記憶資料
『最後まで責任を取ってください!!』
――
「どうにか準備できたよ~」
後日、カエラから準備が出来たと教えてに来てもらったのだが……かなり疲弊しているような感じだった。
「そんなに準備大変だったのか?」
「準備って言うか戦闘科の施設を普通科の人に使わせるってところで苦労した。結局見張り付きでないとダメだってなっちゃったし」
「見張り?」
一体誰が見張りになったのだろう。戦闘科の先生だろうか。
「失礼します」
なんて思っていると教室の後ろの扉から生徒会長、つまり水地涙が現れた。これには俺だけではなく他の生徒達も驚いている。
水地涙は俺を見つけて真っすぐ視線をぶつけながら言う。
「あなたが視聴覚室を使いたいという普通科の生徒ですね」
「は、はい」
「今回は特例である事を理解した上で使用する事を許可します」
「……はぁ」
お堅い事を言われているが、結局使っていいのであれば俺はそれでいい。
俺は椅子から立ち上がりカエラに言う。
「カエラ。その視聴覚室に案内してくれ」
「分かった」
「ちょっと、聞いてます?私は見張り役として一緒に居ますからね」
水地涙は慌てた感じで俺達の後ろを歩く。
カエラが先頭、その次に俺、最後に水地涙と言う形で俺達は戦闘科の視聴覚室に向かう。戦闘科は昔っからやんちゃな連中が多かったのでかなり頑丈に造られており、戦闘科とそれ以外の学科との間に頑丈な扉が設置されている。
まぁ何というか、SFに出てくるような武骨な鉄の壁。さらに魔法による結界など、これでもかというくらいの防衛措置が取られている。
まぁ本当は戦闘科の連中がバカやった時に他の科の連中に迷惑をかけないための措置なんだけど。
そんな頑丈な扉の先に進み、1つの部屋に来た。
そこは視聴覚室と言うよりは映画館のような感じであり、無駄に席の数が多いし、映像を編集するための機材のような物も揃っていた。
「……相変わらず戦闘科は金がかかってるな」
「相変わらず?」
「いえ、ただの感想です。で、見ていい映像資料はどれですか」
「このUSBの中身だけです」
昔っから戦闘科にはやんごとなき連中ばっかりいたからか、相変わらず戦闘科には金がかかっていると思いながら聞くと水地涙が俺にUSBを渡しながら言った。
早速近くのパソコンを起動し、USBを指して映像を確認する。
映像資料は大きく分けて3種類あり、1つは監視カメラからの映像、2つ目は戦闘科の生徒が撮影していたと思われる映像、3つ目は誰かの視覚カメラだろうか?細かい動きをしながらせわしなく見ている場所が変わる。
「この3つ目の映像資料なんだ?スゲー見づらいんだけど」
「3つ目は記憶映像だね。と言ってもあまり画像はよくないけど」
「記憶映像?」
「特殊な機材と魔法の併用で記憶を映像化する技術だよ。カメラとかがない状況とかでも映像を確認できるから結構助かってる」
「最近の技術はスゲーな~」
イメージはいまだに前世の頃と変わっていないとばっかり思っていたのでカエラの説明は予想外の技術革新だ。
他人の記憶の中だからこそ見えてくるものがあると思うし、自分が見たと思っていたものが実際はどう正しく映っていたのかどうか確認する事が出来る。
まぁ悪い事にも色々と使えそうな技術でもあるけどな。他人の記憶を盗み見る事が出来るのであればかなりの価値を持つ。
俺はさっそく資料から確認したい事を探し始める。
「……なんか手馴れてる感じだね」
「え、何が?」
「結構特殊な機材なのに巻き戻しとか慣れてる感じがして」
「そうか?でもまぁ機材を見れば大体の使い方は分かるだろ」
俺はつまみを回しながら映像資料を確認する。
とりあえず俺が見たいものは彼の動きや表情の類だ。戦闘中という事もあり、余裕がなかったので彼がどんな表情で俺の事を襲っていたのか確認したいと思っていた。
他にも俺だけを狙ってきた理由が他にないか調べてみたいと思っている。まぁ具体的にどのような行動が原因か、想像すらできていないが確認すれば何か分かるのではないかという淡い希望もある。
とりあえず1番上の記録映像から確認していく。
……………………映像資料を見てそれなりの時間が経過した。
