表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者の贖罪  作者: 七篠
29/201

おとなしい狗

 戦闘科に移ってから俺の平穏な日常はあっという間に消えてしまった。

 よく分からないが未だにカエラ以外のクラスメイト達からは敵対心と言うよりはライバル視?いやもうちょっと悪意みたいなのもあったしな、とにかく嫌われている。

 だからと言ってイジメに遭っている訳でもなく、とにかく距離をもたれて遠くから視線を感じる事が多くなった。

 でもそんな彼らの事を無視して授業を受け、毎日の訓練に精を出している。


 基礎戦闘技術では本当に毎回理事長がやってきてしごかれる。

 俺は必死こいて戦っていると言うのに、向こうは完全に楽しんでいるのを見ると非常に複雑だ。

 目の前で楽しそうに、嬉しそうにしているのは心からよかったと思うが、最期に見たあの光景を思い出すと素直に喜べない。

 目の前にいる彼女は俺が裏切り者である事に気が付いていない。分からないまま楽しそうに戦いを楽しんでいる姿は幼い子度を騙しているような罪悪感を覚える。


 でも理事長のおかげで戦闘に関する勘はだいぶ取り戻してきたと思う。

 技を出すタイミングや、相手のカウンター狙いの挙動などより実践的な動きに慣れていった。

 ただ俺自身あまりカウンターを狙ってこなかったので俺がカウンターを繰り出すのはいまだに苦手だ。その事に気が付いてはいるが特に何も言わない理事長。俺が本気でカウンターを覚えようとしているかどうか確かめている段階のようだ。

 だがやはり前世の頃の戦い方は癖として残ってしまっているようなので無理に変えようとすると他にも悪影響を出してしまうかもしれない。

 そう考えると今まで通りでいいかと思い、すぐにカウンターを狙う事はやめた。


 そんな生活は結構充実しており、想像していたできない事を無理にやるという事もない。

 例えば基礎武具技術では自分が得意とする武器や防具は何なのかを見つけるところから始まり、クラスメイト達も自分の戦い方、体格などを考えて武器を選択して指導されている。

 俺の場合はやはり前世の頃から使っていた日本刀の適性が最も高いという事でこの授業中は日本刀を使って授業を受ける事になった。

 ちなみに刀や槍を使うのが不得意な生徒達はメリケンサックや鉄製の小手などを装備して近接戦闘の訓練をしていた。


 そんな感じで表向きは普通に過ごし、裏ではダークウェブで情報収集を行いながら今後自分自身の強化プランを練っている。


 そして今日も基礎戦闘技術の授業で理事長と戦うのかと思っていたら先生が言った。


「今日は各自クラスメイトで組手をしてもらう。柊君も参加してくれ」


 という事だった。

 俺の意見と言うよりは今日もいる理事長の顔色を窺っていたが、特に問題はない様で普段通りの表情をしている。

 これなら問題なさそうだと思い承諾した。

 それにたまには他の生徒達の実力を確認しておきたい。

 理事長との組手が激しすぎて他の生徒達の実力をしっかりと図るタイミングがなかなかなかったからだ。


「それじゃ最初は、大神おおがみ桃華とうか。君が柊君と戦ってくれ」

「わ、分かりました」


 大神?

 その名字に聞き覚えがあったのでついその子の事を見てしまう。

 見た目は黒髪で日本人の女の子であり、少し臆病そうな表情をしている。自信なさげ、自分自身の事を信用しきっていない表情をしているのが気になる。


 俺と桃華は結界の中に入って構える。

 組手で相手の実力を測るのはちょうどいいがあまりにも自信のなさそうな表情が気になる。


「始め!」


 先生がそう声を出すと桃華はその声に驚いたようでびくっと体を振るわせた。

 俺は構えてはいるが攻撃する気はなく、むしろ攻撃する隙ばかりだと思うのだが攻撃してこない。

 と言うか攻撃できそうにない。完全に腰は引けているし、何もしていないのに既に泣きそうな表情だし、これじゃ何もしていないのに虐めているようだ。


「先生。相手変えてもらえませんか?もの凄くやり辛いんですけど」

「ダメです。全く戦わずに終わらせるわけにはいきませんから」


 なんて言うがもうすでに向こうには戦意がない。戦意がない相手を殴るのは嫌だし、戦う気も起きない。

 仕方なくため息をついてから桃華に向き直ると桃華は分かりやすく怯えた。全身を振るわせて結界の端まで逃げてどう生き残るのかばかり考えている。

 これは子犬がデカい犬に怯えて逃げようとしているようにしか見えない。

 もしこれが弱いふりをしている演技なのだとしたら彼女は大女優になれること間違いなし。戦闘科じゃなくて演劇部に行く事をおすすめする。


「だってさ。どうする?」


 俺はポケットに手を突っ込みながら聞くと桃華は首を全力で横に振った。


「ヤダ……戦いたくない……」


 か細い声で言う桃華はやはり戦う気になれない。

 ほんの一歩近づいただけで結界を引っかいて結界を壊して逃亡しようとしている。


「…………先生」

「仕方ないか。それじゃ桃華の代わりに誰か柊君と戦ってくれる人はいませんか?」


 流石の先生も桃華に全く戦闘する気がない状態に仕方なく交代する事を決めた。

 俺はその後交代してくれた男子生徒と軽~く組手をし、久しぶりに楽な授業となった。

 その後放課後の自主練習でカエラとリル、あとなぜか今日は理事長とサマエルまでいる。


「何で理事長と秘書さんも一緒なんですか」

「今日の授業は楽そうでしたので鍛え直そうと思っていたのですが、このような訓練を行っているのであれば問題なさそうですね」

「それじゃいるついでにみなさんに聞いていいですか?大神桃華ってあの子何?全然戦う気ないじゃないですか。何で戦闘科にいるんです?」


 指だけで倒立する本当にキツイ訓練をした後休憩しながら聞いてみた。

 誰から話すのだろうと思っているとカエラが口を開いた。


「桃華ちゃんは私と同じように親の命令で戦闘科に入った感じだったはずだよ。本人は戦う気はあまりないし、静かに平穏に過ごしたいみたいだけど周りがそれを許してくれない感じ」

