新しいクラス
俺は生徒会長の案内で戦闘科の1年生のクラスの前まで来ていた。
「では柊さんここが1年生の教室です。頑張ってくださいね」
「まぁ、無理しない程度に頑張ります」
俺に言えるのは精々このくらいだった。ほとんどやる気はないが、組み込まれてしまった以上どうする事も出来ないと言うのが現実だ。
生徒会長は自分のクラスに向かっていく中、俺は自分のクラスの扉を開いた。
「え~彼が新しくこの科に来た佐藤柊君です。自己紹介よろしく」
「佐藤柊です。なんか成り行きでこの科に来ました。よろしくお願いします」
短く自己紹介をしながら軽くクラスの中を見渡してみると、ほとんどの連中が俺に対して不満そうな表情をしている。
普通科から戦闘科に転入した事が気に入らないのか、それとも他に理由があるのかは分からないが歓迎されていない事は空気で分かる。
唯一歓迎してくれているのは既に知り合いであるカエラだけだ。
「それから先生、今日から担任を外れる事になったので新しい担任の先生を紹介します。柊さんはカエラさんの後ろの席に座って」
「はい」
唯一空いていた、と言うよりは新しく用意したであろう席に座るとカエラが振り向きながら小声で話す。
「久しぶり。まさかこっちに来るなんてね」
「俺だって来る気はなかったよ。でも理事長達がどうしてもってさ」
「そうなんだ。あと今このクラスピリピリしてるから昼休みにちょっと話そう」
そう言ってまた正面に顔を向けるカエラ。
カエラの言葉通りどうもこの教室はピリピリした空気が張り詰めている。やはりこの前の授業と言うの名の不良退治が最後の最後でうまくいかなかった事に腹を立てているのだろうか。
これに関しては理事長も言っていた龍化の呪いによって強化された不良達が居る事に気付けなかった学校側にも問題はある。だがあそこまでこっ酷くやられたのは実力不足もいい所だが。
なんて思っていると新しい担任の先生と思われる人が入ってきた瞬間凄まじい殺気を感じた。
まるで相手を斬るような鋭い殺気。研ぎ澄まされていると言うのが正しいか、これは斬る事に特化した剣士特有の殺気。
その新しい担任は予想通り腰に日本刀を差しておりその風貌は……意外にも優しげだった。
だが周りの新しいクラスメイト達は彼を見て明らかに嫌な表情をしていたのが印象深い。
「さて、今日から私がみんなの担任をする、佐々木渉です。元々は戦闘科3年生の学年主任をしていましたが、みなさんがあまりにも情けないので私が鍛え直す事になりました。これからよろしくお願いします」
明るく言うが言葉に棘があるし、周囲の雰囲気から相手にしたくない相手と言うのは感じる。
見た目はまだ若く名前通り日本人顔。黒髪黒目の普通の日本人よりは顔は整っているかな?っという感じの優男フェイス。鍛えてはいるが体に筋肉が付きにくい体質っぽくて体の線は細い。
それにしてもな……渉が学校の先生ね……すっげー意外。
そして俺の事を見ると何故か改めて殺気を送ってくる。
具体的には俺の首を斬り落とすイメージをぶつけてきたので正直何で??っという感じしかしない。
いや前世の頃は色々あったけど、覚えているはずがないからな……いや、理事長の事が絡めばいつでもこんな感じだったか。
おそらく理事長が気にかけていると言うだけで気に入らないのだろう。
相変わらず器が小さいと言うかなんというか……
なんて感じで転入生だけではなく担任の先生まで変わると言う普通の学校ではありえないような内容だが、午前中の授業は先週やった授業内容を早歩きで進めている感じだったので1週間の遅れを取り戻そうとしている感じがした。
そして気が付いた事だが前世の頃にちょっと関わった人達が多く、理事長の仲間として活躍していた人たちが先生として活躍していると思うと考え深い。
なんて懐かしみながら授業を受け、昼休みになるとカエラにさっそく誘われた。
「ほら、早く来て」
何故か急かされながらいつもの訓練場所まで連れてこられるとようやくカエラは大きく息を吐き出した。
「なんだよあんな急いで。なんかあった?」
「なんかって……こっちは気を使って離れたって言うのにのんきなんだから」