もう既に夕方になってしまっており、部活を終えた生徒達が帰り始めている。そして俺と一緒に居たカエラはうたた寝をしているし、水地涙に関しては俺が変な事をしないか厳しく見張っている。
だが俺が欲しいと思う資料は全然ない。
これはい失敗したかと思った。確かに彼の動きそのものは様々な資料に残っていたが、肝心な表情が全く写っていない事の方が多く、あまり参考にはならなかった。
「う~ん……」
「見たい資料はなかったようですね」
「残念ながら。巻き込んでしまってすみませんでした」
「いえ、これも仕事のような物なので。本日以外では使用許可は下りていませんがよろしいですか」
「まぁ……これ以上この中の資料から見たい物はないので大丈夫で……」
背伸びをしたときに、ふと目に入った物があった。
それは床屋か美容室にあるパーマをかけるような椅子と頭にかぶせる物が一体となった謎の道具。視聴覚室には明らかに不自然な物。
もしかしてという予想をいだきながら生徒会長に確認を取る。
「あの道具は何ですか」
「あれですか。あれが記憶を読み取る道具です。と言っても道具だけで記憶を読み取ってデータに変えるにはそれ専用の特殊な部屋が必要となりますが」
「それ俺に使ってくれませんか」
「え」
生徒会長は意外そうな声を出した。
「多分俺が1番確認したい情報は俺の記憶の中にあると思います。なのであの機械を使ってあの日の記憶をデータとしてコピーできませんか」
俺がそう言うと生徒会長は慌てて言う。
「出来なくはありませんが記憶をコピーするという事は記憶を取られる側の人の個人情報を他者と共有するという意味です。戦闘科の生徒、私を含めて全員記憶をコピーする際には個人的な記憶はコピーしないという念書と誓約書を書きます。これは個人情報を守るための措置であり、あくまでも戦闘データのためだけのコピーである事を約束します。普通であれば自身の記憶をコピーさせるなんて嫌なはずです。普通かの生徒でも嫌がっている方は非常に多いです。しかもあなたは普通科の生徒、あの日の記憶限定とはいえあなただって記憶をコピーされてそれを保存されるのは気分が良いとは言えないでしょう。それなのに何故……」
生徒会長は俺の行動が理解できないという感じで言う。
まぁ普通は生徒会長と同じ感想だろうな。自分の記憶を誰かに見られることを良いと思う奴はいない。俺だって昔の記憶をコピーされると思えば全力で拒否させてもらう。
だが何度も言うがあの時の彼の表情を見れば何か分かる気がする。自力で思い出そうとしても覚えている事のほとんどは戦闘の事だけ、それだけでは分からない事があると思ったからこそここに来たのだ。
それが判明しないまま放置しておくつもりはない。
「簡単に言えばスッキリしたいからです」
生徒会長に向かって俺はそう言った。
当然どう言う意味だと視線で訴えてくるので答える。
「俺は彼に何があったのか確認したいと思ってこの視聴覚室に来ました。しかしその結果何も分からなかったではスッキリしないんです。でも俺自身が気が付いていないあの日の記憶を確認する事で分かるのであれば確かめてみたいと思います。その機械の使用許可をもらえませんか」
俺がそう言うと生徒会長は目頭を指で挟んでもの凄く悩んだ表情をする。
答えが出るまでしばらく待とうと思っていたが、意外と返答は早くやってきた。
「残念ながら今すぐ機材を使用する事は不可能です。言ったでしょう。あの記憶のコピーはあの機械だけではできないんです。それに機材を使用するにも特殊な人材が必要となります。なので今すぐあの機械を使ってあなたの記憶をコピーする事は不可能です」
「そうですか……」
やっぱ無理か……
「ですが」
ダメだと思っていたら生徒会長が続けて言う。
「日を改めて行う事は可能です。ただし必要な資料や外部への依頼など色々あって時間がかかりますのでしばらくお待ちください」
「え、やってもらえるんですか?」
「こちらにもメリットがないわけではありませんから。ただ普通科の生徒が受けるとなると色々手続きが多くなると思いますのでそこだけは覚悟しておいてください」




