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転生者の贖罪  作者: 七篠
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「なぁリル。みんなが言ってた事本当に当てになるかな?理事長と先に契約しろって」

『う~ん。どうだろう……?私もよく分かんない』


 一応みんなが提案してくれた先に理事長と契約するという案を改めて相談してみるが、それが最善解とは思えない。

 もっと他にいい方法があるんじゃないか、そう思う。


 何故そんなに理事長との契約を渋るのかと言うと、単に独占力が強い事を知っているからだ。

 前世の頃から理事長は人への執着心が強く、独占してしまうのではないかと考えてしまう。

 やはり蛇と言う特性も持ち合わせているからなのか、気に入った物に対して強い執着心を持ちやすく、そして他の者に触れられる事を極端に嫌う。

 もし俺が本当に理事長と結婚しようものなら何かしらの行動制限をかけられる可能性も捨てきれない。

 流石にそれはないと思いたいが……


『でも効果は確実にあるよ。ちょっと嫌だけど』

「先にリルと契約するって約束したもんな」

『やっぱり方法変える?』

「それも手だが……経費が掛かるってのとリスクが絶対高まるんだよな。契は難易度が高い限り経済的な部分のダメージは少ないから好きだったのに。あとそれを口実にエロい事出来たのに」

『ご主人様のエッチ~』


 そんな軽口を放しながら俺達は家に着いた。

 いつも通りに過ごし、今夜もまだ健全に寝る。


 ――


 気に入らない気に入らない気に入らない……


 彼、佐藤柊が私、水地雫に本契約の話を聞かされてから落ち着かない。

 もちろん正体は分かっている。

 柊君がリルとエッチな事をするという嫉妬と怒りだ。


 どちらも単純で分かりやすいが、リルと一緒になる事に対して一切迷いなく一緒になると宣言した事。そして私ではなくリルを選んだことへの怒り。

 何度自己分析をしても子供っぽい。恋をした記憶はないがここまで子供っぽい感情で嫉妬や怒りを感じていると思うと少々恥ずかしい。

 でもどちらも本当の心なのだからどうしようもないのが厄介なところ。

 本契約を結ぶのは良いがやり方がまさか契なんて……!


 そりゃ彼の説明や理由に関しては納得できる。むしろ彼の言う通り効率という面だけで見れば納得の選択と言ってもいいだろう。

 少々極端な説明だが、互いに認め合い、体さえあれば契約できるのだから心が通じ合っているのであれば当然の選択肢だ。


 でも……それでも私の感情が邪魔をする。

 彼は私の物だ、他の誰にも渡したくないと心が叫ぶ。


 何で?何でそんな風に思ってしまうの??

