最新術式は高難易度?
その後俺は防御回復系魔導書の制作に力を注いだ。
会長から教えてもらった術式を基礎に家や学校で描いていく。
授業なども普通に受けて普通に帰る。それだけの日常に俺は視線を感じている。
「…………」
「じ~」
俺は会長から熱烈な視線を受けていた。
この間術式について教えてもらってからずっとこの調子なのだ。具体的に言うと昼休みになるたびに俺の事を見に来てひたすら視線を向ける。
それはもう何をしているのか一挙手一投足、何をしているのかず~っと見ているのだ。
「……ねぇ、今日も会長見に来ているんだけど」
「何かしたんですか?」
カエラと桃華も会長の様子を見て疑問に思っている。
その聞き方はまるで俺が悪い事をしたような言い方だが、まぁ普通はそう思うか?
でもはっきりと否定させてもらう。
「何かって、前に新しい魔導書の制作に協力してもらっただけだ。別に変な事は一切してない」
「それ本当ですか?自覚がない状態で怒らせてしまったりとか……」
「ちょっと待って、協力してもらったって言ったけどそれどんな術式よ」
「どんなって最新の精霊式魔方陣だけど……」
俺はそう言いながらカエラに魔方陣を見せた。
それを見てカエラは「うわ~、うっわ~」っとドン引きしていた。
桃華の方は魔方陣に関してあまり知識がないのか、見てもよく分からないと言う雰囲気を出す。
「あんたこれ、本当に1人で描いたの?」
「そりゃ1人で描けるようにならなきゃいけないでしょ。この最新式を教えてもらったおかげでどうにか求めてた出力は出せるようになった」
それを聞いたカエラは大きなため息をつきながら魔方陣について説明を始める。
「い~い、その天才的な頭でよく考えて。この魔方陣を描くには上級悪魔でもかなりの訓練を要するの。もちろん最低でも100年以上生きている方々が訓練をしなくちゃいけないほど高難易度で高度な魔方陣なの。それを貴方はあっさり描き切った。それがどれだけ異常な事か分かってる?」
「基準は分かったが貴族連中は普通に描けるだろ?カエラの言ってる上級悪魔って名前のない戦闘に特化した悪魔の事じゃないのか?」
「今言ったのはその貴族様込みの話よ。悪魔として英才教育をしてきた貴族様だってそう簡単に描くことは出来ない。しかも基礎中の基礎の魔方陣ですら数時間かけて描くものなの。これどれくらいで描いたの?」
「ざっと……30分くらい?」
ちゃんと時間を計っていたわけではないので正確とは言えないが、それでもそれくらいの時間はかかったと思う。
それを言うとさらに頭が痛くなりそうな感じでこめかみを抑える。
「オーケー、あんたが天才どころか化物だっていうのは理解できた。さっき言った基礎だって簡単な魔方陣、ライターやマッチくらいの小さな火を起こすものだってこのやり方だと描くのに苦戦してるの。それをあんたはさらに複雑な回復術式、呪撃に対する魔方陣を描くってとんでもない事をしてるの。いい加減分かった?」
「言いたい事は分かったが……それどっちかって言うと文化的な問題じゃない?だって悪魔は神と敵対していると言うか、仲悪いだろ。神様に感謝とかした事ないだろ」
「当たり前じゃない。悪魔が神に何を祈るっていうのよ」
「その意識が余計にこの術式を描くのに邪魔してるんだろ。これ神様への感謝とかそういうのが大本になってるっぽいぞ」
「別にいいのよその辺は。それはあくまでも使う際の条件であってただ術式を描くだけなら悪魔でも問題ないもの。ただ私が言っているのはその魔方陣は普通の人には絶対作れないほど高度な物だという事。それをあっさり作ったあんたに生徒会長様は興味津々って事」
そう言われたが俺個人とはぱっと来ない。
何せ前世の記憶からたどれば上級悪魔でもあっさり作れるはずだからだ。
あの戦争で多くの存在が死んだとは聞かないし、本当か嘘かは分からないがあの戦争で死んだ存在は0人と正式に発表されている。
