第10話
「…………」
「………………」
「……………………そうだよ」
暫くの沈黙が続いたのち、それを認めた返事がそっと当人の口から出た。
「質問を続けるぞ。いいか?」
「うん」
零がそっと頷くのを見て、話を再開する。
「お前は変態ピエロとは実は裏で繋がっていたグルだったのか?」
「違う! 私はレーツァンとは繋がってはいない」
首をブンブンと横に振って声が大きくなった零。そこには冷静さはなく、必死さが見て取れた。だがピエロは初めて会った時、こんな事を言っていた。
『フヒャーハハハハハ!! さすが反応は鋭いな、黒條零。おれの攻撃を防ぐとは。よくお守りをやってらっしゃる』
あのピエロと初めて戦った時。後ろから姿を見せてそいつは不意打ちを放ってきて、零がとっさの判断で守ってくれた時に発せられた彼の言葉。
初対面だったが向こうはこちらの事を知った上で接近してきた。今思えばお守りという言い方は勝ち誇りながら小馬鹿にしたものにしか聞こえなかったが、零の本当の立場を知った上での言葉だとすれば意味は違ってくる。
「じゃあ、次の質問いくぜ。これ翡翠が言ってたことだけど、アタシのチョーカーにGPSが仕込まれていた。これもお前の仕業か?」
いつも昔から首にしてきた赤いチョーカー。だがそれに細工がされていたとは微塵も思わなかった。
「違う。でも心当たりはある」
「心当たり?」
思わずオウム返ししてしまった。すると零はスマホを取り出すと、そこにはこの家とその周りの周辺地図が映っていた。
「なんだこれは?」
「私のスマホにはあなたと出会った最初から特別なアプリが入っていて、これで諒花の居場所は常に分かるようになっているんだけど、こういう事だったのね……」
「こういう事?」
訊かれてなぜか納得した零。黒幕に全ては知らされていないということか。
「諒花が持つ強力な異源素反応を察知していると、上から説明は受けていたんだけど、チカラを読めるこの技術を使えば襲ってくる敵の居場所も分かるシステムも作れるだろうと、いささか疑問に思っていた。これを作るための監視対象の細かいデータも充分にないはずなのに、なんで諒花の居場所を表示できるのかも」
機械には詳しくなくてもその解説で分かってしまった。零が持つアプリは厳密にはチョーカーに仕組まれていたGPSの場所を指し示めしていたにすぎなかったことに。居場所が出てこない、ただ地図だけ出ているのもそのためであることも。
さすが零らしい考え方だった。そこまで読み取れるなんて知識の量が違いすぎる。こちらは変態ピエロが起こした謎の女騎士事件と、翡翠によって明かされた情報と、推理した翡翠の導きによってやっと、ここまで行き着いたのだから。
「チョーカー……レーツァンとの戦いを終えてからは外しているけど、何ともなかったね」
「そうだな。翡翠にもあの変態ピエロと戦う時に外すよう言われたけど、何も起こってないしこれからはチョーカー無しでやってみることにした」
レーツァンを倒して事件解決から一週間後の26日。即ち昨日、翡翠と会うまでも特にチカラが暴走するとかトラブルもなくチョーカー無しでも生活できていた。
あの戦いとここまでの日々で分かった。体育の授業も何事もなく過ごせた。バレーボールでボールを打つ時は無意識に手加減したが、それをしなくても特にトラブルもなかった。もう、気がつけばチョーカーによるチカラの抑制という補助は今の自分には必要ないものだったのかもしれない。幼かったからつけられたのだろう。
「じゃあ最後の質問だ。なんで小四の時に転校してきて今までずっとアタシの情報集めて、履歴書まで作るようなマネしたんだ?」
初めて出会ったのは4年前の2020年。小四の始まりの春に転校生としてやってきたのが銀髪に眼帯をした少女、黒條零だった。
「履歴書?」
厳密にはそうではなく、翡翠の表現だ。だがもはや究極の履歴書とでも言うべき代物だと説明する。
「翡翠がなんでアタシの情報に最初から詳しかったのかっていうと、変態ピエロが翡翠に手渡した履歴書のせいだったんだ」
翡翠に聞かされた内容をもう一回零にも説明した。その履歴書は滝沢邸にあることを言ったうえで。零が来る前の小三から前の情報よりも、零が来てからの小四から今に至るまでの情報が明らか多く書き込まれていて、しかも零しか知り得ない情報まで書かれていたのだから、零がクロであることを裏付ける証拠でもある。
「そうか……私が報告していた情報、資料になってレーツァンに渡っていたんだ」
「そういうことだ。何も知らないようだな?」
「初耳よ。私は何も知らなかった」
ここからはより踏み込む。そもそもどうしてこうなったのか、明らかにする。
「なあ、零。どうして今まで隠してきたんだよ? なんでアタシの監視なんかしてたんだよ?」
花予に自分がチカラでメディカルチェック不合格になることを隠し事をされて傷ついたこともあった。この痛みはそれと同じだ。それを零もやっていたのだから余計に辛い。みんな嘘つきでズルい。いくらでも相談してくれれば良かったのに。まるで自分だけが置いてけぼりを食らっているようでとても寂しい。
「アタシはお前のことを……一緒に戦って、一緒に楽しい日々も辛い日々も過ごして、かけがえのない相棒で、仲間で、親友だと思ってたのにさ……」
零の肩にそっと両手を置く。目から涙がこぼれる。
「教えてくれよ……お前にとってアタシはなんだったんだ? お前にそうさせた黒幕ってのは誰なんだよ? 教えてくれよ……なぁ!!!!」