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転生者の贖罪  作者: 七篠
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勧誘の理由

 予想外の勧誘に面食らってしまったが、はっきりと言う。


「申し訳ありませんが、理事長達を裏切ることは出来ませんのでお断りします」

「まぁそうでしょうね。少し調べさせていただきましたが、あなたはそういう方なのは分かっておりましたから」


 断られることを前提に言っていたのか、断られた事に関して特に何も思ってなさそうだ。


 それにしても……不利だな。

 会長は現在NCDと交戦中、そして生徒会メンバーと思われる他の生徒達は床に押さえつけられた状態。その中の1人が生徒の首に刀を当てているので刺激してしまった場合どうなるか分からない。

 最悪命がいくつか消える事になる。


「それで今回の事件はどうして行ったのでしょうか」

「今回の目的は2つ。1つはこの学校に向かっている軽度の呪いにかかっている者達の戦闘能力の解析です。ご覧の通り成功とは言い難いですし、制御もほぼできない。ただ助けを求めてさ迷うだけですね。2つ目は佐藤柊さん。あなたと少しお話をしたいと思い、その時間を作るためです」

「何を話したいのですか?」

「簡単な事です。先ほどの話に戻りますが、あなたをNCDに勧誘したいのです」

「先ほど断ってしまいましたが、理由をお聞きしても?」


 単純に理由を聞きたいという思いと、理事長達が気付いてくれるための時間稼ぎのつもりで言う。

 リルの頼んで他の生徒達を助けてもらう事も可能だが、相手の戦闘能力が不明なためあまりにも危険な選択だ。

 リルはいつでも飛び出せるように姿勢を低くし、牙をむき出しにしていても襲い掛からないのは俺からのゴーサインがない事と、彼らの安全のためだろう。


「いくつか理由はありますが、1つはこの薬を作らなくていいようにするためですね。この薬も実は事情あって精製した物であり、このようにばらまく意図はなかったのです」

「それではなぜ今現在ばら撒かれているんですか」

「こちらも一枚岩ではないという事です。ご存じの通りこの薬をばらまく事で財を築こうとする者が内部にいたのです。その者も幹部であり貢献してくれてはいるのですが、金に汚い所があり、こうして少しでも金になりそうな話に飛びつく者なのです」

「なるほど。ではこの薬をばらまくのは主な財政ではないというのであればどうやって活動費を得ているので?」

「私達のような不良グループに金を出して手でも呪いの正体を暴きたいという方は一定数いるものなのですよ。王道な手段だけでは呪いの真実にたどり着くのには時間がかかりすぎるのではないか、少し強引なやり方であっても試す価値はあるのではないか、そう思う方はいるという事です」

「でもあなた達はこの薬をばらまく事は良しとしてない」

「はい。あくまでも今回できた薬は偶然の産物、金儲けのためでも何でもありません」


 やっぱそういう奴は出てきてるか。

 多少強引な手段でも試したいからこうした犯罪グループに資金を与える代わりに指示を出すような連中は必ずいる。

 それを特定するのは……理事長達に任せよう。


「それで、俺を勧誘したい理由は何ですか」

「簡単です。私達が暴走しないように共にいて欲しいのです」

「暴走しないため?」

「はい。この薬を作る事になった経緯にも関係しています。実を言うと私達幹部でもいつの間にか自然と呪いの力が増してしまう現象が起きてしまっているんです。もしそうなった場合は呪いの力を適当な物質に移す事で自分で制御できる呪いのエネルギー量に調整するんです。しかしその場合いつか呪いは自分に戻ってきてしまう。半永久的に自分の体に戻ってこないようにするためには他の生物に呪いを移すしか方法がありません。それではあまりにも関係のない方達を巻き込んでしまうという懸念からこれが作り出されました」


 そう言ってポケットから出したのは錠剤をしまっておくためのケース。その中にはおそらく呪いを付与された薬が入っているのかもしれない。


「幹部の1人が呪いをこの錠剤に移す技術を開発しました。この錠剤に呪いを移し、ケースにしまう事で呪いが自分達に戻ってくるような事はなくなりました。ですがどういう訳か私達の力は日々増すばかり。そのため一日に何百と言う数の錠剤を作ってしまい事が起こるようになってしまいました。そこに目を付けばら撒いたのが幹部の1人と言う訳です」

