脆弱な人間
『行かないで!!』
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今日もいつもの夢を見て目を覚ます。
今日から学校だと思うと少し憂鬱だが自分で選んだのだから義務は果たす。
いつものランニングを終わらせた後、シャワーを浴びて制服に着替え、飯を食ってまた軽いランニングをしながら学校まで向かう。
学校までは走って15分くらい。途中信号で止まったりするので早朝のランニングに比べれば非常に楽だ。
学校に近付くにつれ、同じ制服を着た生徒達が同じように校門から学校に入る。
少し遅れたがこの学校に着いて詳しく説明しておこう。
私立八百万学校。
ありとあらゆる種族の子供が集まり一緒に学校生活をおくる学校。
そして各種族のために何とか科は非常に多く、道具作りや建築などの技能科、パソコンを使った授業が多い情報処理科、スポーツに関する知識を専門とするスポーツ科なんてものもある。
この中で俺は普通科、つまり普通に勉強するだけの科に入ったが、この学校の最大の特徴である戦闘科について詳しく説明しておく。
戦闘科。
文字通り戦闘に特化した授業を行っていく最も厳しい所だ。
身体を鍛えるのはスポーツのように相手を殺す一歩手前で止める物ではなく本当に殺すつもりで相手を攻撃する、相手を殺すための魔法を学ぶ、使用する武器を正しく使うための授業もある。
武器に関しては現代兵器である銃やミサイルのような物の作り方や使用方法だけではなく、剣や槍と言った古い武器なども学ぶ。
何故現代の戦争では使わないような物に関しても勉強するのかというと、実在するからだ。伝説の武器と言う奴が。
伝説の武器と言うのは簡単に言うとゲームに出てくるエクスカリバーだの、ゲイボルクなどのファンタジー系のゲームをしていたら一度は耳にしたことがある武器が実在する。
と言ってもまぁ大抵の武器はどこかのお偉いさんが管理していたり、どっかの海外の貴族が所有しているため、ちょっと調べれば簡単に今誰が持っているのか分かる。
そう言った武器を将来受け継ぐ、もしくはすでに受け継いでいるエリート様たちのために剣や槍などと言った武器の訓練も行われる。
普通の学校ならそういう時は竹刀などを使うのかもしれないが、この戦闘科では真剣を使う。
つまり斬られれば痛いでは済まないし、鉄の塊でもあるのだから殴られただけでも重傷は免れない。
それなのに本当に身体の一部を失ってしまうかもしれない物を使うとか、正気とは思えない。
まぁそのせいか、戦闘科にいる連中は一クラスか二クラスいれば多い方だ。
それに戦闘科にはいる連中のほとんどが人外の中でも特に血統がいい連中ばかり。
例えば聖書に乗っている悪魔の子孫、例えば誰でも知っているような英雄の子孫、超有名な妖怪や魔物などなど、化け物しかいない。
そいつらは全員人間から見れば核ミサイルを持っていたとしても勝てないとはっきり分かってしまうほどの強さ。そんな連中だからこそ本物の武器を振り回してもいいのかもしれない。
そしてそんな連中の最大の誇りが力だ。
力を持つ者が支配する、強者が絶対っという考え方が非常に強い。
だからこそ血統の良い連中は力がある事が当然である。力がない事で家を追い出されたり、分家落ちする事もあると聞く。
それらは非常に屈辱的な物であり、彼らにとって力がない烙印ほど恐ろしい物はない。
だから戦闘科は血統のいいボンボン連中と言うだけではなく、弱者ではないと証明するための学科でもある。
まぁそんな連中だから俺達弱者の事を見下している奴は非常に多い。
特に悪魔の貴族なんかは顕著だ。貴族と言う地位も高い彼らは平民などの弱い立場の者達を見下している。
その代わり強者に対しては誠実であるところは実力至上主義と言ったところか。
そんな様々な意味で普通とは大きく違う戦闘科なので普通科に通う俺には関係ないと言いたいところだが、実は遠いところで関係があったりする
それが生徒会長の存在だ。
生徒会長となるとそんな戦闘科からも認められる必要があるので、大抵の生徒会長は戦闘科の中から選ばれる。
ちゃんと生徒会長選挙は行われるが裏ではいったいどんなことが起こっている事やら。実際裏では大人の選挙の様に裏金が動いていた、なんて噂があったくらいだ。
特にこの学校で生徒会長をしていたっと言うのはかなりのステータスらしく、生徒会長=学校内で最強の印象も強い。
だから戦闘科の連中は本気で生徒会長を狙う。
まぁ俺は普通科だからそんな事に参加するつもりはない。
そんな事よりも普通科で最低でも他種族の平均値にまで自身の体力や自己保有魔力の増加の方が大切だ。
自己保有魔力とは自身の体内で生成できる魔力の事だ。
保有魔力とか体内魔力とか言い方は様々だが、この自己保有魔力が多ければ多いほど魔法を使う種類や攻撃量の高い魔法が使えるようになる。
