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転生者の贖罪  作者: 七篠
202/211

政略結婚狙い

「あんた本当に何者なの?」


 ミルディンの屋敷から学校の校門前に転移して帰ってくるとカエラにそう言われた。


「何者って言われても……俺は俺としか言いようがない」

「そりゃそうかもしれないけど、あの用心深いグレモリーの当主に婚約を迫られるなんてちょっとした異常事態よ。何でそんなに悪魔にモテるの?」

「悪魔にモテるというよりは異形の存在に気に入られやすい性格してるんだよ俺は。実際普通の人間からは遠巻きに見られるし」


 ほんの一年前まで普通の人間をやっていたのに今では完全に異形側だ。

 DNA的には完全に普通の人間なんだけどな~。


「もう誰もあんたの事を普通の人間なんて思わないわよ」

「それは残念。まだまだ俺は弱いのに」

「……ちなみに誰を基準にして考えてるの?」

「理事長とかリルとか?」

「それ世界規模で考えてもトップじゃない。上から数えた方が早い人達じゃない」

「でもそれくらい強くならないと俺の悲願は叶わない。だから……恥を忍んでいろいろ手を出してるんだよ」


 本当は出来る限り巻き込む人は少ない方が良い。

 一人でも巻き込む人が少なければ被害も減る。

 だが……みんなの力を借りなければ強くなる事すらできない。


 それが今の俺の現状で、認めなければならない現実だ。

 だから恥をさらしてでも強くなり、今度こそあいつを倒さないとけない。

 そうしないと……未来が見えない。


「恥って失礼ね。本当は手を借りたくなかったって言う気?」

「まぁ……できれば」

「はぁ。あんたって本当にそういうところ古臭いわよね」

「ふ、古臭い?」

「古臭いでしょ。何でもかんでも自分一人の力で解決できるだなんてどこのマンガやアニメの主人公よ。もしかして危険な事が起きれば不思議な力に目覚めて助かるとでも思ってる?それとも新しい力に目覚めると思ってる?」

「そこまで思ってねぇよ。もしそんな事を考えてたら真面目に修行なんてしないって」

「でも人を巻き込むのが嫌だとか、手を借りる事が恥だとか、そんな事を考えているようじゃ絶対に強くなれないわよ。そんな事私でも知ってる」

「それは……分かってるけどよ……」

「分かってても納得できないって?本当に傲慢ねあなた。理事長達みたいに強ければ確かに助けなんていらないのかもしれないけど、私達はそんなに強くない。正直一年生だった時のあんたの方がよっぽどマシよ。力がないから色んな事を考えて、ロマン先輩とかにも力を借りて武器を作ってもらったりしたじゃない。あれも恥だった、やらなきゃよかったって思ってる?」

「思ってないって。先輩に作ってもらったシロガネには本当に助けてもらってる。だから恥だと思った事はない」

「それと同じ。力を付けたくて力を借りる事は何も恥じゃない。その事ちゃんと分りなさいよ」


 ……なんてこった。

 年下の女の子に、見た目通りの女子高生に説教された。

 非常に情けない状況だが……そうはっきりと言ってくれる者がいる事にありがたいと思ってしまった。


「なんかすまんな。気付かせてもらって」

「こんな事普通は最初から分かってるでしょ。いったいどんな生き方したらそんな事も分からなくなるんだか」


 呆れながら言うカエラに渇いた笑みでごまかすしかない。


「そうね。あなたは自分の命を軽く見過ぎているわね」


 突然の声に俺達はその声がした方向にばっと顔を振り向いた。

 そこに居たのはリリム。

 何故リリムがここに?


「こんにちわ。こうして直接顔を合わせるのは久しぶりね」

「……お久しぶりです、リリム理事長。突然どうしました?」

「色々用事はあるけど……いくつかの事実確認っと言ったところかしら」

「事実確認?」


 一体何を確認する気だと思っているとリリムはハッキリと聞く。


「アスモデウスと婚約したって言うのは本当?」

「はい事実です」


 はっきりとそういうとリリムはため息をつく。

 カエラの方はこの後どうなるのか、自分は巻き込まれないか怯えている。


「そう……事実なの……はぁ」

「知りたい事はそれだけですか?」

「まぁ一番はそれね。あ~あ、私達女悪魔の中で一番結婚できないと思って居たアスモデウスが一番先に婚約するなんて思ってなかったわ~。絶対先に結婚して煽ってやろうと思ってたのに。逆に煽られる事になって不満」

