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転生者の贖罪  作者: 七篠
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錆び付いた技術

 今日の授業は武器を使っての授業だ。

 剣、槍、薙刀、弓などなど、様々な武器を使っての模擬戦をしたり武器の特性を勉強したりする。

 最も人気なのは槍であり、ぶっちゃけ長距離からちょっと遠くから振り回すだけで遠心力とか自重で勝手に攻撃力が増すのだから人気が出ない訳がない。

 授業で使われる槍は3メートルの長さの物を使っている。使い方は基本的に上から下に向かって振り下ろす。これだけで兜の上から相手の頭を叩き潰す事ができるほどの攻撃力を持っているのだから本当に使いやすい。

 その代わり懐に入られると攻撃手段が少なくなってしまうため相手を近づけさせないと言う技術は当然必要だ。


 だがまぁ長距離に関しては魔法を使ったり銃を使った方が早くない?っと言う意見は当然現れるため槍は中距離武器、という感じで扱われている。

 それにスピード重視、桃華のような妖怪の中でも体力や走力に力を注いでいる存在にとって槍は振り回し辛い、もっと軽い方が良いと言って軍事用ナイフとかを好んで使う物も一定数存在する。


 俺に関してははまぁ刀を使っている。

 前世の頃の父親から徹底的に鍛えられたせいで刀の扱いに関しては点数を付けるならおまけで100点くらいか?

 他の武器に関しては40点から50点。一応使えるが主力武器として使っている連中には敵わないとよく言われた。

 だから俺は今も武器を使うとしたら刀にしようと決めている。

 ただ面倒なのはこの刀の扱い方に関して先生をしているのがうちの担任である事。あいつ刀の扱い100点だもんな……刀だけで戦えって言われたら絶対に勝てない。


「今日の授業は刀の使い方だ。今までは刃が潰れた物を使って重さ、距離感などを教えてきたが今回は実際に刀を使ってこれを切ってもらう。一発ではうまくいかないだろうが最低でも1人1つは斬れることを目指す事。分からない事などは遠慮なく聞いてほしい。以上だ」


 先生が用意したのは竹にご座を何重にも巻き付けた物だ。

 確かに試し斬りの定番ではあるが素人がやるとなると難易度は結構高い。ご座を何重にも巻き付けている事で厚みが増すだけではなくご座のつなぎ目が邪魔をする。

 力だけでは決して斬れず、力よりも技術の方が重視されるのでしっかりと訓練しないと斬ることは出来ない。


「もう!魔法なら簡単なのに!!」


 そう言いながらカエラはただ振り下ろすだけなので全然斬る事が出来ず殴っているだけ。

 桃華に関しては多少は刀の仕組みについて学んでいたのか、少し切ることは出来ているが真ん中の竹にまでは全然到達する様子はない。同じところを斬って竹の所まで到達させようとしているがその方が難しくないだろうか?

 他の生徒達も似たような物で鈍器のような扱い方をしている者、少し切ることは出来るけど両断とはならない物ばかり。

 と言うかこのクラス武器の扱いが特別うまい奴いないんだよな。みんな魔法や自身の特性を伸ばす方向性に向けているからか武器を使おうとしない。


「佐藤君もやってみたらどうだ?」


 みんなの様子を見てばかりだったからか、先生に言われてしまった。


「ああ、すみません。今やります」


 俺は刀を上段で構え、少し深呼吸をしながらタイミングを計る。

 刀を握るなんてかなり久しぶりだ。木刀や竹刀を握って振り回すのでは絶対に学ぶ事ができない技術。しかも刀なんてそう簡単に手に入る物ではないのでブランクは16年。かなり腕が落ちてることは間違いない。

 それでも足を肩幅に広げ、ほんの少し足を前後にずらし、刀を上段に構える。

 目の前の試し斬り用の棒きれも斬れないようなら俺の腕はかなり落ちているという事だ。これは現状の俺を再認識するために必要な事だ。


 集中し、棒をしっかりと見て俺は息を吐き出すと同時に刀を振り下ろした。

 久々に感じる武器越しの手ごたえ。スムーズに入ったのは最初だけ少しずつ刃が入っていくごとに抵抗感が増していくのは俺の技術力がかなり落ちている何よりの証拠だ。

 人間で例えるところの肉であるご座を通り、硬さの違う骨にあたる竹の部分にはが当たると俺の刀はそこで止まってしまった。

 引き抜くとカエラが声を上げた。


「ちょっと!なんで一発でそこまで刃が入るのよ!?やり方教えて!!」


 自分にできない事が出来て終えてもらおうとしているんだろうが、この程度昔は予備動作無く流れるように出来たのに今ではできない。その現実が目の前に現れたのだからカエラの言葉よりもここまで技術が落ちてしまった自分に腹が立つ。