 涙がお父さんと呼ぶから気になっていただけだったのに、いつの間にか本当に彼の事を夫のように思ってしまっている。

 そして彼が私の隣に居てくれるのは本当に心地よく、まるで昔から一緒に居たかのように本心をさらしだす事にためらいがない。

 どれだけ本心を見せても彼は否定せず、少し困った笑みを浮かべながらも肯定してくれる。

 否定するのは本当に彼がダメだと感じた時だけでそれ以外は認めてくれる。


 たった一年くらいの関係でしかないのにもう既に私の心を満たす。

 涙も私の心を優しく満たしてくれるが、彼とは違う。

 やはり家族から得られる心を満たす感覚と、男性からの物は違う。

 ようやくこの間添い寝までは出来たがあの時の幸福感は凄かった。

 ただ一緒の空間に居ただけなのに安心する雰囲気と心臓が高鳴る興奮が矛盾する事なく共存していたのだから本当はあの日の私はかなり興奮していた。

 好きな人と共に夜を過ごす、それだけの事が非常に嬉しい。

 だから彼が私とは違う女性とそういう事をするのは……許せなかった。


「お母さん?今大丈夫?」


 そんな事を言いながら涙が入ってきた。


「どうしたの涙?何かあった?」

「その、お母さんの方が何かあった気がしたから……」


 自信なさげに言うがそれは正解だ。

 多分私は初めて恋という物をしているんだと思う。


「涙……ちょっと一緒に居てもらってもいい?」

「それじゃ一緒にベッドで寝ていい?」

「もちろん」


 そう私が言うと涙は喜んでベッドにもぐりこんできた。

 本当に母親思いのいい子だ。

 私が不安を感じていたりするとすぐに察して自分なり私を癒そうとする。

 少し子供っぽい行動が多いのはどうしても仕事で一緒に居れなかった分甘えているところもあるんだろう。


 だがそれでもすべてを正直に答えるのは少し怖い。

 だからほんの少しだけぼやかす。


「お母さんね、もしかしたら初めての感情に戸惑ってるのかも」

「初めて?」

「……恋……しちゃってるのかも」

「それお父さんの事?」


 ……何故バレた。


「いやバレバレだよ。お母さん普段からお父さんの事すごく好きだよね?今も何でバレたのか分からないって顔してるけど、恋って単語でお父さんの事だってすぐに分かっちゃったよ」

「……そんなに分かりやすい?」

「凄く分かりやすい。でもお母さんがお父さんの事が好きなのは自然な事じゃないの??」

「それは……人の捉え方によるかな。全員が全員恋愛結婚って訳じゃないんだから」

「そうだとしてもお母さんはお父さんの事すごい好きなのは分かるよ。最近は特にお父さんの話ばっかりだったし」

「何と言うか……娘に恋愛感情がバレバレなの恥ずかしい」


 そう言いながらつい背を向けてしまった。

 しかし涙はそんな私の逃げを許してくれない。


「ダメだよお母さん。そんな調子だとリルさんとかリーパさんとかに取られちゃうかも」


 その言葉に私は大きく肩を震わせてしまった。

 それで何かを察したのか、涙は恐る恐る私に聞く。


「もしかして……本当に先越されちゃった?」

「……今度リルト契を結びたいって言われました」

「え!?契って確か結婚みたいな奴だったよね!!ちゃんとは覚えてないけど!!」

「大雑把に言えば……そんな感じ。リルと本契約を結びたいから契たいって……」


 結局隠し通す事ができず言ってしまった。

 すると涙は大真面目な雰囲気で私を無理矢理転がして顔を合わせる。


「お母さん。ここは少し強引でもいいからつなぎ止めないとダメ。本当に他の女性ひとにお父さんられちゃうよ」


 その言葉に私は血の気が引いていくのがはっきりと分かる。

 このままあの彼が別な女性と繋がり、私の前からいなくなると思うと悲しくして仕方がない。

 そして私の前からいなくなった後、彼の隣に幸せそうにしている女性だれかが居たら発狂してしまいそうだ。


「そんなに怖いなら嫌ならお母さんの方からも動かないと。お父さんも優しいけど結局私達はお父さんと呼んで慕ってるだけ、本当の家族って周りの人達からも認められるには色々私達からも行動しないと」

「で、でも年の差とか……」

「私達ドラゴン。人間の年齢に合わせる必要もないでしょ。私はあんまり変わらないけど。他のドラゴンの知り合いの人達なんて数百歳差があっても気にせず恋愛してるんだからお母さんも気にしすぎちゃダメだよ。それに……」

「それに?」

「……お母さんが頑張ってくれないとお父さんの事、本当のお父さんとして呼べないじゃん」


 そう頬を少し膨らませながら言う。

 この子も彼の事を本当の父親として迎え入れたいという気持ちがある。

 それなら、それならほんの少しだけ……勇気を出してみるべきかもしれない。


「…………そうね。少しだけ頑張ってみようかな」

「少しじゃダメ。お父さんの事ちゃんと頑張らないと、リルさんとかいろんな人に取られちゃうかもよ」

「そうね。彼は魅力的だから頑張らないと。背中を押してくれてありがとう。涙」


 覚悟は決まった。

 まだ年の差とか、彼自身は私の事をどう思っているのか分からないけど、それ当然の状態だ。

 相手が自分の事をどう思っているのか分からなくて不安なのは当たり前。

 娘が背を押してくれたし、応援してくれている。

 だから頑張ろう。


 まずは……デートからでいいのかしら?

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