「愚痴だけなら眷属の方にしたらどうです。みなさんの方がよっぽど親身になってくれると思いますよ」

「そんなのとっくにやったわよ。それからもう一つ聞きたいのだけど」

「なんです」

「他に悪魔と契約したいとは考えているの」

「契約、ですか?それならカエラとはすでに契約しているので――」

「そうじゃなくて、結婚を見据えた契約よ。他にする予定はあるの」


 悪魔の中で結婚を見据えた契約か。

 一応ミルディンがその候補の中に入っているが、もう少し時間がかかるだろう。

 早ければ今頃家族会議をしているかもしれないが普通に考えればダメというだろう。

 あのシスコン兄貴がそう簡単に俺との婚約を許してくれるとは思えない。そして義理の姉がそう簡単には許さない。

 下手すれば甥っ子もダメって言ってくるかもな……


「そういう意味ではアスモデウス以外契約していませんし、する予定はありませんよ」

「それは良かった。それでは私もあなたのハーレムに入れてください」

「…………はい?」


 今こいつなんて言った?


「すみません。どうやら聞き間違いが起こったようです。誰が誰のハーレムに入るって言いました?」

「私、リリム・ルシファーが佐藤柊のハーレムに加わりたいと言いました」


 ……聞き間違いじゃなかった。


 この事を一緒に聞いてしまったカエラも目を見開きながら俺の事を見る。

 一体どういうことだ、説明しろという強い意志を感じるが俺にだって分からない。


「……何でそうなった」

「あまり気にしないでください。別にあなたに特別な感情がある訳ではありません。面白いと思ってはいますが愛してはいませんよ。これはただの政略結婚です」

「政略結婚?何の権力もない俺に??」

「簡単にいってしまえば投資に近いかと。現在のあなたは例の神を倒すためにあらゆる勢力の力関係を無視して仲間に引き入れている。しかもうちの魔王も一人仲間にしたようですし、それなら投資として私の身を差し出せばより大きな権力を得る事ができるのではないかと考えた結果です」


 大雑把に言いたい事は分かった。

 つまり理事長や魔王、リルや神薙一など様々な権力者とパイプを繋げつつある俺を利用したいと考えている訳だ。

 だがそれでもいくつか分からない事がある。


「でもいきなり結婚を見据えた契約は気が早くないか?お前の予想通りになるとは限らないだろ」

「それは私も思いましたが……その辺りは例の神対策でもあるのですよ。私達では勝てない可能性の方が高いので、あなたには確実に勝っていただけるよう支援するという意味でも私の身を売る事に決まったのです」

「要らん。支援は受け取りたいがリリムの身体は要らん。もっと自分を大切にしろ」

「あら、あなたなら大切にしてくれるかもしれないという考えはもちろんありますよ」

「先立つ物もないちょっと周りより少し強いだけの俺にそういう意味での力は全く備わってない。俺が出来るのは精々目の前の敵を倒すくらいだ」

「それで充分です。という訳で本契約を結びませんか?」

「断る。そういう話は理事長と相談してくれ。一応俺は理事長の直属の部下なんだ。勝手に契約したらそれこそ怒られる」


 理事長の名を出しようやく少し黙った。

 それにしても何で俺に身もよこそうとするんだよ。


「そういう事なら仕方がありませんね。この話は水地雫に持って行きますか」


 仕方ないという表情を隠そうともせず俺達の間を通るように学校に入っていった。

 おそらく理事長に今回の話を通すつもりなんだろう。

 今のこの場でホイホイと契約しなかったのは英断のはずだ。

 魔王の身内に対して警戒してもし足りないだろうからな。


「…………驚いた~」


 そう言いながら力が抜けてへたり込んだのはカエラ。

 突然ルシファーの妹が現れればこうなる方が自然かもしれない。


「とりあえず余計な邪魔が入ったがこれで仕事は終わりだ。なんか食べて帰るか」

「ハンバーガー奢って~」

「はいはい」


 仕方ないなと思いつつ近くのマックに向かうのだった。

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