グレモリーからも相談された
「……アスモデウス様とご婚約されたのですね」
カエラを連れてミルディン・グレモリーの元に来ていた。
今日の依頼はドリームキャッチャーの修理。一部の装飾が壊れていたり、紐の部分が痛み始めたので修理してほしいそうだ。
相変わらず素材はミルディンが用意するので人件費だけもらうのだが、その額がおかしい。
もちろん少ないという意味ではなく多すぎるという意味でだ。
何も知らない連中からすれば美味しい仕事というかもしれないが、真面目にやっている側としては必要以上に受け取る必要はない。
「ん。まぁな」
ただの世間話として普通に肯定した。
その事に驚くカエラだがミルディンはどこか悲しそうだ。
「ちょ、え!?あんた魔王様と婚約したって何よ!!」
「何って……別に誰と婚約しようが構わないだろ」
「そうかもしれないけど!!どうやって魔王様と婚約できたのよ!!」
「どうもこうも最初から知ってただろ?一緒にパーティー行った時にアスモデウスの奴に絡まれてるって」
「そうだけど!!そうだったかもしれないけど!!でもあの時魔王様に対しての態度とか全くなかったじゃん!!魔王どころか女性として接している感じすらしなかったじゃん!!」
「いや、普通にあのウザさはキツイぞ」
なんせ結婚するつもりはないのに結婚してといいながら迫ってくるのだ。
疲れるし面倒臭いと思うのは当然だろう。
「……ですが私も意外です。アスモデウス様が柊様に猛アタックをしているのは聞いていましたし、柊様があしらっていた事も知っていたので」
「まぁその辺は……理事長達に色々吹っ切らせてもらってさ。もう傲慢に、強欲にいかせてもらう事にした。開き直りって言ってもいいかもしれないけど」
ちょっと気まずく、本当にこれでいいのかと、笑ってごまかしながら言う。
責任を持つ事でさらに強くなりたいとは思ったが、まさかいきなり婚約するという形で責任を持つとは思っていなかった。
この辺は……やっぱり前世の後悔もある。
再びみんなと集まって賑やかに暮らしたかった。そんなありふれた欲が。
「結局これが俺の欲だったって事だと思う。理性的にダメだって思ってても結局手を出しちまった。情けねぇ」
自分の欲もコントロールできてない事に未熟さを感じる。
そのくらいはコントロールできるようになっておきたかったな~。
「……ところでですが……」
「ん?どうかした」
「……アスモデウス様とはもう一線を越えたのですか?」
「抱いたぞ」
「なっ!?」
ミルディンの問いにあっさりと応えるとベレトの方が動揺した。
なんだか興味深そうに見るミルディンは言う。
「……差支えが無ければ、教えていただいても?」
「まぁ……具体的に言うのはあいつが嫌がるだろうから簡潔に言うと、あいつどこまでも残念だった」
呆れながらその日の夜を思い出す。
リルやリーパが空気を読んで俺と二人っきりにしてくれたところまでは良かった。
しかしその後、アスモの奴は緊張からなのかいきなり勝負下着の感想を聞いてきたり、初めてだとまるわかりの行動でガチガチに緊張しながらリードしようと頑張っていた。
緊張しながらでもリードしようとした努力は認めよう。
でも結局緊張しすぎて顔を真っ赤にして動けなくなるくらいなら無理しなくていいと思う。
結果俺がリードする形で契を結んだ。
その間もアスモは幸せそうにしていたが年下にリードされたという事実が恥ずかしかったらしい。
あるいは俺のいいように鳴かされ続けた事が恥ずかしかったのかもしれない。
「初めてのくせして無理にリードしようとするし、緊張してガッチガチのくせして無理するし、別に書だから同行みたいな感情はないんだから自然体でいればよかったのに。だから最後まであいつは残念だったよ」
俺の中であいつの評価は残念魔王という感じ。
実力はある癖に恋愛ごととなると本当に弱いのだから本当にこれでいいのかと思う。
「……そうでしたか。他に契約をしようと考えている悪魔はおられますか?」
「今の所はいないかな。契約するって事は戦いに巻き込むって意味でもあるし、ある程度の実力は欲しいかな」
ただ単に愛し合っているとか、俺が美人だと感じたからと契約を結んでいる訳ではない。
どうしてもあいつに勝つための力が欲しいというのが一番の理由だ。
だから結婚ではなく半端に婚約という形にしてもらっている。
単に経済的な問題だけではない。
