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第97話

「やっぱ……差し金だったのか」


やはりワイルドコブラも中郷と繋がっていた。これじゃまるで相手の手の内の中にいるようなものだ。

零のこともそうだが、自分からは出てこないで何より自分の都合によって他人や他の組織をとにかく動かして利用する印象が滲み出ている。


「本来はダークメア内ではカチコミ担当のワイルドコブラがじっくり時間をかけた頭脳派な戦略をとるようになったのも、中郷が影響している可能性がありますわね」


どれだけ関与しているのかは分からない。ただ翡翠の推測する通り、零をこちらに送り込んだ要領で中郷はワイルドコブラに知恵を貸した、もしくは授けたのかもしれない。


──もし零がいなかったら今の自分がないように。


零については少なくとも最後の中郷とのやりとりから、お台場のどこかにいるという所までは分かっている。これだけでも前進だ。滝沢家の捜索隊が何かあれば報告してくれるというが、このワイルドコブラとの抗争が終わっても何も見つからなかったその時まで零が見つからなかった時は……


「諒花、あたしがついてるよ」

そっと花予の暖かい手が肩に置かれて焦燥感が和らいでくる。そうだ、戦い続ければ必ず道は見えてくる。ワイルドコブラも中郷と繋がっている以上、必ず中郷の近くに零もいるはずなのだから。


花予は翡翠に視線を向けた。

「中郷は零ちゃんを監視役に送り込んで、更には他にも繋がりがあった変態ピエロとかも上手く利用してさ、諒花のデータをこっそりとってたんだろうね。質の悪いストーカー野郎だ」


「ええ、花予さん。諒花さんに直接声をかけないのも、本人が欲しいというよりも彼女の内側に宿るものが欲しいのだと思いますわ」

花予に相づちを打つ翡翠。内側というとやはりチカラか。


やっぱりとんでもないもの見ちゃったね、と切り出す紫水。

「それにしてもさ、XIED(シード)のトップなのに裏社会の大物、それもダークメアの総帥と組んでるって、それだけでも裏がありそうだしおかしいよね」


紫水の言う通り、中郷は長官という立場でありながら黒い繋がりがある。しかも本来は敵対関係にある相手とだ。XIED(シード)にとってダークメアは表向きは敵対関係であるはずなのに。


すると突然プロジェクターに地図が表示される。それは首都を中心とした関東甲信の地図。23区は青色。区外は黄色のエリアが点在し、あとは灰色に塗られている。


「ヘイシスター、その通りだぁ! マサル、例の勢力図マップ、オープンしちゃう?」

「ああシンド。今見るとこの図の見方も変わってくるかもしれない」

シンドロームの方を見て相槌を打つと、勝は向き直って説明を開始する。


真っ白いプロジェクターには東京都の地図が表示された。東京23区は全て青色に塗りつぶされ、その外には黄色く塗られた箇所が星々のように大小様々に各地に点在している。逆に23区外には青色のエリアは存在していない。その特別に青く塗りつぶされた23区はさながら巨大な島にも見える。


「これは東京の裏社会のXIED(シード)とダークメアの支配状況を示している。XIED(シード)は東京23区外に拠点を置いているのに対し、ダークメアは逆に東京23区全てを制覇しているんだ」


「翡翠さんの支配するこの青山も港区の一部だから実質ダークメアの支配下に含まれるが、俺達は地下闘技場とかの仕事を請け負ったり上納金を払ったり、近所付き合いをすることでフェアな関係でいられるわけだ」


つまりは滝沢家もダークメアの下。なのだがその翡翠があまり向こうにペコペコ頭を下げているようには見えない。ワイルドコブラの件で謝罪を受けて見返りを要求したというが、実際はそのワイルドコブラも裏で中郷と繋がっていることは本家ダークメアも知らないのかもしれない。そうなれば実際は互いに被害者だろう。


勝は青色と黄色のエリアをそれぞれ指差して話を続ける。

「この図、岩龍会に取って代わったダークメアの台頭が凄かったからこうなったとも言えるが、ダークメアと日本のXIED(シード)のトップ二人が揃って繋がりがあるという事実を知ると、まるで双方で綺麗に分配されているように見えるんだ」

その地図は23区が青色に染まる一方で、区外には各地に黄色のエリアが各所に点在している。あとは全て白色だ。


渋谷駅近辺は当然渋谷区に含まれるが、そこから電車一本で23区外である吉祥寺駅まで行くことができる。が、その吉祥寺は黄色に染まっている。渋谷は23区なので当然ダークメアの支配領域であり、渋谷はさながら玄関口のようだ。

「とまあ、こうして俺達は今起こっている戦いの裏側に辿り着いたわけだが、今回のウチとワイルドコブラとの抗争、それ以前に現在ダークメア本家が掃除にあたっている内紛――これら全部、中郷が絡んでいると見ていいだろう」


そう言って締める勝。ワイルドコブラと中郷が繋がっていることは先ほどの零とのやりとりで明らかだ。ただ気になることが一つ。

「ダークメアの事情は分からねえけど、内紛も中郷なのか?」


翡翠の方を見て訊いた。そうだ、まだダークメア関係のことは聞いていない。

「まだ可能性の内ですが、中郷に仕組まれていたと考えると自然なんですよね。内紛はワイルドコブラが動く上でちょうど良いんですよ」


ようやく見えてきた戦いの理由。零がいなくなった本当の理由。ダークメアの事情、そして零はどこへいったのか。あと解決すべき要点はそれに絞られてきた。翡翠はそれを順番に指を立てて整理する。


「まず諒花さんがレーツァンを倒した後にダークメアで内紛が起こり、その後ワイルドコブラが本家の意向を無視して侵攻を開始しました。もしこの時、内紛が起こっていない通常時であればどうなっていたでしょう?」


もしも、仮にあの時、あの変態ピエロに負けていたら無理やり賭けの対象にされた花予はおろか、青山も無くなっている。中郷もここまでする必要はなかっただろう。


だが総帥が死に、その後に起こった内紛、それが中郷によって仕組まれたものとすれば、ワイルドコブラが動けるフィールドは整う。

「そう。スカールさん達本家が止めてここまでの騒動には至らなかったはずです。そうなればダークメア内でのただのお家騒動どまりです」


全ては先月19日にあの変態ピエロを倒したことから始まった。そして内紛も仕組まれ、そして中郷が手を回したワイルドコブラが内紛を機に動き出したとするならば合点がいく。そういうことだろう。


パチ、パチ、パチ。


パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。


その時、どこからか聞こえる、手を静かに叩く、称賛の音が部屋に響いた。



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