまで空手の習い事もさせてくれなかった理由をお金がないことを挙げていたが、こうなる事実を知っていたからであった。早くに言って欲しかったと泣きついたが、花予もいつ言うべきか迷っていてごめんなと抱きしめてくれた。


「ありがとう……ハナ……」


 感慨にふけっている所でまた再度、コンコンからのドアが開かれ、入ってきたのは翡翠。


「あら、花予さんもここにいましたか。()()お二人の時に水を差すようですいませんが諒花さん、私と来てもらえませんか? 花予さんはここでしばしお待ちを」


「えっ? ハナ、いってくる」


 本当は叔母と姪の関係なのにあえて親子と呼ぶ翡翠のさりげない計らいに温かさを感じる間もなく、翡翠についていく。親と子なので間違ってはいないかもしれないが。


 


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