表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者の贖罪  作者: 七篠
21/198

誰も使わない魔法

「う~ん。つまらん」


 土日祝日を使った不良達を相手に喧嘩を売ったり買ったりして実戦訓練をしていたがすでにマンネリになりつつあった。

 ある程度相手は選んでいるとはいえ、何と言うか前世の時のような凶暴さ、荒っぽさが全然ない。

 そのせいであまり練習になっている気にならない。

 そして今は平日なのでいつもの校舎裏で体感、筋トレ、関節など鍛えている。


「ねぇ。今度は何してるの?」


 そしてまたいつも通りカエラが俺の事を眺めている。


「今度っていつも通りの練習だろうが」

「そっちじゃなくて、今日の体内魔力の流れが変だから言ってるの。意図的に流れを変えているのは分かるけど……それ何の訓練?」

「本当に緊急時の訓練だな。簡単に言うと合体魔法の練習」

「合体魔法ってあの非効率で博打のあの合体魔法?そんなの練習してどうするの?」


 合体魔法。

 言葉のニュアンスだけだと強そうに感じるかもしれないが、実際には様々な制約が存在するために非効率、博打と言われるネタ魔法の一種とされている。

 まず当然だが最低でも2人以上の協力が必要であり、しかもお互いの体内魔力を100%一致させなければならない。

 この体内魔力を一致させるのが非常に面倒臭く、非効率と言われる理由だ。

 ほんの一瞬の攻撃であっても体内魔力を一致させるのはお互いの呼吸を合わせるレベルの物ではなく、さらに高次元のレベルが要求される。

 簡単に言えば戦っている最中に全く同じ思考、全く同じ動き、全く同じ魔力を維持し続けなければならない。

 もしそれがずれたりしたらすぐに合体は強制解除となり分裂する。


 と言ってもこれは本当に最上級の合体魔法の話であり、本当に2人の人間が1人の人間になるレベルの話。

 現在では心身ともにではなく、1つの攻撃を合体させる合体魔法の方が主流だ。

 これなら一瞬の攻撃だけ息を合わせればいいのでまだ難易度は下がるし、一発強力な攻撃を食らわせる事ができる。

 だがそれでも体内魔力100%を技の瞬間合わせないといけない事からネタと言われ続けている。


「君に合体魔法をしてくれそうな相手なんているの?」

「居るぞ、そこに」


 俺が指さした先にはリルがいる。

 カエラはリルを見た後にもの凄い渋い顔をしながら言った。


「確かに協力できるかもしれないけど、人型が動物型の人に合わせるのってかなり大変じゃなかった?確か脳の違いがどうこうって」

「確かにそう言う事を言う研究者もいるけど、普通の犬猫と仲良くして心を通わせる事ができる人達だっている。難しく考えすぎだ」

「そっちが簡単に考えすぎなんじゃない。確かに心を通わせることまではできるだろうけど、体内魔力を一致させる、それってつまり魂を同じようにするって言ってるのと変わらないくらいの難易度なのは常識。悪魔で魔法に長けているから言わせてもらうけど、一種の合体攻撃魔法ならともかく本来の合体魔法は無茶としか言いようがないって」

