まずは基礎が出来ているか確認された
そんな期待と不安が入り混じった日曜日、両親には部活に入ったと適当な事を言って学校に来ていた。
部費とかあるのっと聞かれたがサークルみたいなもので小さい所だから部費はないと伝えた。実際は裏組織の戦闘訓練だなんて誰が思うだろうか。
もちろん学校に来たが普通に体育館やグラウンドは普通の運動系の部活が使っているので学校の地下のより頑丈な施設を使う。
本当に裏組織要素がちらほらあるのが恐ろしい。
理事長この学校好きに魔改造しすぎじゃないか?昔はもっと普通の学校だったぞ。血の気の多い連中が多かったのは認めるけど。最低でも地下に秘密基地なんてなかったはずだ。
「来たわね。それじゃ早速滅技の練習を始めましょうか」
神薙日芽香はそう俺と会長に向かって言った。
今回参加するのは俺達だけであり、どちらかと言うと俺の滅技がどれくらいのレベルなのか確かめるのが目的だと先週言われた。
そのため実戦形式でやるのは後日なんだろう。
銀毛とシスターは成人だし、実戦訓練でない限り出てこないのかもしれない。
「それじゃ早速始めてもらうけど、リルさん。金毛姉さんが保健室に来てって言ってたからそっちに行っててもらってもいいかな?」
日芽香がそう言うとリルは少しだけ俺を見て、無茶しないよね?っと確認を取る。
「今日はただどれくらい動けるか確認するだけだぞ。無茶なんてしないって」
俺の言葉を聞いたリルは訓練場から保健室に向かって歩いて行った。
「さて、それじゃ早速柊ちゃんには滅技の型から始めてもらうかな。型分かるよね?」
「何の型から始めますか?」
「そうね。やっぱり基礎の人滅人技の一の型から十の型まで通してもらおうかな」
「分かりました」
ちなみに人滅人技は対人間用の技であり、滅技の基礎中の基礎と言われている。
基礎中の基礎なので空手の型に少し似ているが、重要なのは型を正確にできているかだけではなく、オーラの使い方がスムーズにできているかだ。
滅技の基礎を何度も言うが、攻撃する際に自身のオーラを効率的に操る事で超常の存在にもダメージを与える事ができる。
殴るのであれば拳にオーラを集め、蹴りを放つのであれば足にオーラを集める。それをよりスムーズに、呼吸するのが当然であるようにオーラを操るのも自然とできるようになったら基礎は完璧にできたと言える。
そんな基礎の型を一から十まで拳をついたり、ローキックやハイキックなどが混ざった動きをして最後に礼をした。
ぶっちゃけいつもやっている事だが、誰かに見せるつもりでやっている訳ではないので多少汚いかもしれない。
ぶっちゃけ他の人から見た型と言うのはどんな物かしばらく見ていなかった。
「どうでしたか?」
俺がそう聞くと日芽香は驚きながら、拍手をしながら言う。
「いや、想像以上だよ。本当に我流で覚えたの?本当に??実は道場に来てたりしないの??」
「いえ、学んだのは本当に独学ですし、道場に通った事なんてないですよ」
ただ幼少期の頃から父に叩きこまれた基礎をやり続けてきただけだ。
実際は転生した後も死ぬ前と変わらず動く事が出来るのかどうか調べるためでしかなかったが、人間と言う脆弱な存在だることから少しでもこれ以上弱くならないように型だけは続けてきた。
本当に他の人に見てもらってチェックしていたわけじゃないから細かい部分はどうだか分からないけど。
「本当に?それにしてはしっかり基礎出来てたけど……それなら次行ってみようか」
そう言いながら日芽香はポケットから何かのリモコンを取り出してボタンを押した。
すると現れたのは人型のロボットたち合計10体。ほぼ骨組みしかない簡易的なロボットであり、足の部分は車輪が4つ付いており、あとは胸や頭の位置に謎のボタンが付いている。
「えっとこれは?」
「一応実践用練習ロボット、的当て君」
「的当てって、弓道やアーチェリーじゃないんだから……」
「ネーミングセンスは置いておいて、的当て君が適当に逃げるから柊ちゃんは追いかけながらボタンを攻撃して。ただしちゃんとオーラがこもってないとボタンは光らないし、停止しないから。とりあえず10体全部オーラを込めた攻撃で停止させてみて」
「なるほど。それで時間制限みたいなのはありますか?」
「特にないわよ。初めてだし時間は計るけど制限はいらないかな。それでもできるだけ早く停止させてね」
「分かりました」
つまりタイムトライアルって感じか。
軽く屈伸をして下半身を動かしながら日芽香に聞く。
「ちなみに平均だとどれくらいの時間で全部停止させてますか?」
「そうね……10メートル四方だと素人なら20分、慣れていれば10分。師範クラスなら5分かからないんじゃないかな~」
「5分ですか」
多分普通の人間を基準にしたタイムだろう。
オーラを使う事が出来れば身体能力は格段に上がるし、普通の人間だってオーラの使えないオリンピック選手にも勝てるくらいの身体能力は得られる。
種目にもよるが純粋な力比べという事もあり各スポーツではオーラの使用は認められていない。あくまでも人間同士でのルールである事が多いが、オーラありとなったら必殺技のたたき合いみたいな感じになってしまうかもしれない。
特に野球とかサッカーだとそうなりそう。
ちなみにここの広さは30メートル四方であり、ロボットたちは指示された通り10メートル四方から買ずれて動く事はないだろう。
特に障害物がある訳ではないし、足元だって綺麗なツルツルの床。これなら楽勝だな。
「それじゃ動かすね」
そう言ってボタンを押すとロボットたちはそれぞれ動き始める。
モーターが動く音を出しながらあっちこっち好きに動いてぶつからないように避けながら走る。
速度は大体人間の小走り程度か?車輪だから動きやすいと言うのもあるんだろうが思っていたよりは早いか?
