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転生者の贖罪  作者: 七篠
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桃華の荒魂

 その後基礎戦闘授業では必ず桃華と俺はぶつかるようになっていた。

 もちろん教師の意思で強制的にだ。

 と言っても必ず組手と言う訳ではなくただペアで一緒に授業を受けるだけと言う状況の方が圧倒的に多い。


 そうして少しずつ距離を縮めていったからか一応組手は出来るようになった。

 と言っても桃華はかなり遠慮している感じで、パンチをしてくるときもへなちょこでグーでつついている感じ。

 どう見ても戦闘という感じではない。


 しばらく観察して分かった事だが、桃華は誰かに傷付けられるのが怖いのではなく、誰かを傷付けることに恐怖感を覚えているような印象を受けた。

 それならわっかりやすい解決方法があるので次の基礎戦闘技術で俺は思い切った作戦に出た。


「バッチコーイ」

「えっと?」


 組手をするときに俺はジャージのポケットに手を突っ込んだまんまそう言った。

 全く戦おうとしていない状態なのは分かるがこれが桃華へのリハビリだ。


「ほれ、早く攻撃してこい」

「は、はい!え、えいや~」


 そんな気の抜けた感じでへなちょこパンチを俺の胸にとんと当てた。

 向こうも困惑しているがこちらはやっぱりダメか~っと思い容赦なく魔法を使った。


「キャン!」


 犬のような悲鳴を上げた後、桃華はす床に転がり目を抑えるがすぐにその様子は収まった。

 その時の桃華の雰囲気は今までの自信のない桃華ではなく、実力に見合った確かな強者の雰囲気が出ていた。

 そして桃華は口を開いた。


「テメェか?ウチを叩き起こしたのは」


 一人称も口調も今までと全く違う事に驚くクラスメイト達だったが俺の中では想定内。やっぱりこういう感じになったか。


「ああ俺だ。記憶は共有してるんだろ?」

「よく知ってるじゃないか。もしかして同類か?」

「かもね。さて、それじゃ始めようか」


 と言っても俺の手は相変わらずポケットに入ったまま構えとは言えない状態で立ち続ける。


「どんな意図があるんだか分からないが、今までのフラストレーションを発散させてもらうぞ!!」


 桃華は今までのへなちょこパンチとは違いちゃんと威力のある拳を放ってきた。


 何故桃華が急変したのかと言うと、おそらく妖怪としての血が濃すぎた結果ではないかと俺は考えている。

 日本の神々には和魂にぎみたま荒魂あらみたまと言う2つの側面がある。有名なところではお地蔵さんが和魂、閻魔大王が荒魂と言う同一説だ。

 つまり人を助けたりするのが和魂、人を恐怖などで罰するのが閻魔大王みたいな感じだ。


 つまり何が言いたいのかと言うと、桃華はこの和魂と荒魂の性質により多重人格のような物になっているのではないかと予想した。

 普段の大人しくて怯えている桃華が和魂、例えるなら人懐っこいワンコの側面。そして今目の前にいる好戦的なのが荒魂、気性の荒い野良犬の側面があるのではないかと仮定した。

 普段はその荒魂の部分を目覚めさせない、もしくは閉じ込めておくために戦闘をできるだけ回避していたのだろう。

 そして桃華の両親はその荒魂の部分も受け入れられるよう戦闘科に無理やり入学させたのではないだろうか?


 それにまぁ荒魂の部分が制御できていないと言うのは確かに危険な事だ。

 恨みや憎しみなどで暴走しやすい狗神の一族。確実に復讐するために唸り、牙を肉に突き立てるだけではなく相手を呪いごろすことだって可能だ。

 そんなコントロールできないなら荒魂の部分を意図的に押さえつける。それもまた確かに選択肢の1つではある。

 だがその場合抑え込んでいる本人に大きな負担がかかるし、荒魂の方も無理やり出てこようと暴れるだろう。


 だからこそここで桃華に教える必要がある。

 お前みたいな子犬にじゃれつかれたくらいではそう簡単に死なないという事を。


 受け身なんてものは一切考えず、手を突っ込んだまま俺は倒れた。

 だが覇気で身を守っているので衝撃波感じても痛みは一切ない。それでも桃華は俺に馬乗りになって連続で顔に拳を叩き込んでくるが、この程度では俺の覇気を突破することは出来ない。

