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転生者の贖罪  作者: 七篠
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顔合わせ

 交流会前、最後の金曜日。


 今更だが交流会について軽く説明しておこう。

 まず交流会が行われるのは月曜から金曜までであり、その間にイベントが発生する。それ以外は交流転入生としてリリンからやって来た生徒と一緒に授業を受け、イベントで交流すると言うのが主な目的だ。

 普通科とかならそんな軽い感じで終わりだが、戦闘科となるとそうはいかない。

 何せ火、水、木の3日間で交流試合をするからだ。

 お互いの力試し、そして戦い方の意識改革など、様々な事に触れてもっと強くなろうと言うのが戦闘科の目的。

 一応表向きはスポーツマンシップと言うか、正々堂々いい試合をしましょうって感じなのだが……


「…………」


 今俺の前にいる俺の対戦相手、リリンの1年生は俺達を見下している。

 今日は交流会が始まる前の顔合わせという事で、生徒会室でリリンの戦闘科のようなところから来た3名と軽く挨拶をしようと言うだけのはずだったのだが……1人だけあまりにも雰囲気が違う。

 ある意味悪魔らしいと言えばらしいが、一昔前の悪魔と言うか、人間を搾取する対象としか見ていない悪魔を見るのは久しぶりだ。


 他の2名はそんな事なく、悪魔の貴族としての気品、風格と言う物がちゃんと備わっている。

 3年生は男性悪魔、2年生は女性悪魔で扇子を持っている。

 雰囲気としてはエリート会社員とでも言うべきか?こちらを見定めながらもこちらをちゃんと評価している。交流戦に出られるだけの強さは持っていると認識しているんだろう。

 そんな2人と比べて完全にハズレくじを引いてしまったと思いながらも言う。


「えっと、今度の試合よろしくお願いします」

「は。人間ごときが俺様の相手になると本気で思っているのか?」


 足を組んでソファーに思いっきり寄りかかる姿は格好良さは全くない。ただのチンピラだ。あるいはイジメるのが好きなしょうもないお山の大将。

 呆れて出てきそうなるため息を我慢しながら会長の事をちらっと見て助けを求めると、会長は言う。


「彼、佐藤柊さんは1年生の中でも実戦経験が最も豊富な生徒です。半端な相手を用意した覚えはありません」

「実戦経験が何だと言う。これはただの人間だ。特別血統がいいわけでもない本当に一般家庭出身のただの人間。どれだけ実戦経験があろうとも負ける方が難しい」


 こりゃ会長の言葉もろくに耳に入ってなさそうだな。

 リリンの生徒レベルもだいぶ下がったなと思いながら残念に思う。

 前世の頃はこんなチンピラいなかったのにな……


「止めろケイド。それ以上口を開くな」

「何故ですか?これはただの人間――」


 対戦相手は言葉を続けている間に男性悪魔に顔面を殴られ、手で鼻を抑える。

 その手の隙間から血が零れ落ちそうになっていたが、おそらく女性悪魔が魔力で落ちそうになっている血を操って空中に鼻血の水玉を作る。


「お前はもう消えろ。誇り高きリリンの名を汚すな」


 こうして俺の対戦相手は転移魔法によって強制退場。

 その鮮やかなお手並みに俺は拍手を送った。


「流石リリン校の3年生ですね。転移魔法の展開が非常にスムーズでした」

「こちらからも謝罪させてもらう。最近調子に乗っていると聞いていたが、あそこまで調子に乗って誇るべき我らの学び舎を汚すのは我慢できなかった」

「おそらくですが彼はお2人のように高い教養を受けていないのでしょう。仕方がない事です」


 俺はもうすでにあの態度で俺の対戦相手は貴族の悪魔出ない事は察していた。

 おそらく力で成り上がってきた下級悪魔なのだろう。リリンに入学できたところを見ると、どっかの貴族の下僕か使用人なんだろう。

 リリンは知識や戦闘能力だけではなく貴族としての気品も重要視されている。だから人前では貴族としてふるまう事を望まれている。

 そんな雰囲気が一切ないからあれは下級悪魔だろうと予想していたわけだ。


 俺の遠回しの言葉に2人は深く頷く。

 特に女性悪魔は疲れ切った顔をしている。


「ええ。彼はリリンの中でもかなり血の気が多く、リリン内でも特に血統騒ぎばかりを起こす問題児なのです。そのような問題児をこのような場に連れてきてしまい誠に申し訳ありません」