「つまりその錠剤は誰かに飲ませるためではなく、あくまでも過剰な呪いを捨てるための道具でしかなかったと」

「はい。ただしこの錠剤を呪いが付与された錠剤で飲むと飲んだ方にも呪いが移ってしまう事を発見したのもその幹部であり、現在捜索中です」

「つまりその幹部は」

「現在NCDに所属していません。逃亡しながら集めた資金で新たなグループを作ろうとしているのでしょう。あの男らしい」


 呆れ返ったように言う彼女に対して俺はせめて捕まえておいてほしかったなと思う。

 そんな状況になってしまっているから今の状況になっているのだろう。


「その結果がこれ、ですか」

「申し訳ありません。この状況を利用して佐藤柊様に接触を計ったのです」

「それから聞いておきたいのですが、彼はそちらのグループで?」


 乾の事を見てから聞くと首を横に振った。


「いいえ。彼はその逃走中の幹部の部下だと思います」

「そうですか」


 ちょっと残念。

 彼女達の仲間だったら交換で捕まっている生徒会メンバーと交換できると思ったのに。


 そう思っていると会長が派手に生徒会室に戻ってきた。

 戦っていた相手に殴り飛ばされ、強制的に生徒会室にまで戻されてしまったらしい。

 息を切らしながら膝立ちの状態で戦う意思を見せるが、会長と戦っていた少年は汗一つかかずつまらなそうな表情で会長を見ていた。


 それにしても本当に小さい。

 おそらく小学4年生くらいか?俺達よりも子供で特徴的なのは暗い銀色の髪。

 どこかで見覚えのある髪の色の気がするが……誰だっただろうか?


「会長大丈夫ですか」

「……あまり大丈夫ではありません。あの少年、意外と強いです」

「みたいですね」


 会長と戦って平然としているのだからそりゃ強いに決まってる。

 そう思っていると少年が彼女に向かって言う。


「飽きた。もっと強いのはいないのか?」

「居るのは確実ですが、絶対に勝てないので止めておきなさい」

「戦ってみたい」

「ダメです。私達は見逃されている。彼女らが本気を出せば絶滅するのはこちらです。ある程度の目的は果たしましたから帰りましょう」


 彼女が言うと生徒会メンバーを押せつけていた人達も立ち上がる。

 押さえつけていた人達は種族どころか年齢も性別もバラバラ。一見すると寄せ集めと言う雰囲気がする。

 だが彼らの関係性は非常に近く、信頼し合っている事も分かった。


「最後にいくつか良いですか?」

「なんでしょう。そろそろ逃げないと危ないので手短にお願いします」

「それじゃ手短に。本当に力が暴走しそうになったら遠慮なく俺の元に来てください。その呪い受けとめますから」

「ありがとうございます。それだけでも私達のメンバーは助かるでしょう」

「そして最後に。あなた達の再最終目標は何ですか」


 これだけは確認しておかないといけないと思い俺は聞いた。

 少年達は言うのか?っと彼女に向かって視線を向けると頷いた。

 どうやら最終目標を教えてくれるらしい。


「私達の目標は、彼の遺志を継ぎ、聖書の神を倒す事です」


 その言葉にいくつかの疑問が浮かんだ。

 彼とは誰か。

 何故聖書の神を倒す事を目標にしているのか。

 何故復活する事を知っているのか。


「なぜあれを狙う」


 聖書の神は俺の獲物だと、視線で強く訴えかけながら聞くと意外にもあっさりと口を開く。


「この呪いはあの聖書の神を倒すための物だと分かったからです」

「どうやって分かった」

「私達のリーダー、現段階で最も強い呪いを受けた方がそう言ったからです。我々は彼の遺志を継ぎ聖書の神を倒し、真の自由を得るために戦わなければならないと」

「彼とは誰だ」

「分かりません。リーダーも分からないと言っています。ですが呪いが強まれば強まるほど確かに誰かの声が聞こえてくるのです。『倒せ、聖書の神を倒さなければならない』っと」


 俺にその声が聞こえてこないのは呪いの量が少ないからか?

 これからも呪いを得て力を上げて行けば消えるようになる?

 その声がもしかしたら呪いを消す方法が分かるかもしれない??


「なので私達はウロボロスと戦うつもりはありません。そんな余計な事をする余裕は一切ありませんから。それではごきげんよう」


 言いたい事を一方的に言って彼女達は転移してしまった。

 その光景を見て会長は苦々しく表情をゆがめていたが、俺はツーに聞く。


「ツー。俺の電話番号は送ったか」

『彼女のスマートフォンに登録しておきました。もし彼女達が本当に呪いで苦しんでいるのであれば連絡が来るでしょう』

「そうか。会長あとはどうします?」


 俺がそう確認を取ると会長は少しだけ目を閉じて冷静になってから俺に指示を出す。


「柊さんとリルさんは彼らを保健室まで搬送してください。そしてそこにいる彼には重要参考人として先生達に渡しますので拘束お願いします」

「分かりました」


 こうして俺は戦う事はなかったが、また妙な事に巻き込まれてしまった。

 呪いを中心に様々な欲や願望がごちゃ混ぜになって訳分からない事になっている。

 一体この世界はどこに向かっているんだろうな。

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