side戦闘科1年生 暴力
私、カエラ・ファーゲル・フォン・デラ・アモンは一応悪魔と言う種である。何故一応なのか、それはただの自虐だ。
一応アモンの血を引いているが、初代アモンが気に入った名のない眷属悪魔との間に子を残し、それからどんどん名のない悪魔の血を残していった先の子孫が私だ。
本家から見ればとっくの昔に忘れ去られた血筋だろう。
アモンに属しているという事は把握されているかもしれないがそれだけだ。
現在の私は一応貴族の血を引いていると言うだけで両親から貴族としての振るまいと言う物を教え込まれてきた。
だが悪魔の貴族が揃うパーティーなどに出席した事なんて当然なく、かといって私と同じような遠い貴族の血が混じった普通の悪魔との交流も浅い。
それは両親が無駄に貴族の血を引いているという点に拘り、私達と同じ存在を見下しているからだ。
だから私の家だけはそんな普通の悪魔達と一緒に居る事すら許されない。非常にせまっ苦しい生活を強制されている。
そんな普通の家と変わらない家だが金だけは一応ある。
だからこの学校の戦闘科と言うエリートコースに入学できたが、ようやく同じ感じの人達と交流を持つ事が出来た。
そして今日はその戦闘科の校外学習であり、町の近くにいる不良のたまり場を掃除するのが授業内容だ。
と言ってもただのボランティア活動ではなく不良達を警察に突き出すのが目的。ここに居る不良達はスリや傷害罪、暴行恫喝、様々な罪を犯しているから全員遠慮なく捕まえていいらしい。
彼らを捕まえるごとにポイントが増え、罪の数が多い不良を捕まえたらさらにポイントが加算される。ポイントが多い生徒はさらに学校側から評価される。
私は正直学校からの評価なんてどうでもいいが、両親に学校側から評価されていると思わせないといけないのでこういった時には積極的にポイントを手に入れていく。
もしこの科で成績がよくなかったらどんな罰を与えられるか分からない。
親の言う事を聞き、良い成績を収めないと何をされるのか分からない。子供は親の所有物であり、期待に応えられないのであれば捨てる。
本当に捨てないのはただ世間体のためだけであり、愛情だ何だと言う甘い物は一切含まれない。
本当に嫌だと感じていても、私にはあの2人の血を引いている。
時代が移り変わるのと同時に人間が悪魔に求める願いと対価も変わっていくのと同じように変わらなければならない。
ろくに契約も取る事ができなくなれば悪魔を名乗る事すらできなくなってしまう。
そう言う意味では両親は悪魔として優秀だろう。
嘘は言っていないけど契約にも書かれていないのであればこちらが有利になるような条件を突き付け、利益を奪いつくす。
それこそ両親が人間を路頭に狂わせたことなんて数える事が出来ないくらいの事をしているはずだ。私もそのやり方を見て学ばされている。
でも私にとっては騙して利益を手にするよりも、等価交換の意思をもって長い付き合いをしたい。
それこそ彼と私の契約のように……
変わりたいけど血の繋がった親と言う存在が非常に邪魔だ。
消えてくれればいいのに……
「テメェ!ぎゃ!!」
やってくる不良達がこちらに近付く前に魔法で攻撃して倒す。
人間は長距離攻撃をする際に必ず物を投げると言う行為をしなければ長距離攻撃はできない。その前に麻痺効果がある魔法。着弾した瞬間相手を拘束する魔法を使えば今回は楽にポイントを稼げる。
あくまでも目的は捕獲、無駄な事はしたくないし不良でも殺せば殺人罪になる。こんなくだらない連中を殺して罪など背負いたくない。
そんな興味のなさから私は植物系魔法、バインドプラントを使う。バインドプラントは植物の種を飛ばし、ぶつかった対象に対して巨大な蔓が相手に巻き付く魔法。捕縛と言う点ではこれほど楽な魔法はない。
「テメェ汚ねぇぞ!!」
「悪い事してるのが悪いんでしょ。このまま警察に突き出すから、おとなしくしててね」
