大神遥
大神遥。
大神家の現当主であり大神グループの社長だかCEOをしている男。
多目的企業として様々な方面に手を出しているが、本職は護衛業である。各国の重鎮、アイドルや俳優から神々の護衛まで様々な相手の護衛をしている。
その実績から護衛を頼むのであれば大神家に依頼しに行くのが名のある存在達の当たり前だ。
大神遥は日本犬の妖怪としての面が強く出ており何かを集団で守る事に特化している。
大神遥自身はそんな護衛達の司令塔として仲間達に指示を出し、確実に護衛対象を守護し続けた。それと同時に相手への報復も忘れない。
喧嘩を売ってきたのだから、護衛対象に手を出すのであれば戦う気はあるのだろ?っという感じで徹底的に報復する。
だからこそ大神家は恐れられている。手を出したら確実に報復を食らわせる存在として。
そして大神遥の特徴を上げるのであれば家族愛や仲間意識が非常に強い事。そして非常に見た目が派手な事か。
だがその派手さは服装ではなく見た目の特徴だ。
アルビノの狗であり体内にメラニン色素が存在しない事で髪も肌も白く、眼は血のように赤い。
昔はそれを嫌っていたが今は凛とした姿で冷血に俺の事を見下している。
そして聞こえる音と特殊なフェロモン。その指示により大神遥の部下は動く。
音とフェロモンによる暗号で仲間にしか分からず、他の者達に邪魔されにくい暗号でお互いをサポートし合う。
阿修羅の子供との戦闘でかなり疲弊している時にこの数の熟練者達を相手にするのはあまりにも無謀すぎる。
しかも大神遥の直属の部下15名、学生時代から共に戦ってきた信頼と実績のある強固なチームワークで俺を捕らえようと動く。
必要最低限のエネルギーで逃げ延びようと思っているがそう簡単には許してくれない。1人をかわして逃げようとしても必ず誰かが邪魔をして俺を決して逃がさない。
前後左右、上も逃げ場がない。
…………これ本当に、マジで面倒すぎる。
ゲームで例えるのであれば司令塔である大神遥から倒すべきなんだろうが、これはゲームではない。当然攻撃しようとすれば他のメンバーが守りに入るし、大神遥自身だって部下に守られてばかりの弱い司令塔ではない。
逃走一択だと言うのにそれすら許さない、戦わざる負えない状況に上手く引き込んでいる。
強くなり過ぎだろこいつら。
「クソっ!」
「そこだ!!」
どうにかこの場から逃げ出そうと低空飛行で逃げようとするが筋肉バカの脳筋に背中から地面に強く叩き付けられた。
口から空気が漏れ出て苦しんだ一瞬を逃さずに他のメンバー達も俺を押さえつける。
「おい遥!こいつどうする?」
「最上位の拘束具で拘束しろ。口だけは縛るな。尋問する」
「こんなのに最上位の拘束具使うのか?」
「いいから従え」
「へ~い」
筋肉バカはそんな事を聞いていたが既に他のメンバーが俺の手足を縛りあげていく。手を後ろにして海老反りで縛られ、しかも結束バンドで両手の親指と両足の親指を縛ると言う念の入れようだ。
マジで逃すつもりはないらしい。
更に最上位の拘束具、おそらく何らかの呪いがかかった縄を使って俺を縛ったのでただでさえ少なくなった魔力などのエネルギーが減少している。
これ本当に早く脱出して逃げないと生きて帰れないかもしれない。
なんて思っていると大神遥が俺の目の前でしゃがみ冷たい視線を送る。
「目的は何だ」
短く俺に聞く。
だが答えるつもりはないので黙っていると容赦なく右手の小指をへし折られた。
「――――――っ!!」
「今ので悲鳴を上げないか。改めて聞こう。何の目的でここに来た」
小指の激痛を感じながら小指の根元に熱い物が溜まっていくのを感じる。おそらく血が小指の根元で水風船のようにパンパンに溜まっているのだろう。
魔力を使って砕けた骨を自力で元の位置に戻して治そうと思ったが、治したはしからまた折られるかもしれない。それにこの縄のせいで魔力やオーラを操るのもかなり難しくなっている。
おそらく縛った相手の魔力やオーラを乱す効果もあるんだろう。
そう思っていると今度は左手の小指をあっさりと折られた。
痛みにもがくが押さえつけられているので暴れても無理やりその場に押しとどめられる。
「質問に答えなかった場合はこのように指を折っていく。両手の指で足りないのであれば次は足の指、まだ足りないようなら腕か足の骨でも折るとしよう」
しれっと恐ろしい事言えるようになったんだな……
いや、このままだと本当に両手両足の骨を折られかねない。
どうにか逃げ出そうと思っていると大神遥はさらに言う。
「NCDの関係者か」
………………?