「……戦闘では役に立ちませんが、様々な助言ならできますよ」
「それ普通に占ってもらうだけでも十分助かってるよ」
「……ですが占ったのはあの一度だけ。あなたと因縁のある相手と再び対峙するというだけ。他に占ってほしい事はないのですか?」
「他って言われてもな……特に思いつかない。修理完了っと」
話ながら修理しているとすぐに直った。
壊れ始めてすぐに修理できたから直す部分も少なく済んだ。
「修繕費は……いくらぐらいが妥当だ?」
「今回の場合修理する箇所も少なかったから……1万2千円ね」
「だってさ。前みたいにとんでもない額渡すなよ」
何て警戒しながら言うとあっさりとミルディンは金額ピッタリを渡してきた。
「……本当にこれだけでいいんですか?」
「普通は1万円でも高いと思うはずなんだけどな。これが貴族と平民の金銭感覚の違いって奴なのかね?」
そう言いながら金はカエラに渡す。
ぶっちゃけ今の俺はそんなに金を必要としていない。
ある程度はバイトで金が出来ているし、普段からそんなに金を使うほど散財癖が付いている訳でもない。
だから自然と金は溜まっているので今すぐ大金が必要みたいな事がない限り十分やっていける。
「……ところでですが」
ミルディンが不安そうに聞いてきたので顔を向けると覚悟を決めたように言う。
「……私も、佐藤柊さんと婚約したいと考えてるのですがいかがですか?」
その言葉にカエラはかなり驚いていた。
悪魔の貴族の当主が求婚して来たのだから驚くなという方が無理かもしれない。
でも俺は彼女の求婚を色んな意味で悩んでいた。
「……やはり戦う力が無ければ婚約していただけませんか?」
戦う力。
その言葉を聞けばほとんどの物が直接殴ったり蹴ったり、あるいは武術を収めているか、または武器を使えるか。そう言った事を考えるだろう。
しかし少し視界を広げてみると戦う力とは色んな意味を含める事になる。
例えば戦争で言えば食料や銃弾などの武器を補給するための行動も戦う力と言っていいだろうし、怪我をした後の治療なども含まれる。
それにミルディンの占いはかなり優良だ。
彼女の力を俺に起こる不幸やケガに限定して占えばその日本来起こるはずだったケガや事件に巻き込まれないよう知る事ができる。
戦闘中ならもっと限定的に相手の攻撃がこのタイミングで来ると分かっていれば避ける事はたやすい。
何せどんな攻撃が来るのか分かっているから。
だから彼女に戦う力が全くないとは言い切れない。
だがどれだけ優れた力でもデメリットは存在する。
それこそが夢占いという占い方法。絶対に当たる不幸や悲劇を観測するために一体どれだけのエネルギーが必要なのか、得意な分野でないので想像もつかない。
そのエネルギーを少しでも節約するために眠るという行動を強制されているのだろう。
だからミルディンの身体はどうしても弱いし、女性という点を考えても非常に手足が細い。
あとは単に彼女の家族がそれを認めるか、という単純な疑問も残る。
特に彼女の兄は過保護だ。
幼いころから貧弱だった妹の事を気にかけていたのは分かっているし、今も心配しているのは間違いない。
だからミルディンの判断だけで簡単に婚約する訳にはいかない。
「ミルディン。その誘いはとても嬉しい。でもその事は他の家族とちゃんと相談したのか?」
「……それは……」
「俺はお前と婚約する事そのものは嫌じゃない。でもお前はグレモリー家の当主であるし、俺は婿入りするつもりはない。そうなるとグレモリー家にとっても非常に大きな損失が発生する。その事ちゃんと考えたか?」
「…………」
「でもお前の告白が嬉しかったのは本当だ。だからみんなに相談した後にもう一度告白してほしい。悪いな、せっかく伝えてくれたのに」
「……いいえ、私も少し急ぎ過ぎました。準備が整いましたらその時に、改めてご連絡します」
「ああ、よろしく頼む。それじゃいい夢見ろよ」
「はい。ありがとうございました」
こうして今日の仕事は終わった。
なんて思っているとカエラは恐る恐る聞いてくる。
「ところでさ、本当に結婚するの?家の問題が終わったら」
「出来ればな。あいつがそれを望んでるし」
「……柊って本当に良く分からない」
「何が分からないんだ?」
「大した事じゃないわよ」
カエラにそう言われてしまい何がよく分からないのか分からないままになってしまった。