「それじゃ始めるけど、準備良い?」
「いつでもどうぞ」
俺はそう言いながらオーラを全身に纏う。
ロボットたちの動きを注意深く観察しながらとにかく近くにいるロボットから確実に仕留めようと思う。
「頑張ってください」
「はい」
会長からの応援を聞き流しながらさらに集中。
「よ~い……ドン!」
その合図とともに俺は駆け出した。
足にオーラを集中させてダッシュ力を強化、瞬間的にオーラを集めればさらに加速力は増す。
スタートダッシュをうまく決めながら俺はロボットのボタンを様々な形で押していく。
手の甲で殴ったり、踵落としでボタンを踏んだり、ロボットの動きを読んでほとんどボタンを視認せずに殴り続ける。
そして動くときは当然足にオーラを集中させて移動。この足にオーラを集中させる技の精度をさらに上げれば足の裏からジェット機の様に空を飛ぶことだってできる。
ただしオーラを常に消費し続けるのであまりお勧めできない。それならオーラで作った翼で飛ぶ方が消費量が少なくて使いやすい。
そんな感じで近くのロボットのボタンを押していき、最後のボタンを押した。
「ふぅ。時間どんなもんですか?」
「さ、3分45秒……」
「3分超えたか。まぁそんなもんか」
やっぱり前世と比べるとあまりにも遅すぎる。
オーラの精度に関しては上昇しているが、量があまりにも少ない事と肉体の強度が低すぎるのが問題だ。
ある程度はオーラを纏う事で防御力が上がるとはいえそれでも限界はある。呪いによって手に入ったオーラは使っていないとはいえ、自分自身のオーラだけでは超人程度の動きしか出来ない。
聖書や神話に書かれる神達の身体能力や肉体の強度は人間よりもはるかに高いからこそ超高速移動が可能となる。
よくある例えとして軽自動車にロケットエンジンを付けるとどうなるのか、なんて話はよくあるがそれはあくまでも車体がロケットエンジンの加速や速度に耐えられるように設計されているのが大前提だ。
人間が仮に上位の悪魔や神々と同じ超高速移動をしようと思えば鎧なんてレベルの防具では足りない。それこそ伝説の勇者が身に付ける鎧のような、とんでもないチート性能を持った鎧でもない限り耐えきれない。
ほんの一瞬だったとしても空気の壁にぶつかり、摩擦で燃えるか、もしくは空気の壁に叩き付けられて潰れるのかの二択だろう。
飛行機が空気抵抗などを考えられて作られているのがそれが理由。何も考えず平面の飛行機を作れば、あっという間に空気の壁によって鉄の塊でも破壊する事ができるほどの威力を出す。
それを生身の人間が行うには、伝説の防具を手に入れるか、オーラをの量を増やして鎧を自作するしかない。
だがそれだと超高速で動く事ができる超常の存在達には通用しない。
今の俺は質はそう悪くない。ただ圧倒的に量が少なすぎる。
呪いによって得たオーラを使えばほんの一瞬なら可能かもしれないが……リスクはかなり大きいだろう。
「嘘。この成績で納得してないって本当に彼って新一年生?」
「そのはずなんですが……柊さんは強さにはかなりストイックみたいなので……」
俺の何かを疑っているようだが、所詮人間から見ればヤバい奴と言うだけで本物から見れば大した事ないだろう。
俺は本当に強い奴らを知っている。
それは理事長達だけではなく、各種族ごとに、かなりヤバい連中がそれぞれ玉座でふんぞり返っている事を知っている。
そしてそいつらはそうしていて当然の実力を持っているのだから、どれだけ見上げても果てが見えない。
「……それじゃ次は涙ちゃん。柊ちゃんと組手してあげてもいいかな?」
「え!?でもそれは……」
不安そうに言う会長。
一体何を不安になっているのだろうか?俺の方が圧倒的に弱いのに。
「多分大丈夫だと思う。柊ちゃんもいいかな?」
「俺は構いませんよ」
「だってよ、涙ちゃん」
「……あの、危険だと思ったらすぐ逃げてくださいね」
不安そうに言う会長に俺は何かの皮肉かと思った。
世界最強のウロボロス様の攻撃を逃げられるだけの実力がある訳ないじゃん。
でもここで戦えばまた少し上に行ける気がして俺は獰猛に笑った。