スカウト
担任の先生に襲われた次の日、もっとヤバいのが俺の前に現れた。
「緊急で申し訳ありませんが、臨時で新しい担任をすることになりました。大神遥です。よろしくお願いします」
「お父さん!?」
俺の次に反応したは当然娘である大神桃華。父親が突然自分のクラスの担任になったらこの反応するのは当然かもしれない。
だが俺は常に意識を向けられている事に面倒だと思っていた。
なんせ一度は殺し合った……とは言わないか。殺そうとした相手を大神遥が忘れる訳がない。むしろ渉が殺し損ねたから代わりに暗殺に来たと言われた方が納得できる。
龍化の呪いの病院だってぶっ壊しちゃったし、恨まれてるだろうな~。
「桃華、ここでは先生と呼ぶように。今娘が言ったように大神桃華の父ではありますが、娘びいきをしたりはしませんので安心してください」
そんな挨拶が終わった後クラスメイト達の注目は渉がどこに行ったのかだった。
昨日の事もあり何事もなくと言うほど楽観視していたわけではないが、ここまで動きが早い事に関しても疑問を持っている感じだ。
理事長によって始末された、なんて物騒な話までしている。
確かにこの速さは異常だがそれでもこちらとしては受け入れざる負えないのが子供と言う立場だ。渉がどうなったのか聞いて藪蛇にでもなったら面倒臭い。
俺は受け入れたふりをして警戒心MAX状態だ。
「いや~やっぱこの学校頭おかしいわ。何であんな大物が私達の担任になる訳?」
「お父さんってそんなに大物なの?」
「当たり前でしょ。大神グループに手を出したら死ぬまで呪われるって有名なんだから。あんたもこれくらいは知ってるでしょ?」
「ああ。防犯や警備、護衛を中心に広がっているけど狗神なのは間違いないからかなり強いと思う
「へ~。私から見ると仕事で忙しいお父さんだからそんな風に思った事ないや」
「そりゃ桃華から見ればそうでしょ」
カエラは呆れながら言ったが俺その大物に殺されかけたんですけど。平然と手足折られたんですけど。
あ~嫌だな~。あいつ昔はここまで狂暴じゃなかったはずなんだけどな……何で今はあんな風になっちゃったんだろ。
なんて思っていると今日も会長がやって来た。
「柊さん。放課後理事長室に来てもらえませんか?ちょっと大切な話がありまして……」
「分かりました。ホームルームが終わったらそちらに行きますね」
またか……今回は渉の件だろうか?
最近理事長室に行くのが当たり前になって来たな……普通ありえないだろ。学校で1番偉い人の部屋に行くのが当たり前って。
まぁ最近は訓練もマンネリ気味だし、リルも実戦訓練として相手してくれないし、強くなっている感覚は全くない。
体力維持のランニングの距離もう少し増やすか?それとも足場の悪い所でランニングしながら同時に体幹でも鍛えるか?
もう少し負荷のかかるトレーニングは……これ以上はただの負担になりそうだな。トレーニングと言っても身体を痛めつけるだけの行為はトレーニングじゃない。ただの自傷行為だ。
それでもな……このままだと強くなれない。
あいつを殺すためにはもっと鍛えないといけないのに、人間の肉体と言う枷が大きすぎる。
ホント前世の頃は色んな意味で恵まれてたんだよな……
放課後まで大神遥に暗殺されないように警戒しながら過ごしていたが、結果暗殺はなかった。
会長に言われた通りもう慣れてしまった理事長室の扉をノックをすると「どうぞ」と言う声が聞こえた。
失礼しますと言いながらドアを開けるとそこには理事長とサマエルだけではなく、会長や主治医、大神遥が揃っている。
「えっと、今日はどのような御用でしょうか?」
「そんなに緊張しないでそこに座って。少し話したいの」
理事長に言われるまま座るとサマエルが音もなく緑茶を淹れてくれる。
今日のお菓子は羊羹である。
タマや大神遥に合わせたのだろうか?2人は洋菓子よりも和菓子の方が好きだったし。
「ありがとうございます。いただきます」
警戒なく口に入れたがやはり予想通り特に何も入っていない、ただの美味しい羊羹だ。
小さく切って食べていると理事長は口を開いた。
「まずは改めて謝罪を。この度は我が校の教師があなたに凶刃を向けてしまったことを謝罪します。申し訳ありませんでした」
羊羹が口に入っていたので飲み込んでから俺は言う。
「原因である俺が言うのもなんですが、きっと俺の態度が気に入らなかったんでしょう。手を上げる方にも問題はあるかもしれませんが、その原因も同じように悪いんでしょう」
「それでも教師が生徒に手を出したと言う事実は変わりません。佐藤柊さんのご両親にも改めて説明と謝罪をしたいと考えています」
「いや~それはできれば勘弁できませんか?母親の方が心配症で、その、あまり心配かけたくないんです」
転生したばかりの頃、マジで見た目は子供、頭脳は大人になってしまった俺は大人から見れば危なっかしい行動ばかりしていたように見えたらしい。
そのせいか母親は無茶をする子供として危険な事をしないようによく見張っていたし、心配していたのだ。
俺としてはそこまで危険な事はしていなかったはずだが……親の心子知らずと言う奴か?
「それは分かりますが隠蔽するわけにはいきません。佐々木渉さんには教員免許の剥奪、そして下働きとしてこき使います」
「理事長の下働きって何するんですか?」
「基本的には危険地域でテロリストの駆除ですね。日本にはあまりいませんが、外国だとまだまだ多いので。その先兵として派遣しています」
マジで過激な仕事任されてるじゃん。渉の奴それで婚活できないんじゃないの?
いや、今も理事長の事しか見てないみたいだけど。
「は、はぁ」
「直接謝罪してほしいと言うのであれば拘束したうえで土下座でも地面に頭がめり込むくらい頭を地面に付けさせるつもりです」
「それ新しい脅しですか?」
「それくらい必要な事だと分かってもらいたいのです。これでも子を持つ身ですから」
そう言われると俺も強くは出れない。
それに大人として当然の行為をしようとしているのだから子供である俺が強く止めるのも迷惑なだけか。
「分かりました。その代わり両親にはマイルドにと言いますか、優しく話していただけると助かります」
「ありがとうございます。それでは今度ご自宅にお伺いしますね」
ほぼ全員そろっているから何事かと思って身構えていたが、あまり大きなことでなくてよかった。
いつの間にかリルも影から出て羊羹を少しずつ食べながら味わっていたし、これで終わり……と言う雰囲気でもないか。
表向きはただのお茶会。羊羹と緑茶でのんびりした空間に見えたかもしれない。
その通りだったらよかったんだけどな……
羊羹とお茶を全て腹の中に収めた後、理事長は口を開いた。
「先ほどと矛盾した内容となりますが、少しだけ良いですか」
「なんでしょう?」
「ないように入る前に1つだけお話しておきますと、あくまでもこれは提案になります。もし柊君が気に入らないと感じたのであれば断っていただいて問題ありません」
「はぁ」
一体どんな話をするつもりだ?
今まで見たいに相手の心を読む存在を用意している訳ではないみたいだが、それでもやはり警戒してしまう。
すると信じられない言葉を口にした。
「佐藤柊さん。私達の仲間として世界を救ってみませんか」