「クッソ!この蔓がなければ!!」
不良は暴れるが悪魔の私は人間の男ぐらい魔法による強化が無くても抱えて運ぶくらいのことは出来る。
そうやってクラスメイトとゲーム感覚で不良達を捕まえて警察の人達に引き渡す。
最後に残ったのはこのエリアの中心部に居る不良の中でもとくに有名なチームの一角らしい。
なんでもどこかの犯罪組織と繋がっているとの噂があるらしく、そのチームの偉い奴を捕まえれば芋蔓式で今まで見つける事が出来なかった犯罪組織の検挙に繋がるかもしれない事もあり、警察も期待している。
それでも私達はただの不良であり、戦いの訓練を受けている訳ではない連中なんて大した事ないと思っていた。
包囲に関しては問題ない。私達だけではなく警察の人達とも協力して包囲しているのだから大きな穴はない。それに警察と言っても人間だけではなく、獣人や妖怪、下位の天使も含まれている。
それに比べて相手はただのに人間ばかりの集団。それに対してこちらは様々な種族が揃っている事からも勝利は確実だと思っている。
緊張半分、余裕半分という感じで私達は最後の集団を捕らえに行く。
だが私達の余裕はあっけなく破壊された。
不良グループとは思えない装備、拳銃を使って攻撃してきたからだ。乾いた音と共にクラスメイトの脚が撃ち抜かれ、悲鳴と共に周囲に恐怖を与えていく。
ただ痛くて泣いているだけなのに拳銃を使ったと言う事実が私達を動揺させた。
そして次々と放ってくる銃弾に私達は防戦一方となる。
「学生さん達は下がって!!」
警察の人達がすぐに前に出て防御壁を張ってくれる。
打たれたクラスメイトはすぐ他のクラスメイトに引きずられる形でこの場を脱出したが、撃たれた足を抑えながら痛みに苦しんでいる。
その時彼の声が聞こえた気がした。
殴る覚悟も、殴られる覚悟も、学んでいるとは言い難い。
確かに私達は授業と言う形でお互いを傷付けないように気を使ってきた。あくまでも強くなるのが目的であって、別に傷付ける必要がないのであれば傷付け合うような事はしなくても良いと思っていたから。
でもこうして本当の戦いの場に出た時、殴られる覚悟と言う物がないからこそ拳銃を向けられた時に私達は何もできなかった。魔法で守る事も出来たのに、想定外の武器を使ってきたとに驚いて動けなくなってしまっていた。
そして彼の言っていた不意打ちに気を付けろと言う言葉も、すっかり忘れていた。
私達は警察の人と先生達の誘導でその場から離れて震えていた。
結局私達は、自分達が優位になっていると感じないと戦う事すらできない、そんな弱い存在なんだと今更気が付いた。
でもここに居る警察の人達なら拳銃を持っていようとも対応することは出来るだろうと根拠のない信頼に頼っていた。
だが大きな音と共に瓦礫の破片が吹っ飛んでくるのを見て感じた私達はすぐに頭を両手で守りながら地面に這いつくばった。
一体何が起こったのだろうと埃が落ち着いてから顔を上げると、そこには想定外すぎる相手が居た。
「全く。温室で育ったガキ共にいいようにされてんじゃねぇよ」
大柄で筋肉質の男が纏うオーラは、確かに前に見た龍化の呪いにかかった人特有のオーラの形をしていた。
なのに何で理性があるのかさっぱり分からない。
呪われた人は理性がなくなり、ただ周囲の物を破壊しながら暴れるだけなのに、明らかに目の前の男は理性を保った状態なのに私達の前で立っている。
「この制服……最近暴れてた奴と同じ学校か。おいお前ら!お礼参りと行くぞ!!」
そう言った男の後ろには、数多くの呪われた人達がそこに立っていた。
男女問わずドラゴンのオーラを纏った不良が30人以上……1体出会う事すら稀なのに、それが一気に……
「とりあえず、二度と逆らおうと思わないようにシメておくか」
理不尽なドラゴンの暴力が、私達を襲った。




