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転生者の贖罪  作者: 七篠
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side金毛タマ なぜ心配し、気に入らないのか

 私、金毛タマは佐藤柊君の診断が終わった後雫の元に来ていた。

 彼の診断書を届けるのと報告のためだ。


 理事長室に居るので行くとそこには座布団ぐらいの大きな剣山の上で正座させられ、さらにその上から墓石を乗せられている渉の姿があった。

 そんな渉の周りには雫をはじめとした女性陣が取り囲んでいる。


「渉君。今回の事に関してどれだけバカな事をしたのか分かっているのかな?ここまで本気で怒ったのは本当に久しぶりだよ」

「ええ。教師として、大人としての責任と言う物が全く分かっていないのではないでしょうか」


 話しているのは雫とサマエル。

 その様子を遠巻きに見ているのは涙ちゃんであわあわとしている。

 リルに関しては墓石の上で横になり、さらに重しをかけていた。低く唸り不機嫌である事は誰の目でも分かる。


「診断書持ってきたわよ」

「ありがとうタマ。早速報告してもらってもいい?」


 私の事を一切見ず、渉の事を責める事に忙しいらしい。

 そんな雫の前に立ち、墓石に座ってから私は報告する。


「とりあえず彼の中に炎は残っていなかったわ。魂にはダメージは入ってなさそうだけど精神部分にはダメージがあったけど軽傷。ちゃんと寝て休めば治るわ」

「タマまで僕の上に座らなくてもいいんじゃない?足本当に痛いんだけど」

「私の患者に手を出した罰よ。むしろこれくらいで済んでよかったでしょ」


 涙に診断書を渡しながら渉に言った。

 この中で1番残酷な拷問が出来るのは私なのよ?それをしないだけまだマシじゃない。


「……本当にこの程度で済んだの?こんなんでも戦闘能力で言えばかなり上位のはずなのに」

「こんなんでもって……」

「今回の件で渉君の信頼度はかなり下がったから。明日から現場職に復帰してもらうから」

「それじゃ僕の代わりは誰がするんですか?」

「私です」


 そう言って理事長室に入ってきたのは遥君だった。


「みなさん。こうして直接顔を合わせるのはお久しぶりです」

「久しぶり~。特に私とはかなり久しぶりじゃない?」

「タマ姐さんお久しぶりです。今後は私が彼の表の監視をします」

「お願いね遥君。頼んでおいてなんだけど本当に仕事の方は大丈夫なの?」

「大丈夫です。私にしかできない仕事はありますが、彼の監視の方が重要だと判断しました。渉兄さんのフォローをする訳ではありませんが、やはり彼は不思議です。渉兄さんの言葉も納得できる部分はあります」

「だとしても教師が生徒を本気で殺そうとした事実は変わらない。しかも暗殺じゃなくて感情的にその場で殺そうとしたなんて渉君らしくもない」


 そう。それは全員思っていた事だ。

 惚れた弱みと言うか、渉は涙に逆らえない。逆らおうともしない。

 だからこそこうして手元において都合のいいパシリ役をしているのだから。


「私も聞きたいな。渉が何で殺す事を決めたのか」


 私達全員渉に視線を向けると渉はうつむきながら言った。


「自分でも全部は分からない。涙さんの言う通りあの時の僕はどうかしてた。実力差は分かっているのに、理解できているのに挑戦するという強い意思が込められた目が。自分の体を犠牲にしてでも勝ちに行く姿勢が心の底から気に入らなかった。それに何より気持ち悪いじゃないか、僕達は彼の事を全く知らないのに彼は僕達の事をよく知っているような雰囲気が。ネットに上げられた適当なデマ情報ではなく本当の事だけ、しかも僕達の心の奥底まで知っているようなあの雰囲気。何もかもが気に入らない。みんなも似たような物は感じているんじゃないの?」


 そう言われるとその通りだ。

 初めて会ったはずなのに何故か懐かしい気持ちになる。知り合ってからそんなに時間が経っていないのに何をするのか想像できる。

 彼の思考が単純だとかそんなものではなく、なんとなく知った雰囲気だからそう予想できると言う方が正しい。


 渉の言う通り私達は会ったばかりの青年になぜか心を許しているし、ここまで真面目に彼を虐めた渉を叱っているし怒っている。

 何故と聞かれれば答える事が出来ず、ただ彼から親しい雰囲気を感じるからと言うそれだけの理由しかない。


「なんにせよ僕は彼の事が気に入らない。自分のために他人を平気で巻き込んで問題を起こす。僕は嫌いだ」

「渉の言葉だって私達は否定しない。でも今回はやりすぎ。だからアメリカに行ってもらうから」

「あ~、僕も現場に復帰するって事か。そんなにひどくなってきたの?アメリカ」

「ええ。表向きは学生運動という事になっているけどね。裏でNCDが絡んでいるみたいだから警戒は強めて行った方が良いのは間違いない。それから渉の意見を聞いたうえでみんなに聞きたいんだけど」