「いや、斬れなかったんだから先生にアドバイスもらえよ」

「それはそうだけどこういう技術的な意見は1人だけじゃなくて複数から聞いた方が身になると思うんだけど?」

「だとしたら聞く相手を間違ってる。俺は半人前以下だよ」


 そう言って断ってから先生から改めて刀の使い方を学ぶカエラ。

 俺は今の一太刀で何が足りていなかったのか振り返る。

 おそらくきれなかったのはご座の硬さと竹の硬さにすぐ対応する事が出来なかったから。もしこのまま人と斬り合う事になっていたのなら死んでいたのは俺の方だろう。

 骨が邪魔で相手を殺せませんでしたなんて何の言い訳にもならない。骨のない生物なんてタコや以下くらいしか思いつかない。

 大抵の生物には骨があって当然なのだから、骨が邪魔で殺せないなんて馬鹿が言う事だ。さらに実戦では兜や鎧を装備していて当然なのだからその隙間縫うように斬るか、兜や鎧の上から両断できるほどの理不尽な力と技術が必要不可欠。力に関しては前世の頃と比べて格段に落ちているし、技術力に関しては錆びついてしまっている。

 この裸の人間を想定したこの試し斬り用の棒くらいあっさりと斬れるようにならなければ俺は死ぬ。


 俺は反対側から力を込めて再び振り下ろすとようやく斬り落とせた。

 だがほとんど力で押し切ったような物で技術的な物はほとんどない。

 斜めに斬り落とした斬った後を見てみると、ぼさぼさしておりとても綺麗な切口とは言えない。

 俺は舌打ちをした後先生に頼んだ。


「先生。できるだけ多くこの練習用の奴を斬らせてもらってもいいですか?」

「あ、ああ。少し待ってくれ」


 そう言って先生はまとめて20本の試し斬り用の棒を用意してくれた。

 ありがとうございますと言ってから俺は力ではなく技術力で斬り落とせるよう意識して斬り落とし続けた。

 刀で相手を斬るのに必要なのは力だけではなく綺麗に円を描く事。つまり円運動と言う奴を意識すれば多少は上手くなる。

 技術は簡単に言えば小さな力でも効率的に力を伝える方法。それを武器と言う物を通してできるかどうかが試される。

 俺は錆びついてしまった物を砥ぎ直すつもりで棒をたたっきる。

 1つ斬る毎に鋭さが増すように。1つ斬る毎に空気を斬るような手ごたえのなさを感じるまで。1つ斬る毎に体に着いた錆を落とす。


 19本目でようやく錆は落ち、余計な力を入れずにスッと斬れるようになった。

 斬り落とされた棒は少しずつ切り口が綺麗になっていき、バサバサした感じのものは今では完全にない。

 最期の20本目で俺は軽く片手で斬り落とした。棒を切っているはずなのに何の抵抗感はなく、ご座と竹の硬さの違いもなんてことなくあっさりと斬り落とす事が出来た。

 次は左手だけで斬れるようにならないといけない。


「あんた……本当に何者なの?」

「何が?」


 カエラが呆然としながら俺に聞いてきた。


「だってあんた、今片手で……」

「これくらい普通だろ。利き手だし、次は利き手じゃない方で斬れるようにならないといけない」

「いや普通刀って両手で使う物でしょ!?何で片手で使う事を想定してるの!!」

「俺の中の最強論。どうせ人間は二本足で他の動物よりも手数が多いんだから武器を使うためとはいえ手数を減らすのはもったいない。だから片手で十分使えるようになれるのならなっておいた方が良い」

「理論的には間違ってないかもしれないし、あんたにとっての最強論だから好きに言えばいいけど。あーもう!あんたどこまで強くなればいいのよ!!武器を使わない近接戦闘でも強くて、刀を使った戦闘でも最強になるつもり!?」

「所詮俺は半端者だから刀だけで最強になるのは無理だって。あくまでもメインは素手だ。刀は必要な時に使えるようになっておきたいだけだ」


 そう言いながら鞘に納めるとカエラが指を指しながら言う。


「ほらそう言う所!!」

「……?鞘に刀仕舞っただけだろ?」

「見ないでやった!!みんな格好つけてやるけど普通は軽く指斬る奴を当然のように収めた!!」

「こんなもん慣れだ慣れ。ところで先生。これ結構斬っちゃったけど大丈夫ですかね?」

「問題ない。たけはそこら辺の竹を切ったものだし、ご座もそんな高い物ではない。ただ初日でこれだけ斬られるとは思ってなかったが……」


 俺が斬った合計21本の残骸を見て先生は言う。

 さて、今後の授業がどうなるかは分からないが兜や鎧も斬れるようにこっちの方も鍛え直さないとダメだな。

 ……誰かから要らない刀もらえないかな。

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