何だって武器と言えば武器なのだ
次の日俺は武器をロマンの研究室に持ち込んで悩んでいた。
交流試合まで残り5日、その前にこの武器を魔改造して少しでも実戦で使えるようにしたい。
魔改造と言っても様々な効果を無数に付け加えることは不可能。だからこそ何を付与するのか真剣に俺は悩んでいる。
「いや、悩むのは仕方ないかもしれませんけど。それを前によく真剣に悩めますね」
「なんだよ。どんな道具だって使い方次第では武器になる。筆箱の中のシャーペンだって武器にしようと思えばできるぞ」
「まぁ柊君が言いたい事も分かるが、佐々野君が言いたい事も分かる。これを本当に交流試合の近接武器として登録するつもりかい?」
「俺の資金源で武器らしい武器を手に入れるのはこれが限界だ。それともホームセンターでバールとか電動のこぎりとかの方がやっぱりよかったか?」
俺が買ってきた武器。それはスポーツショップで買ってきた金属製バットである。
そりゃ交流試合で武器として出すのは見劣りするかもしれないが、ぶっちゃけ手に入りやすく頑丈と言う点ではこう言った物の方がいい。
それにさっき言ったバールは意外と曲がりやすくて耐久力ないし、電動のこぎりは好きに振り回すとなれば充電式を買う必要があるが果たして倒す前に電源が持つか分からない。
それならこれがいいだろうと思って買ってきた。
「でもこれ絶対笑われますよ。だって普通に売ってるバットですもん」
「見た目の良さでは完全に負けているね。やはりここは私手製のライトセイバーで――」
「あれ結局多様性って面では劣ってるんだよね。確かに使用目的である焼き斬ると言う点に関しては優秀だが、鍔迫り合いとか打ち返すとか、防御に使うとかが出来ないのでどんな状況になるか分からない以上多様性も必要だと思う」
そう言うとロマンは自覚があったのか目を泳がせた。
「だったらせめて学校で貸し出してくれる刀とか……」
「どうせ刃を潰したなまくら渡されるんならバットの方が良い。刀より折れにくいし、頑丈だし、物理でぶっ飛ばせばどうにかなるし」
「もしかして刀使えません?」
「一応使えるけど、名刀とかじゃない限りバットの方がマシ」
確かにバットは鈍器だが、鈍器だから刃物より劣っているという事はない。
相手を斬ることは出来なくとも硬い物で殴れば臓器も骨も傷つく。そこら辺の石を投げつけるだけでも十分武器になるのだから金属の棒ならさらに攻撃力は増す。
それに相手が防具を着ていたとしてもその衝撃は防具越しに響く。それは相手を怯ませたり、恐怖を覚えさせる。
と言うか単純な攻撃ほどそのダメージをイメージしやすいから恐怖を感じる。
例えば包丁を使っている際に少し指を切った経験があれば刃物の恐怖を知っていると言っていい。その時の恐怖を元に刃物で切られたらこんな痛い思いをするぞ、と脳が刃物を見て警戒、注意して使う。
では硬い物にぶつかると言う条件だけで見ればほとんどの人は経験した事があるのではないだろうか。
壁にぶつける、転んで床にぶつかる、喧嘩して殴られる……は今どきないのか?
まぁとにかく喧嘩とか武術で殴られた事が無かったとしても、硬い物にぶつかると言う経験は誰にでもあるはずだ。
つまり殴られたら痛いと言うイメージから恐怖を与えやすい。
「現実的であると言う点は分かりましたが……絶対にバカにされますよこれ」
「バカにして油断してくれるんならそれはそれでいいでしょ。その間に嬲り殺す」
「鈍器による殺しか。柊君は結構グロテスクでサイコパスのような気がしてきた」
「そうか?手持ちの道具で殺すしかないじゃん」
「自然と殺すと言う言葉が出ている時点でサイコパス判定してもいいですか」
「でもこっちは弱っちい人間。相手は悪魔様。普通に考えれば向こうが勝って当然の試合展開を予想する。それでも勝とうとするにはやっぱりあの手この手、考えないと勝てないんだよ」
「しかしだ。私のアイテム製作のため、戦闘データが欲しいから参加してほしいと頼んだが。ここまで真剣に戦うという事は他に理由があるのかな?」
「現在悪魔と賭けをしてる。それに勝ったら俺の頼み聞いてくれると」
何気なく言ったら2人はかなり驚いていた。
まぁ悪魔との賭けなんて普通参加すらしようとしないだろう。悪魔との賭けなんて悪魔が勝って当然の敗北が決まっているゲームのような物だ。
それに参加していると聞けばそりゃ驚くだろう。
「ちなみに賭けの内容を聞いてもいいかな?」
「単純に交流試合で悪魔に勝てばいいだけだ。どんな奴が出てくるのかは知らないけど」
「でも交流試合に出てくるって事はある程度実力のある悪魔って事は間違いないですよね?それ本当に人間である柊さんが勝てるんですか?」
「それは実際に戦ってみないと何とも言えないが、勝てるようにはするさ」
「ちなみに勝利した場合、そして負けた場合はどうなるんだい?」
「勝ったら俺の未来をグレモリーの悪魔に占ってもらう。負けたら……そう言えば特にペナルティーみたいなのは聞いてないな」
「それは怖いな。あとからペナルティーとか言って何か要求されるかもしれない。よくて金銭、最悪魂や支配権と言ったところか」
「魂って、本当に奪うんですか?この時代に?」
「身の丈に合わない物を要求すればそう言う事もある。悪魔達は等価交換だと言っているが、メリットよりもデメリットの方が大きい契約をさせる事もある。そう言うときに魂を対価にしたり、従僕になる事をを条件に契約する事がある」
「そんの方が大きいのにそんな契約する人っているんですか?」
「だからこそ欲に飲まれた人間が後先考えず契約するんだ。だから柊君も気を付けたまえ」
「そのために勝つ準備してんの」
買ってきたバットに『防御強化』『硬質化』の付与を行う。重さは所詮バットなので特に軽量化させる必要はないし、ある程度重くなければ大きなダメージにはならない。
後は俺のオーラをバットに馴染ませてオーラの伝導率を高めるくらいか。
「魔改造しないんですか?」
「現在魔改造中。バットに俺のオーラを馴染ませてオーラを俺好みの形で纏わせる事が出来るようにする」
「なるほど。バットに覆うオーラの形状を変える事で剣や槍に変化させる気か」
「その通りだ。と言うかロマンって純科学を専門にやってるくせにそういう知識あるんだな」
「癖にとは何だ癖にとは。純科学を専攻しているからこそそう言った魔術知識や各神話系統の魔法や術式、呪術などを学ぶ必要があるんだ。さすがにそれ全てを科学で再現する事は不可能だが、一部は再現可能だ。そして無意識に純科学で作ったアイテムが魔術などを使ってしまわないようにしている」
「それなら純科学に拘らずアイテム作ればいいのに」
「それこそロマンだ。例え非効率的であったとしても純科学で最後まで挑戦したいんだ」
「それならいつか変身ベルト作ってくれよ。かっこいい奴」
「昭和、平成、令和、どれがいい?」
「平成」
「作品は」
「ウィザード」
「魔法使いじゃないか!!」
俺のボケに大声で突っ込むロマン。
その様子を見て笑いながらバットを改造し続けた。