魔法の発動方法は基本的に自身の魔力と周囲の魔力、マナと言われる大気中にある魔力を混ぜる事でより効果を上げる事が出来る。
自身の魔力だけで強力な魔法を繰り出すのは非常に難しい。それこそ魔力量が膨大な悪魔の貴族くらいの物だ。他の種族だと神仏や超有名どころくらいか。
それくらい魔法を自分の魔力だけで発動するのは大変なのだ。
なので普通は自分の魔力だけで使う事はない。
戦闘となったらマナの奪い合いになる。そんな奪い合いで活躍するのも自己保有魔力だ。自己保有魔力が大きい方がマナを集めやすい。
その原理は引力に近い。
大きな自己保有魔力に引っ張られるマナ、そして自己保有魔力が多ければ多いほど一度に集まるマナも非常に多くなる。
そのため自己保有魔力が多い方が断然強い。
今の俺もそれなりに鍛えてきたが、所詮は普通の人間が努力でどうにかなるレベルでしかない。
しかもこの身体はそこまで自己保有魔力が多い訳ではないので魔法メインで戦うことは出来そうにない。
この学校には行ったからと言って自己保有魔力が増えるわけではないが、増やす努力はし続ける必要がある。
この辺りも調整次第か。
これからは魔力方面も鍛える必要があるな。
ただでさえ弱いのに手数も少ないとなったら笑えない。
おそらく体力に関しては成長できる上限に達しつつある。ならその体力を維持しながら少しずつ手数を増やしていく段階だろう。
そうなると朝のランニングは続けて放課後は魔力方面を鍛えるのが良いな。
よし。今後はこの方向で身体を鍛えていこう。
とりあえず魔力方面の鍛え方で昔の理論より効率のいいやり方がないか探すか。
と言っても基礎中の基礎だからそう変わらないと思うが。
早速図書室に行って魔力関連の本を漁る。
だが書いてあることはやはり昔とそう変わらない。
基礎として自身の中にある魔力を感知し、そこから魔力を全身に流す感覚を掴む。そこから魔力の流れを少しずつ速くしながらそれを長時間維持する。
持続時間に関しては特に指定はなく、少しでも長く維持する事が出来ればそれでいい。
問題は自分の中にある魔力を自分で気付く事が出来るかどうか。
魔力が大きい種族なら気付く事が出来るが、人間のように魔力がない方が普通の種族だと魔力量も小さく、見つけにくい。
だが小さい、見つけにくいだけで全くないわけではない。
見つけるのが大変なだけだ。
…………正直自分の力だけで見つける事が出来るとは思えない。
というか見つけられるのであればとっくに見つけて自己保有魔力の訓練もとっくにしてる。
それを今までできなかったのは単に自力では見つける事が出来なかったからだ。
だからこそ新しい資料や論文から小さな自己保有魔力を見つける事が出来るものがないか、図書館で調べていたという方が正しい。
それに補助があれば見つけられない事もない。
補助と言うのは魔力に敏感な種族に手伝ってもらう事。
それこそ魔法使いと契約して自身の魔力を発見してもらうのが一般的だろう。悪魔と契約しないのは単にリスクの問題だ。
下級悪魔、聖書などに記載されていない名もない悪魔達の場合詐欺師のような振る舞いをしてくる可能性が非常に高い。逆に悪魔の貴族の方が値は高いが確実にこちらの依頼をこなしてくれる。
と言っても悪魔の貴族とパイプを持つ事が出来るのは昔から名のある魔法使いの家系や、金持ちばかり。そうでない俺の場合パイプを持つのは不可能だろう。
そうなるとクラスで魔法が使えそうな子に片っ端から頼んでみるしかないか……
確かクラスメイトに悪魔の血を引く子がいたな……その子に頼んでみるか?
悪魔でよくある等価交換の考えならぶっちゃけまだ楽。金払って終わりになる可能性が高い。だがその悪魔との雑種が俺の願いを叶える事が出来るほどの悪魔なのか?
ぶっちゃけ悪魔業界の貴族と言うブランドは非常に大きい。
言ってしまえば十分な報酬を用意する事が出来れば何でもやってくれる便利屋だ。貴族と言う誇りやらプライド、そう言ったブランド価値を下げないために彼らは行動し、次期当主への教育は徹底している。
だからこそ人間はそのブランドによって確実に依頼を叶えてくれる貴族と契約する事が多い。安いからと言って詐欺まがいの契約をされてはただ損をするだけ。バカな目に合わないためにもこのブランドは成立していると言えるだろう。
と言っても貴族悪魔を呼び出せるのはどっかの政治家みたいに影響力のある人か、昔っからそういう存在とかかわりがある家くらいなんだよな……
一見さんお断りというか、俺みたいな平民じゃ誰かに紹介してもらう事すらできないからな……
それ以前に報酬を用意する事すらできないか。
結局八方塞がりな件だと思い、俺は仕方なく自力で自己保有魔力を見つける事が出来ない考えるのだった。