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転生者の贖罪  作者: 七篠
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天檻

 俺は今まで抑えていた力、呪いの力を解放した。

 元々俺を包んでいたオーラは半透明のドラゴンの翼と尾を再現し、力が底上げされる。

 はぐれ悪魔の手を両手両足を使って広げ、俺は手の中から脱出した。

 空中で静止する俺を見てはぐれ悪魔は信じられない物を見るように言った。


『な、なんだその力は!?』

「お前より真っ当な力だよ。いや、使い方が真っ当と言った方が正しいか」


 周辺に俺以外の人は見当たらない。全員避難したからこそこの姿を見せる事ができる。

 呪われていると言う差別はどうしても生まれてしまうので人前ではどうしても使えない。だから避難するまでの時間稼ぎと同時に俺が呪いの力を使って戦えるよう環境を整えていた。


「さて。会長からお前が使ったドラックについて調べたいって言ってたから半殺しで許してやるよ。まぁそれでもかなり痛い目には遭うだろうけどな」

『そ、それが何だー!!』


 蚊でも潰すように両手で叩こうとするが素早くすり抜け、バットで顎を叩く。

 はぐれ悪魔になったとはいえ、体の構造は悪魔とそう変わらない。精々ダメージを受けたところが鱗のような物で覆われるだけでそれ以外は大した事ない。

 それに今叩いて分かったがこの鱗、血が噴出したところにしか発生しないらしい。

 今の攻撃ではぐれ悪魔の顎が砕けた感触がしたが、鱗が現れる様子はなく、ただ砕かれた骨が自動的に修復されていく様子が肉の上から分かる程度。肉がグニャグニャと動いて骨の位置を正している。