だから技術が多少変化したとしても対応する事はいくらでも出来るだろうっと言うのが俺の考えだ。
なんだかんだで悪魔の契約だって客である人間が居てなんぼなのだから時代に合わせて商売を変える事くらい普通にする。
「でも会長に目を付けられるほどか?3年生なら誰でも出来んじゃない?」
「出来るとしたら会長がああやって見に来たりしないから」
「う~ん。実感が湧かん。それよりも桃華、とりあえず術式が正常に起動しているか試したいからちょっと俺の事呪ってみてくれ」
「さらっと凄いこと言いますよね佐藤さん。それじゃ裏ちゃんに分かりますね」
そう言いながら目を閉じた桃華は裏桃華に主導権を渡した。
「で、ヒラはなんであたしにそんな気楽に呪えなんて簡単に言えるのよ?これでも呪いには一家言あるんですけど」
「だって他にそれなりに強い呪い持ってる奴知らんし……」
「それなりって。それはちょっと傷付くから本気でやってもいい?」
「だって基本的に大神家の呪いって不当な扱いを受けた犬達の恨み辛みじゃん。1匹噛みついてだと効果は薄いし、ぶっちゃけ重ね掛けが基本でしょ」
「そうだけど……ねぇ本当にどこかで家と繋がってたりしない?本当に普通の家庭出身なのか疑わしいんだけど」
「リルがいるから大体わかる」
「伯母様は呪い多用するタイプじゃないはずなんだけどな……」
でもこういえば納得してもらえる。
裏桃華は仕方なさそうに俺に呪いをかけた。
本当に渋々という感じで、呪いの正体である犬の幽霊も可愛らしい子犬だったことからやる気のなさがよく分かる。
子犬は俺に噛み付いたと思ったら瞬間移動して俺が用意しておいた紙人形に噛み付いていた事に驚ききょろきょろしていた。
「とりあえず成功か。ご協力ありがとうございます」
「はぁ。典型的な呪い移しね。この程度でいいなら本当に私じゃなくてもよかったんじゃない?」
「まぁそれでもさ、強力な呪いとなればいろいろ対策しておかないといけないし、呪いみたいな永続的にダメージを受けるような物に関してはやっぱりできるだけ避けたいじゃん。俺じゃどうあがいてもダメージ減らすまでしかできないし」
「その辺りは術師を倒すしかないでしょうね。でもそんなこと言ったほとんどがそうじゃない。と言うか呪いを受ける事を前提に対策練っている限り用心深いにもほどがある」
「天使も悪魔も、神様も仏様もいるような世界だぞ?いつどこで誰に恨み買って呪われるか分かったもんじゃない。しかも最近は学校のアイドル的存在が俺みたいな三下のモブにお熱みたいだからな」
チラッと会長の方を見ると慌てて扉の陰に隠れた。
いやもうバレバレだから。隠れてるつもりかもしれないけど隠れられてないから。
「とにかく俺はお前らみたいに強くないの。だから少しでも防御面と回復面を強化しておかないと不安なんだよ。俺の戦闘力お前らから見たらスライム同然なの」
「いや、ヒラみたいなヤバい奴がスライム同然とか無理だから」
裏桃華の言葉にカエラも頷く。そして扉に隠れていた会長も頷いていた。
カエラは改めて魔方陣を見てから言う。
「あと思ったんだけど、会長って人に物を教えるのも結構上手いって話には聞いてるんだよね」
「突然どうした?」
「だから会長もいきなりこんな難しい術式じゃなくてあくまでもこれが最高だよって言う事でしか教える気が無かったと思うの。あんたの現在のレベルを探りながらね。それを無視して一気にこんな難易度の高い事をすれば、そりゃ目立つし気になるでしょ」
カエラの言葉に会長が力強く頷いていた。
俺そんなに目立つ事したかな……
やっぱり前世の頃の記憶が邪魔してるのか?あいつら全員ヤバかったし……
「まぁいっか。どうせもう描いちゃったし」
せっかく描いたのに消すとか勿体なさすぎる。
俺はそう思いながら反省せず次はどんな物を描くか考えるのだった。