そう言ってどっと疲れたような感じでしゃがみ込む。
俺は持ってきていた弁当を取り出し、食べながら聞く。
「それってクラスメイト達から向けられてきたあの妙な視線と何か関係あるのか?」
「妙なって……あれ殺気なんだけど」
「殺気?あの程度でか」
「そう言う事、あまり言わない方が良いよ。全員倒されて、しかも人質にされて、その上担任があの渉先生になったんだからピリピリするよ」
「あの教室の雰囲気が俺1人が原因じゃなくて本当に良かった。で、あの先生そんなに厳しいのか?」
「厳しいと言うよりは理不尽。もちろん言動とか体罰とかしてくるんじゃなくて、強すぎるの。何せあの理事長の旦那さんなんだから」
「旦那って結婚できたのか!?」
「ううん。今も理事長にプロポーズしてるけど全部断られてるって」
その言葉に俺はがっかりした。
何だよあいつ、いまだに相手にされてないのか……
佐々木渉。
前世の頃水地雫に一目惚れしてからずっとアタックし続けているが何度も振られ続けている悲しき男。それでもめげずにアピールしたりしているところは凄いが、その情熱が本当に水地雫に全然届いていないと言うマジでなけてくる男。
いや、届いてはいるんだろうが恋人とか結婚相手としては全く見られていない。友達として一緒に居たい男性として見られていると言うべきか?
「何と言うか……悲しいな」
「それは言えてる。でも会長の父親代わりとして近くにいたなんて言ってるし、会長も認めてる。でもお父さんと言うよりは親戚のお兄さんみたいな感じだって言ってたけど」
「生徒会長その辺どう思ってるんだろうな。母親にアピールする親戚のお兄さんって複雑じゃない?」
「子供の頃からそうだったから慣れたって」
渉…………お前マジで泣いていいぞ。
「これこの学校に通っているとすごく有名な話。最強の存在にアピールし続けてるって」
「有名になってるのか。アピールして失敗してる所まで」
「そこまでが話だから」
水地雫も結婚してもよさそうな物なんだけどな……そんなに悪い奴じゃないだろうに。
と言うかそれ学生時代の頃からってのはバレてないよな?
「しかもこの話、学生時代の頃からだって有名なんだよ」
バレてたー!!思いっきりバレてんじゃん!!
誰かがついこぼしちゃったくらいの内容かもしれないけど、でも学生時代のころから好きな女子に告りまくって全弾外してるって言う黒歴史が大公開されているじゃん。もはやフリー素材だよこれ。
「そ、そこまで……」
「うん。悪い人ではないんだけど、しつこすぎて周りの女子はみんなドン引きだよ」
「そこまでくるとストーカー被害出てないのが奇跡としか言いようがないな……」
「その辺りは理事長達の関係しだいだけど……不思議な関係だよね。ストーカーされてるも同然なのにそれを許してるのに結婚とかは認めてないって」
「俺、2人の関係がマジで心配になってきた。しかも顔を合わせるかどうかは分からないけど職場同じじゃん。渉先生の心臓超合金で出来てるんじゃないの?」
「それに関してはみんなそう思ってる」
この話を聞いていたリルも呆れた感じでため息をついた。
どうやらリルも知っているようでいい加減諦めて他の恋をすればいいのにと思っているようだ。
「あれ?何で渉先生の悲しい職場事情について話してたんだっけ」
「えっと……そうだそうだ。他のみんな柊の事気に入らなそうだから気を付けてって言いたかったんだ。渉先生含めて」
「俺なんかしたっけ?」
「クラスのみんなに関しては嫉妬。私達が手も足も出なかった奴に勝っちゃったから。しかも無傷で倒したって本当?」
「一応は。でもリルの協力あっての勝利だから多分勘違いしてると思うぞ」
「だとしても普通科の生徒か戦闘科の生徒が勝てなかった奴に勝ったっていうのはみんなにとって気に入らないの。それから渉先生に関しては、理事長に色々に気かけてもらってる柊君に絶対嫉妬してるから気を付けてねって事」
「分かった気を付ける」
と言っても6時間目って基礎戦闘技術の授業だったよな。
それにも渉のやつ出てくるのか……面倒くさそ。
そう思っているとリルも面倒臭そうに冷めた視線をどこかに向けるのだった。