「そうなのかリル?」


 リルに確認を取ると大体そんな感じと雰囲気を送ってきた。

 そうなると桃華の親が誰なのかも関係してくるんだろうが……俺の予想が正しければあいつの娘だろう。


「何でリルに確認取ってるの?」

「いや、なんとなくリルと似た雰囲気を感じたから多分親戚だろうなっと思って。リルの子供ではなさそうだから……多分姪っ子?」


 俺がそう確認するとリルは頷いた。

 やっぱりか~っと思っていると理事長はこちらが分かっていると確信しながら言った。


「では彼女の両親も分かっているのですね」

「父親の方なら知ってますよ。大神一族の現当主、大神(はるか)ですよね」


 大神遥。

 狗神と言われる妖怪一族の当主であり神様から人間まで多くの人を対象にした護衛業と防犯機器の開発をしている一族だ。

 この学校のセキュリティーや警備員もしており、この間あばれに来た奴から戦闘科の1年生達を助けたスーツ集団も大神一族のボディーガードか警備員と言う所だろう。


 だが子供がいるとか、その子供が同い年である事などまでは調べていなかった。

 出会ったところで何の関係もないのだから。


「その通りです。彼は私の後輩にあたるのですが、彼が戦闘科に桃華さんを入学させた理由はあの臆病な性格を少しでも良くするためです」

「少しでも良くするって、今の状況じゃ悪化しているように見えますけど?」

「元々彼女は大人しすぎる性格と、優しすぎる性格のせいでいじめの対象になっていたそうなのです。何1つ文句を言わず、ただ虐めを耐える姿は虐めている側としては楽しいおもちゃのような感覚だったのでしょう」

「それ絶対後から報復ありましたよね?」

「当然ありました。大神家と言うよりは妖怪としての本質と言う部分が強いですから」


 狗神とは大本を辿れば元々はただの動物の幽霊だ。

 だが死に方によっては恨み辛みで呪い殺す存在になる。その結果人の命を奪った動物霊は妖怪に変わることだってある。

 狗神もその例に漏れず人を殺して妖怪になったパターンだ。

 だが中には人間の手によって幸せに生きた犬も妖怪になる事もあり、そんな彼らも受け入れている間に犬にやさしい存在には良き隣人として接し、悪意を持って攻撃してくるものには必ず報復を行う妖怪になった。


 だから桃華が虐められた時は多くの者が報復に向かった事だろう。

 彼らは妖怪。片目を潰されたのなら両目を潰せ、腕1本傷付けられたのなら相手の腕を2本食い千切れ、群れの一員を殺されたのなら相手の一族を根絶させろ。

 それが彼ら大神一族である。


「その虐めていた連中殺されました?」

「いいえ、今の時代に則って法の下に報復されました。ですがかなり厳しく裁判にかけられたので彼らはもう真っ当には生きられないかもしれません」

「その家族も?」

「それは桃華さんの訴えで最低限の報復、虐めていた本人達のみに報復されました。それでもかなりの借金苦で高校に通う事も出来ず大神家の監視下の元必死に働いているようです」

「それだけで済んでよかったですね」

「はい。それだけで済んでよかったです」


 何度も言うが彼らの本質は妖怪であり、やられたら数億倍にしてやり返す一族だ。虐めた本人とその家族全員が殺されなかっただけまだマシと言える。

 あいつらならマジでやる。


「しかし桃華さんはその事件の後余計に閉じこもってしまうようになってしまいました。できるだけ誰とも関わらなければ一族が報復に訪れる事もないっと考えるようになってしまったようです。なのでその考えをただすことは出来ないかと相談され戦闘科に属しているのです」

「いや、そこは普通科から行きましょうよ」

「残念ですがそうなると私の目が届かないのでどうしても戦闘科の方が色々と都合が良いのです。また虐められたら今度は相手の家族がどうなる事か」

「相手の事も気がかりですもんね。あれ?この間の事件の奴は大丈夫なんですか?」

「大丈夫……だと思います。彼らは龍化の呪いにかかった方々の治療施設に送りましたからそう簡単に発見する事すら難しいです。それ一応授業の一環であり、責任はこちらにあると説明したので報復するとすれば危険な目に合わせた私達になりますので彼らを直接狙う事はしないかと」


 それならそれでいいが、色々面倒臭いな。

 優しすぎる狗神の娘か。普通に考えればいい事なんだが、相手が相手なだけあって回りがかなり面倒くさい。

 本人ではなくその家族が面倒なパターンか。前世の頃も何度かあったな。


「それで、なんでわざと俺にぶつけたんですか?佐々木先生は」

「おそらくリルさんと一緒に居るから戦いやすいと思ったんでしょうが……完全に裏目に出ましたね」

「現当主の兄弟だからですか?」

「そうです。今もリルさんは大神家の最高傑作として妖怪だけではなく神仏の世界にも名が広がっています。そんな方と契約した人と戦うとなると、緊張しますし、おそらく想像以上に強いと勘違いしているところもあるかと」

「最強の叔母が契約した奴もめっちゃ強いって勘違いしてる訳か。過剰な期待はご勘弁願いたい」


 そうなると今後も桃華と戦わされる機会はでできそうだな。

 こういう時の相手の仕方はある程度慣れてるし、少しリハビリに手を貸してやるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