「ま、力がないからそういう無茶だって言われるような事もチャレンジしないとより強い奴に勝てることは出来ないから準備してるんだよ。本当にいざと言うときの隠し玉だ」


 俺がそう言いながら訓練を止めずにいると呆れた表情をしながら言う。


「せめて他に協力してくれる人いないの?」

「いない。何ならカエラが協力してくれるか?」

「お断り。そんな非効率な事をするぐらいならもっと強力な魔法を素直に作るわよ」

「それじゃやっぱりリルに頼むしかないな」

「……ねぇ。本当に戦闘科に入らないの?1年生ならまだ科を変えたりするのもいいんじゃない」

「前にも言ったが俺の基礎体力じゃ付いて行けない。付いて行けないのに無理に体を動かしたところでそれは修行でも訓練でも何でもない、ただ体を虐めているだけだ」

「確かにそういう風にも見れるかもしれないけど……」

「だから俺は戦闘科に行くつもりはない。普通の人間は普通の範囲内で鍛えればいいんだよ」


 今度は腕立て伏せをしようとするとリルが俺の背中に乗ってちょっとした負荷をかけてくれる。

 動画で見た事がある奴だ。動画とかならただじゃれているだけだろうが、リルの場合は本当にトレーニングの手伝いのように感じる。


「君は本当にトレーニングばっかり。もう少し学生を楽しんだら」

「同じ1年生に言われたくねぇよ」

「私は楽しもうとしてるわよ。買い食いしたり、友達としゃべったり、戦闘科だからって戦う事ばっかりしてるわけじゃないんだから」

「それはそうだろうけどさ……」

「むしろ君の方が珍しいわよ。授業でも何でもないのに体を鍛え続けるなんて……」


 心底呆れた感じでもう何か言う気にはなれなくなったらしい。

 俺はもくもくとリルに負担をかけてもらいながら筋トレを繰り返す。

 するとふと思い出したのカエラが口を開いた。


「そういえば今度校外学習あるんだけど、ちょっと意見聞かせてよ」

「校外学習で意見聞くってなんだよ」

「この辺の不良達のたまり場を掃除するんだって。なんか注意するところとかない?」

「不良のたまり場って何でそんなところ掃除するんだよ。校外学習と言うか、ボランティア?」

「そうじゃなくて、不良達を一斉に倒して警察に引き渡すんだって」

「掃除って不良自体をかよ。ずいぶん危険なことするな」

「ホントなんでこんなことを思いついたんだか。だから注意しておいた方が良い事とかあったら教えて欲しいの」

「……ちなみに何で俺に聞くんだよ」

「だって聞いたもん。君が不良のたまり場に行ってお金巻き上げているの」

「ち。誰から聞いたんだか知らないが、あの程度なら不意打ちに気を付けておけば問題ないだろ。それに俺みたいに1人で行くわけじゃないんだから仲間とフォローしながら進むんなら普通問題ないだろ」

「それじゃもし1人になったら不意打ちに気を付けろって事?」

「基本的にはそんなところ。でもたまにレアモンスターみたいに強いのがぽつぽつ出てきたりする時もあるから油断して誰彼構わず喧嘩売るのだけは止めておけ。とりあえずこの2つを守れば問題ない」

「不意打ちかー、確かに学校の授業だけじゃあまりそう言うのないかも」

「ところで授業ってどんな感じが多いんだ?」


 最近の戦闘科の授業はどんな感じなのか気になったので聞いてみた。

 するとつまらなそうに言う。


「基本的には最新スポーツ科学に基づいた体作りが多いわね。それから戦闘訓練もするけど、本当に死にそうなくらいまで戦う事はないし、剣道とか柔道みたいに一本取ったら終わりって感じね」

「……何かそれだけ聞いたらずいぶん楽そうだな。もっと血生臭い訓練とかしないの?」

「する訳ないでしょ、学校だから安全に強くなれてるのが売りなんだから」

「……殴る覚悟も、殴られる覚悟も、学んでいるとは言い難い」


 俺はそう思った。

 確かにスポーツと言う点で見れば当然の行為であり、当然の配慮だろう。

 だが彼らがいる戦闘科と言う場所は相手を傷付けることが前提であり、同時に傷付けられるのが当然だと俺は思っていた。

 きっと俺の考え方は古いのだろう。相手を殴るのだから殴られるのは当然。それは変わらない物だと思っていたがよく考えると確かに古い。


 現代の兵器開発では中長距離、つまり銃を撃ったりミサイルをぶっ放したりと安全地帯からどのように攻撃するのかが重視されている。

 今も剣や槍を使った戦闘が当然と言う人がいないのとおそらく変わらない。

 時代が変わった、技術が発展した、成長した。言い方を変えればそんなところか。

 だがそれでも変わらない物だと思っていたが、それは違ったようだ。


「いやいや、殴られる覚悟なんていらないでしょ。私は悪魔だから余計にそうなのかもしれないけど、相手が気付かないところから攻撃して倒した方がよっぽど楽でこっちで傷付かない。それってつまり生き残る確率も高くなるって事なんだから良い事でしょ」

「……そうかもな」


 俺にはそう言うしかなかった。

 一応戦う技術として存在していても、それを実際に使う場面はもうないのだろう。前世の頃に使っていた魔法や技術も今は誰も使う必要がないとなれば捨てられるのは当然。

 消えて、忘れて、失われる。


 もしかして前世の頃に作ったあの魔法の効果、なくても結果は変わらなかったのかもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