「それ以前に彼のような物が交流会に参加できたことが私は不思議なのですが、どのような経緯だったのでしょうか」


 そう聞くと男性悪魔が言う。


「彼は今回の交流会の話を聞き、すぐに他の1年生達に決闘を申し込みました。彼は下級の生まれなので我々上級悪魔に力を誇示する事でその価値を認めさせようとしているのでしょう。そしてこの交流試合に勝利する事でさらに名を上げるのが目的です。実際ある上級悪魔の分家から下僕にならないか話が出ているそうです」

「なるほど。お話しありがとうございます。では私は交流する相手が居ませんので退室させていただこうと思います」

「え、柊さん?」


 会長がそう言って止めるが俺はこっそりと言う。


「俺が居ちゃさっきのバカのせいで空気が悪いんだ。俺もいなくなってこの悪い空気をリセットした方が良い」

「しかし……」

「それでは皆様。来週の月曜に会えることを楽しみにお待ちしています」


 決断の遅い会長を置き去りにして俺は深く頭を下げた。

 そして生徒会室を出て思いっきり背伸びをする。

 そして帰ろうと思って少し歩いたらグレモリーがいた。


「やっぱ未来が分かるってチートだな」

「そうですね。でもこれが僕の力なので遠慮なく使います」

「そりゃそうだ。そんな便利な能力使わないなんてもったいない」

「ほんの少しだけお付き合い願えませんか?先ほどのお詫びという事で」

「詫びって、まさかあいつを下僕にしようとしている貴族の分家って……」

グレモリー家(うち)じゃないですよ。とにかくこちらに」


 俺は言われるがままにグレモリーの後ろを歩き、リムジンに乗った。

 リムジンの中にはメイドが2名いてお菓子とジュースの準備をしている。


「狭いですが軽くここでお話ししていただきたいと思いまして」

「別に構わないが、やっぱリムジンって広いな。これで狭いとかやっぱり貴族か」

「ええ、貴族ですから」


 何故かシャンパングラスにジュースが注がれメイドさんから渡される。

 受け取り一気飲みしてテーブルに置いてから聞く。


「で、なんかあった」

「契約の確認です。ご確認ください」


 そう渡して来た紙に目を通すと契約書だった。

 内容は非常にシンプルで交流試合に勝った際の報酬、そして負けた際のデメリット。

 だがこのデメリットが俺にとってそんなに大きなデメリットではない。負けたらミルディン・グレモリーに占ってもらえないと言う内容だけだった。


「もっと詐欺的な内容でも入ってるかと思った」

「元々こちら側から依頼したのですから詐欺的な内容なんていれませんよ。それで勝てそうですか?」

「まぁ多分な。あの慢心野郎なら隙を突けば倒せそうだ」

「……だと良いのですが」

「不安そうだな。占いで未来を見れば大丈夫だろ?」

「占いだって万能じゃないんですよ。特に僕の場合そう言った不幸や事件に関する占いは苦手なんです」

「そうだったんだ。てっきり小さな事なら何でも占えるとばっかり思ってた」


 そう言いながらポテトチップスに手を付ける。

 のり塩うめぇ。

 そうしているとリルも顔を出したので上から影に落とすようにしてリルにも食べさせる。

 リルの出現に少し驚いた様子のグレモリーだがすぐ話す。


「ええ、小さなことならほぼ100%の確率で占えますよ。しかし占えなかったという事は小さな事ではなく、大きな事が起きるという事です。その意味分かりますよね?」

「俺との対戦中に事件発生か。グレモリーらしい素晴らしい未来予測だ。覚えておく。あ、水もらえます?」


 リルに上げる事を察していたのか、平皿にミネラルウォーターを注いで渡してくれたのでそれをリルにあげる。

 リルが水を飲む姿を眺めながら既に注ぎ足されていたジュースをまた一気飲みしてから言う。


「なら俺も1つ未来を予測してみよう」

「占えるんですか?」

「いいや。ただの宣言。俺は勝つ。あんな品のない下級悪魔に負けるほど腐っちゃいねぇ」


 はっきりとそう言うとグレモリーは本当に大丈夫なのかと疑うまなざしを向けるのだった。

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