何でそこでNCDが出てくるのか分からない。
大神遥が警戒するという事はNCDは俺が想像しているよりも大きな組織である可能性が非常に高い。
大神遥が警戒しているという事は、つながりのある理事長達も警戒しているという事に繋がる。この病院を警護しているのが大神グループなのも、大神遥が警戒していた事も理事長から依頼されていた事と予測すれば納得できる。
そうなってくると本当に呪われた人達の反逆のような物は実はかなり日常に近付いてきているのではないのだろうか。
日本にしかいないのか、他の地域や国にもいるのかどうか俺は分かっていない。しかし呪いにかかってしまった人は世界中に居るところから他国にもNCDがいると考えておく方が良いか。
いないと考えておきながらその国から出てきましたとなれば大問題だ。
なんて考えていたら右の親指をへし折られた。
本当に容赦ないな!!
「もう一度聞く。NCDの関係者か」
そんな訳ないだろ。
なんて思いながら痛みを深呼吸で無理やり落ち着かせ、奥の手を使う事を選んだ。
それはただ単に俺と相性のいい魔法。俺の特性である幻術の他の得意魔法だ。それを使って逃げるしかない。
ただこの魔法を使える奴は世界でも数える程度しか存在しないから俺の存在を特定させる大きなヒントになってしまう。
だから使いたくはなかったが……仕方がない。
このままいくとこのまま永遠に尋問され続けるかもしれない。
「はぁ……はぁ……。俺がNCDの関係者、か」
ようやく口を開いた事から少し耳を傾けた大神遥。
俺は大声で叫んだ。
「あんな連中と一緒にするんじゃねぇよ!!」
叫ぶと同時に俺は魔法を使用した。
「いだ!」
「痛い!!」
「熱っ!」
俺を押さえつけていた大神遥の部下達は慌てて手を放す。その手には火傷の様に皮膚がただれており触ってはいけない物に触った事をよく表していた。
俺を拘束していた拘束具も結束バンドも全て消失していき床に落ちたのは歪に溶けた様な壊れ方をした拘束具。俺の体に触れていた床も俺が押さえつけられていた形のまま歪に消えていく。
その光景を見て大神遥は本当に珍しい物を見たと目が語っている。
「消失魔法か」
消失魔法。使用してはいけない、研究してはいけない禁呪の1つとして数えられる特殊な魔法だ。
触れたもの、あるいは概念や記録などを消失させる凶悪な魔法。
何故俺がこの魔法と相性が良いのかは前世の頃から謎だったがこれが俺の才能と言われればそれまでだ。前世の頃から得意でありできる限り遠ざけられていたが今はいざと言うときの隠し玉として研究、利用している。
ただコスパが非常に悪く、大量のエネルギーを消費するか、代わりに自分の持つ何かを消失させて対価を作り出さなけれならない。
今回は簡単で大雑把な魔法なので小さな対価で済んだ。
折れた骨の欠片を消失させる事で自身のオーラに消失の効果を付与させる事が出来た。
「じゃあな」
結束バンドも縄も消失した事で俺は立ち上がり、俺はそう言ってから施設の天井に向かってブレスを放った。
天井から地上まで人1人と折れるくらいの穴を作り俺は飛んだ。
大神遥は追いかけてくる事はなく、リスクを増やさないためになのか部下に指示を出す事もなくただ俺の事を見送る。
空中で消失を使いながら俺は自宅に向かって飛び続けているとスマホに連絡が来たが今は無視。今触れるとスマホも消失してしまう可能性があるからだ。
家に帰ってきてから魔法を解除。オーラも解除して家に入ってベッドの上に転がる。
痛みから折られた指の修復を行いながらスマホを開いた。
「なんだ」
『その言い方は酷いですね。こちらだってかなり頑張ってきたんですよ。まぁそちらの方が損傷が多いのは間違いないですが』
話しかけてきたのはヤドリギだった。
「今は疲れてるんだ。あとでゆっくり聞く」
『ですが1つだけ重要な報告があるので簡潔にご報告します。NCDを名乗るグループが世界中の龍化の呪いに呪われた人達を狙っているようです』
「世界中か……また面倒な」
『他に緊急性の高いデータは奪取する事が出来なかったのであとでご報告しますね』
「それで頼む」
そう言ってヤドリギとの会話は終わった。
痛みに堪えながら俺は骨とダメージの修復に集中する。特に消失魔法で失った骨の再生には時間がかかる。
何せ消失魔法の特性上一度なかったことにしたものを再びなかったことにすることは出来ない。
つまり完全に一から作り直す必要がある。
DNAという原始的な部分から復旧させないといけないのだから、出来なくはないけどかなり時間がかかる。
明日……いや暦としてはもうすでに今日だが、朝にはいつも通り学校に通わなくてはいけない。
もし今日何かあった事を少しでも悟らせないためにはいつも通りの日常を過ごすのが一番手っ取り早い。
そして何事もなく過ごす事で俺自身も安心する事ができる。
とにかく今日はすぐに寝て、体力の回復と骨の修復を急がないとな……