 何だろうと全員雫の言葉に耳を傾けると雫は言った。


「渉の言う通り彼はこのまま放ったらかしにしても絶対自分から問題に首を突っ込むのは目に見えている。だから彼をいっその事私達の組織に所属させるのはどうかしら?」


 その言葉を聞いて私達は悩んだ。

 私達の組織、チーム名『はぐれ』。種族問わず世界の平和維持のために神から人間まで様々な種族が参加している少数精鋭部隊。

 元々はサマエルが作り上げた反社会組織だったが雫とサマエルが手を組んだことでチーム名をそのままにして世界の平和維持のために組織となった。

 現在チームに所属しているのは私達とサマエルの仲間達、合計10人。涙ちゃんはまだ候補生と言う形ではあるが一応所属している。


「監視のためにチームに所属させるのは構いませんが、彼の実力ではあまりにも弱すぎるかと。下手をすれば任務中に死にますよ?それは雫様も望んでいないのでは?」

「ええ。だからまずは涙同様に候補生と言う形から始めさせる。彼自身力を得る事を目的としているから強くなるための環境が整えられると聞けば少しは興味を持つはず。もちろん涙同様に基本的には援護や後方支援をしてもらうから」

「彼は絶対無視して前線に突っ込んでいく未来しか見えませんが?」

「その時はリルに止めてもらうか先に倒してもらう。リルもメンバーの1人だしね」


 私も含めて色々考えるが、確かに彼の行動を考えるのであればいつかは勝手に首を突っ込んでくるかもしれない。

 その前に仲間にするという点までは納得できるが、候補生として前線に参加させるのはかなり不安だ。

 あの性格で前線で誰かが傷つきそうになったらきっと必ず彼は前に出る。

 そして誰かが傷つかない代わりに彼がその分多く傷付いていく。

 いつも通りの笑みと姿でヘラヘラしながら何ともないと言うだろうが、本当はボロボロでいつ死んでもおかしくない状態なのにそれを隠し通そうとする。

 本当は他の人と同じように痛くて、苦しくて、泣きたいのを我慢しながら平然としたふりをし続ける。


 ………………まただ。

 また彼の事を知らないのに確信に近い予想が出来てしまっている。

 絶対的な予想。彼は絶対無茶をする。


「主治医として彼が無謀な事に首を突っ込みそうなことは賛成しかねるんだけど」

「大丈夫よ。候補生と言うのはあくまでも表向き、任務に参加するとしたら本当に安全だと言えるようなところだけにするから。私も彼には傷付いてほしくないもの。大人として、教師として」

「それじゃ最初の内は彼を鍛えてあげる事を集中して行うって事ね?」

「そうしようと思ってる。最低でも3年はそうする。そして強くなっても目立った戦場に行かせるつもりはないから」

「……そういう事なら……ギリギリオッケーかしら」


 私がそう言うと雫はため息をつきながら言う。


「本当はこうして巻き込む事も嫌なんだけど、向こうから突っ込んで来るのであればっていう苦渋の決断なのは分かってちょうだい。本当は普通の男子生徒として日常を送ってほしいんだから」

「それならさらに遠ざけてもいいような……」

「あの子は必ず首を突っ込んで来る。なんとなく、そう思うの」


 自信なさげに言うがそれは私も感じる。

 そう共感していると涙ちゃんが恐る恐る手を上げながら聞く。


「それ誰が伝えるの?」

「私から言うわ。涙は明日の放課後に柊君を理事長室に来るよう呼んできてくれないかしら?」

「分かったけど……本当に仲間にしちゃうの?もの凄く危険でしょ?」

「そうね。それなら涙もそろそろやめて欲しいんだけど?」

「わ、私だってウロボロスだもん!お母さんみたいになりたいもん」


 そういう涙ちゃんは本当に良い子に育ったと思う。

 よくこんな特殊過ぎる環境で真っ当に育ってくれたと思う。


「それじゃ今日は解散。みんな遅くまでごめんね」

「あの、解散するならこれどかしてくれない?」

「渉は朝までその状態で待機。寝れるなら寝てもいいよ」

「流石に無理だって!!」


 そう渉は懇願したが私達は無視した。

 だってまだ許したわけじゃないからね。

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