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第101話

「これはレーツァンが言っていたことだけど」

 前置きしてハインが話し始めた。


「ダークメアが岩龍会に順調にとって代われたのも、2013年11月に諒花の両親が死んだ交通事故とか、汚れ仕事を全部裏で受けまくって築いた中郷とのコネがあったからなんだって。で、代わりに悪事を意図的に見逃してもらえたりした。今じゃXIED(シード)の大規模な出撃命令や許可を出すのも中郷だしね」


「……そんなことで……」


 そんな汚れ仕事で交通事故に見せかけて両親も死んだ。ついでに岩龍会からダークメアになって3年後の2019年に恋人も火事に見せかけて殺された。その関係は組織が拡大してもなお続いていたことが伺える。


 23区内に位置する渋谷区にフォルテシアが現れるまでXIED(シード)が来なかったのも命令や許可が降りなかったからかもしれない。

 だとするとフォルテシアはなんで来れたのか。気になるが今は置いておく。


「姉さんの古巣のXIED(シード)も今は中郷の支配する王国ってわけか」

 唇を噛む花予のその言葉が的を射ている。本来、異能絡みの犯罪や事件を相手するのがXIED(シード)なのにそれを見逃す時点でマトモではない。


「母さん達が変態ピエロの出世のために犠牲になったから、今の裏社会があるってことか……」


 だからあのピエロはその命を捧げたと死に際に言っていたのだ。小3の時に火事で死んだ恋人もそうだと言っていたので、中郷から更に何かメリットをもらったのかもしれない。あれもピエロが仕組んだものだった。


「言っちゃうとそうね。でもビジネスだから、仕方ないのよ────」


 数秒の沈黙の後、そっと口を開くハイン。


「誰かを殺したり、大切な何かを奪ったり、欺いたり……そういうのが平気で巻き起こっているのがこの世界の本性だから」



 その残酷で容赦のない言葉に思わず花予の方を見た。泣きつきたくなる。

「ハナ……」

 花予も眼鏡の奥の目から涙がこぼれそうな顔をしている。


「辛いよな……あたしもだ。こんなおっさん達のくだらない理由で殺されるなんて、姉さん達は納得いってないだろうよ」

 花予は話始める。


「でも姉さんはさ、XIED(シード)に入って凄く幸せだった。諒介さんとも出会えたしな。諒花もこうして生まれてきてくれたし」

 その通りだ。母、初月花凛はXIED(シード)の捜査員だったのだから。でなければ今の自分もいない。中郷がいなければこんな事にはならなかったかもしれない。


「諒花さんのご両親の活躍について、花予さんはどこまでご存知? 中郷という名前に聞き覚えは?」

 翡翠が花予に尋ねた。


「いや、あたしは姉さん達の仕事模様とか詳しくは知らないね。というか公にできない仕事ばかりだからベラベラと話してくれることもなかった。でも諒介さんは異人(ゼノ)じゃなかったから、戦闘面は姉さんが中心だったと思うよ。警察官みたいに二人で巨大な何かと戦ってるんだってぐらいの認識だね」


 なるほどと、頷いた翡翠。そう、ただの人間と異人(ゼノ)のバディだったのだ。


「そこで思ったのですが、中郷が諒花さんを狙う理由は花凛さんや諒介さんが関係しませんか?」


 あ。


「ハナ、もしかして一連のコレ、全て母さん達の繋がりだったりしないか?」

 そうとしか考えられない。


「そうだね。あり得るかもしれない。姉さん達は仕事を通して中郷と会ったことがあるのかもしれない。そもそも、諒花のことを狙ってるならどこで初めて知ったんだ? ってなる」


「アタシのことは母さん、あるいは父さん通して知ったのかもしれない」

 となると同じXIED(シード)、あるいはそれに近しい人の情報が必要となってくる。


「蔭山さんと……あとフォルテシアか」


 これ以上のことは確認してみなければ分からない。XIED(シード)絡みは蔭山、次いでこの前戦ったフォルテシアが詳しいだろう。特にフォルテシアは中郷についてもっと知っているかもしれない。


 タダで教えてくれそうにはないが。しかし蔭山、そして昔から交流がある翡翠がいるならば、フォルテシアからも聞き出せるかもしれない。




 敵の名は中郷だ。そいつこそが諸悪の根源。岩龍会が滅んだ後の今の裏社会を変態ピエロと組んで築き上げ、変態ピエロと零の裏で手を汚さずこちらを見ていた存在。


 変態ピエロも中郷の都合の良いように動くわけではなく、帝王である自分を倒せるほどの異人(ゼノ)の到来を中郷打倒のためにずっと待っていた。


 だがそんな倒された変態ピエロもプロジェクトの話を聞いた今だと本当に死んだのかが怪しくなってくる。死のうが死んでなかろうが両親、恋人の命を中郷から仕事を受けて奪ったことは変わらない。倒した時も敵討ちができたとかよりもあのピエロが遺した、真の黒幕中郷の存在と零が監視役であることを示唆する言葉の方が響いた。倒してもそこでゴールではなかった。

 今思えば達成感なんて微塵もなかったように感じる。ピエロは────かもしれない。



 零は中郷から送り込まれた監視役。小4から同じ小学校に転校してきて今の中2に至るまでずっと、裏で監視活動に従事していた。


 お台場にいる可能性が高いが、宿泊させられているホテルの居場所を滝沢家の捜索隊が突き止めるまで待つしかない。零と中郷が連絡を取り合うために使っているだろう新しいアカウントを特定することも不可能。


 そういえば零の具体的な素性の情報もまだ分からない。マンティスでダメ元で訊いてみると残念そうに肩をすくめ、


「生憎、出てきた情報はあれで全部だ。黒條零の経歴までは分からなかったな。XIED(シード)から送られた監視役、それも長官直々だから特殊なのは違いないだろう」


 自分よりも頭が良くて頼れる親友で相棒だった零。監視活動のため嘘で塗り固められていたことでその生い立ちはとても想像できない。これまで一緒にいても、本人の口から語られることなく隠された部分そのもの。


 変態ピエロの掲げるプロジェクトについてもハインはまだ他にも知っていそうだが、


「プロジェクトは最高機密なんだけど、さっきのワイルドコブラと中郷が繋がってる話をすれば、慌てて話してくれるでしょ。もうウチだけの問題じゃないしね」


 カヴラもまた、スカールから話されたことでプロジェクトの内容を知っている。その後に逆上して渋谷攻めを始めた。もし、プロジェクトの情報がカヴラから中郷に漏れでもしたら変態ピエロのプロジェクトはぶっ壊れてしまう。なのでその身柄を急いで確保する必要がある。スカールも教えざるをえないだろう。


「プロジェクトの全貌の説明は後でこっちに来る現場責任者スカールに任せるわ」


 ハインは軽く欠伸をし、怠い態度でそう言い残し、一切口を開くことはなかった。


 ひとまずこれで、だいたいの事が整理できた。この後もすっかり影が薄くなった勝のもと、プロジェクターを見て要点をおさらいし、解散となった。


 こうして、昼過ぎから始まった、零のパソコンを通した話は気がつけば、15時のおやつの時間帯となっていた。だが今はおやつよりも…………少し休みたい。


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