 リルほどではなくても獣の属性が強ければ殴る蹴るよりも爪でえぐり出す、牙で肉を食い千切ると言う行為の方がかなり攻撃力が高い。

 でも桃華はそれを理解できていないから人間のように殴って蹴ってを繰り返す攻撃ばかりを行ってしまう。


「勿体ねぇ」

「あ?」


 攻撃を受けながら俺は言う。


「妖怪とは言えお前は獣だ。即座にとどめを刺すのであれば牙を俺の首に突き立てるべきだった」

「とどめ?そんなつもりはない!言ったろ?これはフラストレーションを発散するための物だって!だからこれは遊びなんだよ!!」

「なるほど。それは納得だ。だがこれだけじゃ俺は面白くないな」

「お前を楽しませるつもりはねぇよ!!」


 今度は俺を無理矢理立たせて蹴りを入れてきた。まるで木の棒のに酔うにただ蹴られるままバウンドして転がるが全然痛みはない。

 ボールでも蹴る様な気軽さで俺の事を何度も蹴る桃華を見て俺は思った。

 これ完全に犬だな。

 俺をおもちゃとして見ているが完全に大型犬がじゃれついているだけだ。


「ガブ!」


 立ち上がった後に俺の脚に噛み付いてきたが痛めつけると言うよりはただ単に噛むのが楽しいような、本当に遊びにしか感じない。


「お前遊ぶの本当に好きだな」

「遊んでない。フラストレーションの発散」

「それを遊びで解消するのも変な話しじゃないだろ?遊んでやるから今の内にストレス発散しちまいな」

「だからフラストレーション!!」


 俺の掌から魔力の球を放つと桃華は球に向かって言い追いよく駆け出し咥えてキャッチした。

 すぐにはっとして俺を見るが俺は構わず連続で球を放つ。その玉の動きをちゃんと目で見て軌道を読みながら全て口でキャッチした。


「お~凄い凄い」

「犬扱いするな―!!」

「いやお前これ完全に犬だろ」

「知るか!!」


 そう言って今度は俺の腕に噛み付いたがやはり遊び半分だからか本気で噛んでこない。

 その表情は完全に嬉しそうであり、楽しんでいる。

 ずっと心の奥底に無理矢理閉じ込めっぱなしだったんだろう。だから怒りでも嫉妬でもなく、フラストレーションと言う言葉を使っている。

 本当にただ閉じ込められていた分はっちゃけているだけだ。


 腕に噛み付かれた状態で投げながら覇気を瞬間的に解除。噛む物がなくなった桃華は少しだけ飛んで四つ足で綺麗に着地する。

 ある程度動いてリラックスできたのか、ふと気になったように聞く。


「ところでどうやってウチを表に出したんだ?結構強い暗示かけられてたはずなんだけど」

「俺の得意魔法は幻術だ。自己暗示で荒魂の部分を封じ込めていたのは何となく分かってたし、自己暗示だったから幻術で今もしっかり機能していると勘違いをさせているだけだ。これでネタは分かったか?」

「分かった。でもなんでウチの事分かったの?」

「いや、何も分かってない」

「え?」

「自己暗示を止めさせたらお前が出てきた。まさか二重人格だとは思ってなかった」


 素直にそう言うと桃華は大笑いした。


「ふ、普通しないでしょそんなギャンブル!!藪を突いて蛇どころか、妖怪が出てくるって分かってたのに?どんな妖怪が出てくるか分からないのに平気で突くって正気じゃないって!!」

「そんな変な事か?」


 俺には分からない感覚だがこれで少しは桃華も落ち着くだろうし、自分自身を抑え続ける負担も減るだろう。


「あ~笑った。ところで君、名前は?」

「佐藤柊」

「それじゃヒラだね。なんか会社員っぽい」

「マジで万年平社員みたいなあだ名だな」

「これからも私と遊んでよ。そのためにいるんでしょ?」

「まぁ、当たらずも遠からずって感じだな」

「それじゃまた来週遊ぼうな、ヒラ」


 そう言うと桃華は目を閉じ、10秒くらいすると目を開けた。


「あ、あの!私がすみません……」


 どうやら和魂の方が顔を出したようだ。

 記憶は共有しているようだし、普通に接していけばいいだろう。


「気にするな。それから俺の魔法はもう消えてるから。それでも不安だったらあとで先生に魔法かけられていないか確認しておくと良い」

「本当にすみません。お手数をおかけしてしまって……」

「気にするな。それよりお前はお前で頑張れよ」

「え?」

「もう1人の自分と向き合え。それはお前にしかできない事なんだから」


 俺はそう言った後、結界が解除されたのでまた遊ぶ約束をして終わった。


「それじゃまた来週~」

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