 殺すだけなら技は必要ないが、あくまでも今回の目的は捕獲。そしてあの薬について詳しく聞ける状況を作っておいた方が良いだろう。


『今度は顎を!この野郎!!』


 俺に向かって炎を吐くがもう防ぐ必要すらない。

 真正面から受けるが炎の熱も、燃えた事で出てくる毒性の高い気体も俺を殺すことは出来ない。

 30秒くらいわざと受け続けるとはぐれ悪魔は息切れを起こし肩で息をする。


「熱くも痛くもねぇな」


 何のダメージも負っていない事をすぐに察したのか、はぐれ悪魔はがむしゃらに突入して来た。

 もう既に有利であった頃の余裕の表情はなく、必死でとにかく目の前の存在を殺さないと生き残れないと言う感情が出ている。

 もうはぐれ悪魔の攻撃が俺の防御力と突破出来るほどの攻撃力もないし、死がもう少しで自身の目の前に現れる恐怖から魔法を使って攻撃しようとする理性もない。


 ただ必死になって俺の頭の上から拳を振り下ろした。

 わざと殴られてみたがやはり痛みはなく全て防ぎきっている。少しずつ加速しながら連続で拳を俺に叩きこみ、確実に殺そうとして来るが俺は余裕の笑みを浮かべて笑う。


 その程度か。


 そんな笑みにはぐれ悪魔はまだ殺すには足りないと感じたのか雄たけびを上げながら必死に、がむしゃらに俺の拳を浴びせる。

 もうその目は完全に生への執着心しか見えない。

 ただ今殺されたくないという純粋な感情がはぐれ悪魔を動かしていた。

 最期にとどめと思ったのか、足を大きく上げて踵落としをしようとしたが、俺のバットを再び大剣のようにして斬り落とした。

 斬り落とされた勢いで闘技場の端まで転がっていったが、はぐれ悪魔はすぐにくっつけようとする。


『この程度……?』


 先ほどと違い大した痛みではないのでまたすぐ引っ付くと思っていたようだが、斬られた足首と残った足がいつまでたってもくっ付かない事に疑問を浮かべるはぐれ悪魔。

 それどころか斬られた個所から鱗のような物も現れず、防御力が増す事もない。


『ど、どういう事だ!?何故足が修復されない!!』

「当然だろ。その回復力じゃ無駄に時間かかりそうだし、そういう対策技は用意しておくべきだろ。傷口よく見てみろよ」


 俺がそう言って促すと、はぐれ悪魔は自分の着られた部分がどうなっているのかようやく気が付いた。

 斬られた足と足首には酷い火傷痕がある。ただれた皮膚が溶けたゴムのようになっており、細胞レベルでグチャグチャニなっている。

 ここまで徹底的に破壊すればすぐにまたくっつけることは出来ないだろう。

 斬られた手足を元通りにくっつけるにはそれなりの手順がいる。今まではただ斬られただけだからこそすぐにくっつけると言う工程だけで十分だったかもしれないが、ここまで破壊されれば細胞を修復するところから始めなければならない。


 そしてこいつにはそれが出来るほどの知識はない。

 回復系魔法は医学と同様に知識量が必須だ。大雑把に傷をふさいだだけ場合、そこに菌やウイルスが入って化膿するかもしれないし、錆びた金属片などを入れて傷口をふさげば毒を体内に入れられたも同然だ。

 だからこそ傷を修復する前に無菌状態にする、あるいは消毒して菌を排除するなどの工程が必須だ。

 でもこいつが家庭医学以上の知識を持っているとは思えない。

 だからこそ焼き切ると言う攻撃はこいつにこれ以上ないダメージとなる。


『何でだ?何で鱗も出てこない!?』

「それ多分鱗じゃなくてかなり頑丈なかさぶただぞ。まぁ確かに防御力は上がっていたみたいだが、結局は偽物。お前はどこまでも偽物だったって訳だ」


 つまりこいつの正体はドラゴンもどき。

 まるで小さなトカゲがドラゴンだと言っているようなくらい滑稽で、愚かなはぐれ悪魔だ。


『だから何だ!!偽物だろうが何だ!!それでも俺は強くなった!!強くなってバカにした連中を見返してやるんだ!!』


 俺の言葉に反応しながら炎と風の魔法、そして拳を振り上げながら俺に迫ってきた。

 だが魔法は全て魔力量が少ないせいか威力は半端、片足を失った事で拳に体重が乗っていない。

 あまりにも無様な姿に哀れみすら感じる。


 魔法は全てバットで打ち返し、拳は避けて背後に回る。

 目的は捕獲だが、動けないようにしながらこの後の尋問ですぐに口を割るよう痛めつけておく方が良いだろう。

 俺は再び『アスカロン』を使用してはぐれ悪魔の右腕を切断。


『ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 痛みに叫ぶはぐれ悪魔の大きな隙を見逃さず残っている両足、左脚を一気に斬り落とした。

 剣技『だるま』。右腕、右足、左脚、左腕と斬り落として相手を動けなくする技だ。最後に首を斬るとなると名前は『だるま落とし』に変わるのがネーミングセンスがある。


 そしてこれが最後の締め。

 前世の頃に天使達に学んだ魔法。ずっと仕込んでいた捕縛魔法。


「主よ、悪魔に耳を傾けた者に罰を。天檻てんかん


 それは天使達が罪人を閉じ込めておくための光の檻。もちろん聖属性であり悪魔はこの中にいるだけでダメージを受けるが、大きなダメージを与える事はないので生かさず殺さずの状態を維持する事が出来る。

 ただはぐれ悪魔となった事で肥大化したこいつには非常に狭い。

 もう既に檻を形成している光の柱部分に当たり、そこだけ肉体が消滅している。だが回復力を抑える効果はないのでまたすぐに回復する。


『クソ!痛てぇ!!なんだよこの檻!!』

「天使達が使う魔法の1つだ。お前はもう檻の中にいる哀れな罪人なんだよ。あとはお偉いさんに任せるしかないな」

『クソ!!クソクソクソクソクソ!!クソがああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 暴れるはぐれ悪魔だが手足もない、檻に当たって常にダメージを負う状態ではどうする事も出来ない。

 これで捕獲任務は完了だ。

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